天使の囀りが聞こえる
はい、検索度外視でやりたいからやるのコーナーです。主に寄生虫等の寄生生物が体内に入り人や動物をコントロールするマンガがメインですが、体外に寄生したり、わざと寄生生物を体内に移植したり、寄生したけど栄養だけもらって特に何もしない、というのでもいいです(そういうマンガはあまりないでしょうけど)。共生関係にあるものもちょいちょいあります。
どうしても一部ゾンビとかぶってしまうんですが、あっちはいっぺん死んでるというか……そういうニュアンスで分けてます。作品数見込めないんで妥協してパンデミックと一緒でもいいかなーと思いましたが、やっぱ別にすることにしました。理想は高く持とう。
寄生獣(岩明均)
「どうせアレ紹介するんだろ?」と思われた方も多いと思いますが残念ながらその通り、ハリウッドが中途半端に映像化権だけ取得していたせいで延々と映像化されなかった不朽の名作、寄生獣のご紹介です。何気に楽しみにしてたんですけどね、ハリウッド版。
最近の立て続けの映像化で内容をまったく知らない人はもうあまりいないでしょうが、僕は何も知らずにこれを読んだのでそれはそれは衝撃を受けました。これほど引きの強い、
「先を読みたい」と思わせる第1話はなかなかお目にかかれません。
最初にプロットを組んでから描いているそうなので、最初から最後までストーリーは一貫し、寄り道をせずに終わります。
完成度が高いと言われるのも納得ですが、もしアフタヌーン編集部が「人気があるからもっと続けてくれ」とか言い出したり、逆に打ち切りになってたらどういうことになってたんでしょうね。「暗殺教室」の松井先生なんかだと、みっつぐらいプロット用意してから書き始めるそうですが。
1988~1989年「モーニングオープン増刊」で全3話として発表後、「月刊アフタヌーン」で1990~1995年連載。アフタヌーンKC版、新装版で全10巻、完全版、文庫版で全8巻で
完結。
試し読み コミックDAYS
15で少女は、あれになる。(江本晴)
女性のみを襲う、地球外生命体「ホモニマ」。これに対抗するため、科学者たちはホモニマを改造し、人の身体に寄生できる「パクニマ」を作り出した。女性たちは15になると左手にパクニマを移植し、自衛のために戦うことになる――という設定からの恋愛連作オムニバス。
設定的にほぼ「寄生獣」ですが、題材は揺れ動く乙女心というかなりの異色作。
僕は2話にあたる「タナの場合」が好きです。題材と展開がビッタリくっついてる感じがする。
こういう「他の作品の設定や技法を援用して違う話を作る」作品が増えていくと、ジャンルというものが形成されていくらしいです。というわけでカテゴリ作ってみましたがまだまだ変わり種。寄生もの流行るといいなあ……。
初出は2013年発行の同人誌、これにエピソードを追加して「マトグロッソ」で2016~2017年連載。全1巻で
完結。
試し読み マトグロッソ
インハンド(朱戸アオ)
医療事故調査を旨とする患者安全委員会(PSC)の調査員阿里玲は、一枚の告発文を受け台田総合病院を訪れる。そこで見たのは南米の感染症「シャーガス病」の疑いを持つひとりの男の死――恩師のつてで右腕が義手の変人寄生虫研究者・紐倉と出会った彼女は、患者の血液検査を依頼する。果たして検出された感染源の原虫・トリパノソーマ、そして浮かび上がる過去の食害事件との関連性。先進国では殆ど感染が見られないこの病に男はなぜ感染したのか。そしてその裏に隠された「悲劇」とは?(「インハンド プロローグ1 ネメシスの杖」)
もともと「ネメシスの杖」が単品作品としてあって、これを一冊完結の医療ミステリー漫画として類い稀な完成度を持つ名作! 的に紹介してたんですが、その後ドラマ化され連載が再始動し、「インハンド」シリーズとしてまとめられたので表記合わせます。嬉しい半面ネメシスが序章扱いでなんかさびしい。
新装版では「プロローグⅡ」となってる「紐倉博士とまじめな右腕」は短編集で、「Ⅰ」ことネメシスの杖とはサブキャラもエピソードも異なります。
原虫とはざっくり言えば動物的な性質を持つ単細胞生物のことで、マラリアとかも原虫による感染症です。このサイトの基準的にはこのマンガはパンデミック寄りなんですが、朱戸先生には他にもパンデミックの作品が割とあること、紐倉先生の寄生虫講義が読めることからこのカテゴリに置いてます。
阿里の「冷たい」システム論もなかなか興味深い。シャーガス病については朱戸先生自身がブログで解説してくださっている
(その1)(その2)ので、興味のある方はそちらもどうぞ。
試し読み モアイ
マンホール(筒井哲也)
「なんかミステリーの名作らしい」ということは聞いてましたがこれ寄生虫の話だったんですね。スクエニ系列の本らしからぬグロさでびっくりしました。全3巻で完結、新装版で上下巻。
あらすじとしては、
突然マンホールから出てきた全裸の男が血を噴き出しながら死亡、その体内から大量の寄生虫が発見される。その血を浴びた大学生は異常な速さで寄生虫に侵され言語不明瞭となり、その恋人もまた不運な偶然の重なりにより
苗床と化していた。世間を大きくゆるがすこの事件の背後には、ひとりの男の陰謀があることがやがて明らかとなっていく――という具合。
パンデミック系カテゴリ全体の中でも屈指のホラーぶりで、下手すると自分にもふりかかりそうな身近な怖さがあります。死がどうとかではなく、腕を見ると皮膚の下に何かいる、というような。
細かいディティールもさりげなくよく詰められていて、名声にたがわぬいい作品でした。このカテゴリ的にはまさに期待通りの作品です。
試し読み S-MANGA
バニラスパイダー(阿部洋一)
街の上空を謎の蜘蛛の巣が覆い、しかしそれに人々が慣れた街は、人知れず寄生型の宇宙人に侵食されていた。「存在感がない」という才能を持つストーカー予備軍の男子高校生・雨留ツツジは、人を捕食する怪物を目撃し、彼をまともに認識できる数少ない女子の水野さんを自分が守らなくてはと密かに決意を固めていた。そこに突然現れた謎の男・津田はエレベターを倒せる力を与えてくれると言うのだが、この時点でツツジはまだ気付いていない。エレベターを倒すということはつまり、寄生された人を殺すということでもあることに。
「血潜り林檎と金魚鉢男」のちょっと前に連載されてた作品で共通点が多いです(蛇口とか)。僕はこっちのほうがダークな雰囲気があって好きですね。アクションシーンが時々ロングショットでやたらこじんまりと描かれ、なんかそれ見るたびに没入感が薄れるあたりも共通。このへんの描写は読者を突き放すようなところがあるので、ちょっとそこで好き嫌い別れるかも。
残念ながら全3巻で打ち切り。万人に刺さる作品ではないですが、好きなマンガスレとかでぽっと出てくるような「一部の人に深々と突き刺さる」オンリーワンのエッジがあります。
試し読み コミックシーモア