マンガ

事実は小説よりもマンガ的。小説家・文筆家系マンガが描く漫画のような物書きたちの日々

ペンは剣よりも強し(物理)

小説家が主人公・メインキャラクターを務めるマンガを紹介するコーナーです。媒体がマンガなので漫画家ものより数は減るんですが、小説でマンガを表現するよりは遥かに簡単なのでいくらかは作品があり、実際に作中で文章が披露されて漫画家さんの意外な文章力が披露されることもしばしば。
プロはもちろん志望者もよしとしています。小説家兼ルポライターとかもアリですが、ガチライター勢は(数があるなら)別で作るべきかな、と思ってます。

響 〜小説家になる方法〜(柳本光晴)

募集規定を守っていないとして、文学誌「木蓮」編集部のゴミ箱に放り込まれた一束の原稿。「お伽の庭」と題されたその小説を若手編集者の花井ふみが拾い上げたことから、鮎喰響の才能と兇状は世に知られ、文学界のみならず世間を大きく騒がせることになる。マイペースかつ暴力的な「天才」女子高生小説家を描き、マンガ大賞2017を受賞したヒット作。

第54話”NG”(7巻収録)より

時々適当なことも言いますが、自分のルール(作中の言葉で言えば「信念」)に従い世間の常識や良識、思いやりを容赦なく無視する響のキャラクターは相当強烈。異常な才能を持ちながら世間的な成功や優越感に興味を示さず、ただ面白い小説のみを求める彼女の姿勢は、「凡人」たちと対比的に配置されることでタイトルに対する作者の回答を暗示しています(たぶん)。これだけはっきりした哲学を持った人間はあまりおらず、議論してみたい気がしますが絶対喧嘩になり、最終的にボールペンで目を狙われる気もします。


小説の内容に関してはあらすじ以上の描写はされず、彼女の作品の凄さは登場人物の感想(と、響の行動/言動からの想像)によってのみ読者に伝えられるため、人によっては欲求不満を覚えるようです。そもそも「万人が褒める小説」というのがまずありえないので、これはこれでいい気が僕はしますが……。
どーでもいいけど42キロ(2年時点)しかないのに、成年男性をノックダウンする蹴りを放つのは地味にすごい。全13巻で完結。

試し読み コミックシーモア

100万円の女たち(青野春秋)

ルールは多くない。売れない小説家・道間慎は、女たちの家事一切を受けもち、女たちの部屋を訪れても、事情を探ってもいけない。
女たちは毎月所定の日に、道間に対して100万円を支払う。
「招待状」を出した何者かは、なぜ彼女たちをこの家に誘ったのか? そしてこの奇妙な共同生活の行末は? 重層する複数の謎とショッキングな展開で読者を絡め取る、新時代のシェアハウス・サスペンス。

浮遊感のある非現実的なストーリーが魅力。過度にエロチック、あるいは暴力的にならない抑えた絵がうまく作品全体のトーンを締めています。

若干小説業界批判的な部分もありますが、道間の書いている小説がどういうものなのかイマイチわからないので、漠然と「あのへんの話をしてるのかな」ぐらいで終わります。評論家の気持ち悪さみたいなのはよく出ていて、具体的なモデルがいるのかなとか思わないでもないです。全4巻で完結。

試し読み コミックシーモア

VANILLA FICTION(大須賀めぐみ)

ゲームの勝利条件は、とある島に行ってそこで少女とクッキーを食べること――大ヒット作家でありながら「ハッピーエンドを作れない」ことに悩む小説家・佐藤忍。彼はある出来事をきっかけに世界の命運を賭けた双六ゲームに巻き込まれることになる。
機転をきかせていくつもの危機を乗り越えていく彼だったが、次第に「どうあがいてもバッドエンド」のゲーム自体に苦しめられていくことになる。最後に彼が捻り出す「ハッピーエンド」とは――?

伊坂幸太郎作品のコミカライズで好評を博した大須賀先生、満を持してのオリジナル作品です。結構グロめ。

サスペンス・アクションとしてグイグイきます。佐藤は状況を小説に変換し、相手の「バッドエンド」を想像して活路を見出していくんですが、その際表示される小説がちゃんと面白そうなのもポイント高いです。ラストはちょっと駆け足気味。

江波くんは生きるのがつらい(藤田阿登)

大学入学早々ぼっちとなり、しかし胸に私小説家の野望を抱く青年・江波くん。そのためには、そう――ドラマチックで文学的なヒロインとの出会いが必要だ。しかしとかくこの世は生きづらい……過剰な自意識とシチュエーションへの理想に目がくらみ、目の前の恋愛フラグをことごとくヘシ折っていく文学青年の記録。

第1回”江波くんは生きるのがつらい”(1巻収録)より

まあ概ねギャグ寄りラブコメ(?)なんですが、微妙に心当たりがないでもない思春期の青少年特有の痛さみたいなのもあって、ほんのりビターな味わいもあるのがアクセント。読んでる分にはあまりつらくないですが、例外的に「あっ、これは生きづらい」と感じることもあります(第5回とか)。




私小説作家はつまり自分の人生を題材にするので、要はインスタに投稿するためにパンケーキ屋探すような話です。リアルにこんな感じだったらほんとに誰にも相手にされない可能性が高いんですが、なぜか彼に好意を向けてくれる女性がたくさん現れるあたりはまあマンガ。この非常に内気で受け身な主人公が変化して誰かにアプローチするようなことになったらその私小説は読んでみたいな、とか思います。

官能先生(吉田基已)

ある祭りの夜、狐の面をかぶった女との偶然の織り成す逢瀬は、「二度と遭えない」代わりに美しい一瞬の恋を鳴海六朗の心に残した――はずだった。あっさり再会してしまった彼女の名前は雪乃、22歳の彼女の前で40男の鳴海は常に少年のように顔を赤らめる。一方、小説家としての彼の才能を高く評価する編集者は、鳴海に官能小説の執筆を持ちかけてくる。恋と仕事と夢の狭間で奇妙な情熱に取り憑かれていく男の恋はうまくいくのか? ゆっくりした刊行スピードながらも、熱い支持を集める大人のための恋愛作品。

#0 プロローグ(1巻収録)より

鳴海がすごく変態っぽくていいです。眉毛が濃くて凛々しい顔立ちの一人称が「僕」な煙草吸うメガネなんですが、娘のような年齢の相手への恋愛がストレート過ぎるし考えてることがなかなかに気持ち悪く、絶妙なバランスで二枚目と三枚目の間に仁王立ちしてるような主人公ですね。これと敬語ツンデレクールが(たぶん)昭和初期に恋愛する話をこの作者が描いて面白くないわけがない!


プロローグの時点の鳴海は精悍なイケメンで、この幻灯のようなエピソードが恋の始まりをとても美しく描いているのでまずおすすめ、騙されたと思って読んでみてほしいです。中年男性の渋みがページから滲み出しています。現実世界にこういう年のとり方できるオジサンはほとんどいませんけどね。

試し読み モアイ

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rokuro

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