世界を救うのはもうやめた
最近マンガでもよく見るようになったジャンルです。現実世界の食事や仕事、結婚や家事などを異世界に落とし込み、適当に色付けするだけで一応形になるのかもしれないですが、以下で紹介する作品を見る限りやっぱりそれだけでは駄目なようです。
特に今んとこ縛ってませんが、ゴブリンやエルフの登場する典型的なRPG的ファンタジーの作品が多いです。
魔王城でおやすみ(熊之股鍵次)
人と魔が争う世界、人質として魔王にさらわれたオーロラ・栖夜・リース・カイミーン(通称スヤリス)姫は、深い憔悴の中にいた。枕やシーツ、騒音環境など様々な問題から快眠を得られないためである(魔王城の中に監禁されていること自体は問題ない)。
ひとり決意を固めた彼女の、よりよい眠りのためのはた迷惑な闘いが今、始まる――寝れないのがデフォの漫画家が快眠についてのマンガを描くという、作者の苦悩を偲ばせる振り回し型コメディの人気作。
とりあえずよくこれネタがつづくな、と思います。時々見る「誘拐された側が悪人で、さらった側が善人」というアレで、読んでみたら面白かったです。
姫は謎のDIY精神を発揮し、そのへんの魔物とか伝説のアイテムとかを加工して「安眠」アイテムを作るため、魔王サイドが毎回甚大な被害を受け、最終的に勇者サイドまで被害が拡大することもままあります。冷静に考えてみると姫がかなりひどい人な気もしますが、そこは気にしてはいけません。
試し読み サンデーうぇぶり
ハクメイとミコチ(樫木祐人)
旅人がつどう、山間の街マキナタ――そこでは高い文明を持つ小人たちと、二足歩行の鼬やネズミ、昆虫などが気ままで豊かな生活を送っていた。職人気質のハクメイ、女子力の高いミコチのふたりの少女の目を通して語られるマキナタの日々は、素朴で暖かく、少しギークな細部へのこだわりに満ちている。架空の食事・衣類・住居、道具類や技術へのこだわり倒した描写が特徴の日常系ファンタジーの傑作。
1巻で言えば1話~3話はイベントの話なので、4話~5話を読むほうがこのマンガの真髄はよくわかると思います。「言語化しづらい面白さを表現する」というテーマがあるそうで、九龍城のようなカオスな建築や大木の洞に作られた家、手順を追って作業してものが完成する過程などから香り立つ、本来マンガが持ち得ない空間や匂いの持つトータルな快適さがこのマンガにはあります。
というわけで、読むと大変癒されます。こういうのもっと読みたい。
なお、小人の思考能力、身体能力はほぼ人間と同様。(擬人化されているので)哺乳類などの肉食をする場面はありませんが、魚は食用とされているようです。鳥も普通に鳥のようなので食べるとこでは食べてるのかも? 思考能力を持つ昆虫としてはちょっと怖い世界ですね。
2011年「Fellows!」「Fellows!(Q)」で読み切り掲載後2012年~「Fellows!(2013年以降「ハルタ」に改名)」で連載、2018年にアニメ化。
試し読み ComicWalker
伝説の勇者の婚活(中村尚儁)
魔王を打ち倒し、世界を救った勇者ユーリ。国をあげての歓迎に、しかしなぜか浮かない顔の彼の心は、既に次の目標へ向かっていた。自分も愛すべき人を見付け、その人と一緒になってみたい――
空気を読めないクソ真面目型勇者が挑む、真実の愛を探すさすらい型婚活コメディ。
「1/11」の作者の新作。実は1/11より先にこれ読んで、面白かったので逆行したという経緯が2016年の末頃にあり、その時点でこのカテゴリを作ることは決定していました。
読んでから半年ぐらい経っても割と覚えてるわけで、異様に長文の勇者の手紙とか、少なくとも印象に残る作品だったと言っていいと思います。全4巻で完結。
試し読み ジャンプSQ
29歳独身中堅冒険者の日常(奈良一平)
凄腕ながらもひとつの村に定住してさまざまな依頼をこなす冒険者ハジメは、ダンジョンの中でスライムに飲み込まれそうになっている少女を保護したことから、彼女の世話をすることになる。
しかし冒険者にとって「優しい」は屈辱的な形容詞であり、お人好しな行動は、つけ込む隙を見せることになりかねない……。時に苦悩するアラサーと天真爛漫な少女の成長を描く、子育て×冒険のゆるめ異世界ファンタジー。
ありそうでないあまりない感じの作風で、盛り上がるでもなく淡々とするでもなく、優し過ぎずもせずビターでもありません。しかしするすると先に読み進めさせられる何かがあります。
優しいトーンの中にほんの少し混じった残酷さみたいなのが、琴線に触れるのかもしれません。犬のエピソードはドン引きしました。
冷静に考えると登場するヒロインの人外率が高く、モン娘ラブコメ的なのが好きな人も意外と刺さるかも。コマのテンポがちょっとガタついてるのが気になるので、軽く試し読みしてから購入検討することを推奨します。
「別冊少年マガジン」で2016年~連載。
試し読み マガメガ
ダンジョンのほとりの宿屋の親父(東谷文仁)
世界最高峰のダンジョン近くにある街の宿屋には、今日もどこかおかしい冒険者たちがやってくる。人のいいツッコミ役の親父とミステリアスな過去を持つババアをはじめ、次々と現れる妙にスレたファンタジー世界の住人たちが繰り広げる、下ネタ寄り日常系ギャグ。
これは下らなくてかなり好きです。RPGあるあるみたいなのへの弄りが基本にあって、最近のホストみたいな主人公とか異様に露出度の高い装備とかに対して全力で下衆の勘繰りを入れていきます。
ツッコミの勢いで笑いをとる正統派ですがさりげなく構成が上手く、内容以外は安心して読み進めることができる作品です。
試し読み やわらかスピリッツ
うちの奴隷が明るすぎる(ぶしやま)
諸事情により女性不信をこじらせ倒した黒騎士ローランド。しかし異性に興味がないわけではなく、このままではアカン……と内心悩む彼の元に、女奴隷が盗賊に囚われているというニュースが飛び込んでくる。女性に慣れるには女奴隷は最適だし、助けたら惚れてくれるかも……! とややゲスい心意気で盗賊退治に乗り出した彼が遭遇するのは、異次元のテンションで自分をアピールしてくる女奴隷ジェシカだった。
なかなかに下品なパワーワードが続出し、題材に忌避感なければかなり笑えます。正直1話が出オチ過ぎてその衝撃を超えることはないと思いますが、なんだかんだコミュ障ラブコメっぽくなっていき「これはこれで……」という感じです。
https://twitter.com/bushi218/status/1237052731736522756?ref_src=twsrc%5Etfw こういう純粋にアレなマンガになるとスクエニ系は層が厚い。たぶん僕はいくつになってもこういうマンガ好きなんだろうなあと思います。2020年~マンガUP!連載中。
類似作 このヒーラー、めんどくさい(丹念に発酵)
試し読み ヤングガンガン公式サイト
ぶしやま スクウェア・エニックス 2020年07月07日頃
魔王の秘書(鴨鍋かもつ)
ついに三百年の眠りから、14年ほど寝過ごして魔王は目覚めた――世界征服のために有能な人間を誘拐してくるという指示を出したために連れてこられた眼鏡は、口八丁で魔王の秘書に居座り、魔族がドン引きする程の容赦ない戦略策定で生き生きと人類滅亡を目指し始める。さらに現代っ子の魔王軍の勤労意欲を高めるべく、福利厚生・ワークライフバランス・組織改革と各部署間の折衝も取りまとめ、いよいよ魔王はやることがない――
JRPGの美学を積極的に踏みにじっていくスタイルです。誰もが思っていた「勇者が弱いうちに故郷に最強の魔物たちを送る」というアレを秘書が言っちゃったりするマンガですが、一応なんで今まではそうしなかったのかも理由が考えられてたりするあたり脇が固い。
話の都合上魔王様がただのいい人ではなく、めんどくさいワンマン社長ポジションに追いやられていくのが笑えます。2016年~「コミックアーススター」で連載。
試し読み コミックアーススター
理想のヒモ生活(原作:渡辺恒彦 漫画:日月ネコ)
突然異世界に召喚されて褐色の女王に「私の夫になってくれないか」と頼まれる、という大分脳内お花畑な導入の異世界ファンタジーですが、そこから「こいつの真の狙いはなんだ?」と主人公が勘繰り、さらに移住へ向けて色々根回しをする現実フェイズなどフォローが新しい。この手の異世界もので持ち込むものとして発電機とエアコンをチョイスする主人公のセンスも斬新です。
原作はなろう系小説。ほんっと異世界ばっかだなとは思いますが特化した分こういう亜種が生まれてくるので、「そればっか」というのも悪くないです。どんだけ現実逃避したい人多いのか、とは思いますが。
どっちかというと若い人向け、あとあんまりヒモ感ないかも。
試し読み ComicWalker
日月 ネコ KADOKAWA 2017-07-25
アラサークエスト(天野シロ)
竜が天を舞い地の底には迷宮が広がり、一攫千金を夢見る冒険者が祝杯をあげる、そんなファンタジーの世界でも女性の悩みは共通――シミ、しわ、ほうれい線、目のクマ、加齢!
やや婚期を逃した感のある魔法使いのベア(32)は自腹を切って女性だけのパーティーを結成し、ダンジョン探索で収入を得ながら伝説の魔法「アンチエイジング」の情報を集めていた。どんどん俗な方向へ突き進む哀愁系ファンタジーコメディ。
上画像的な描写が「アリ」の世界観で、ほぼファンタジーの皮をかぶった三十路女の話です。かつ展開は相当行き当たりばったりで、細かく見てくと気になる点がたくさんあるので細かく見てはいけません。そのへん目をつぶればいくつかの美点があり、まず目の付け所が上手く、いかにもありそうでなかった、かつ売れ線のところを的確に突いてます。
そしてかなり痛い。ファンタジーの癖に夢がなく、リアルな三十路女の悩みがこれでもかと陳列されて哀れを誘います。
ダンジョン飯的なものを期待すると全くおすすめできないですが、痛いアラサー漫画を読みたいということであればどうぞ。
「ヤングキングアワーズ」で2017~2019年連載、全3巻で
完結。
試し読み pixivコミック
ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~(瀬野反人)
魔界の現地言語とコミュニケーションを専門とする教授が倒れ、代理として調査続行を担当することとなった青年・ハカバ。ガイドのススキに助けてもらいながら、ワーウルフやリザードマン、スライムとのコンタクトを図る彼だったが、種族が違い過ぎてコミュニケーションは前途多難。ファンタジーの世界を舞台に文化人類学を大真面目にやる、旅×研究の異世界エッセイ。
これかなり好きです。登場する亜種族は言語こそ解するものの感覚器官や生態が全く人間とちがうため、たとえば発声器官の構造上発音が全くちがったり、嗅覚器官をフルに使う「会話」をしていたり、文字が人間には全く読めなかったりと妙なリアリティがあって、すごく地味ですがとてもエキサイティングなマンガです。
盲点つかれたというか「あ、まだそれがあったか!」という感じ。こういうのこそ旅の面白さですね。
ガワがかなり地味ですが、売れ筋ランキングとかで時々目にします。個人的にかなり好きな作品なので、正直ほっとしました。
試し読み ヤングエースUP
瀬野 反人 KADOKAWA 2018年12月04日
魔法使いの印刷所(原作:もちんち 漫画:深山靖宙)
世界中から魔法使いたちが集まり、同人魔法を公開し合う超大規模魔法書即売会「マジックマーケット」。その主催者である紙谷美香の目的は、「異世界へ移動する」魔法を見つけ出して東京へ帰ることだった。さらに複製魔法を身に着け、印刷会社まで始めてしまった彼女が、後任など大過なく引き継ぎ東京へ帰る日はやってくるのか?
擬異世界化とでもいうべきか、
コミケを異世界でやったらどうなるの? みたいなのをひたすらやるマンガです。原作のもちんち先生も同人作家で、
こーゆータッチのゆるい絵で原作描いてたら連載決定しちゃったみたいですね。
絵が違い過ぎてたしかに別モノだな、とは感じます。話自体もほんとファンタジーである必然性あんまりないんですが、細かく見てくと現実の理不尽・複雑な部分がファンタジーにしていることで解消されている部分は多く、コミケや印刷業者の「熱」だけを戯画化して伝えてる、などと適当なことを言えないこともないです。
試し読み ComicWalker
深山 靖宙 KADOKAWA 2018-05-26
ドラゴン、家を買う(原作:多貫カヲ 漫画:絢薔子)
貧弱過ぎるステータスと臆病で優しい性格を併せ持つレッドドラゴンのレティ。とうとう一族から追い出されてしまった彼は、勇者や他の種族に脅かされない暮らしを求める旅に出る。運よく不動産業者にしてエルフにして魔王のディアリアと知り合った彼は、理想のマイホームを求めてドラゴン向け物件の内見を繰り返すことになるが、彼が住めて「安全」な住居は一般的にダンジョンと呼ばれていて……。
おっとりした世界観なのに、人が死ぬ時は容赦なく死にます。フォントっぽい文字表現で「動物のお医者さん」のような雰囲気を出しながら、RPGを皮肉ったような暗い目線も感じられるどうも不思議なマンガ。意外と人を選ぶ作品かもしれません。
作風的には一見女性向けなんですが主人公がデカく全くかわいくなく、恋愛要素もなし、展開も割とドタバタしてます。レビュー見る限りむしろおっさんにウケているような気が……。出てくるネタもちょっと古いし。
ちなみに、
「タイプライター インクリボン」、
「掃除機」はどっちもゲームが元ネタです。
試し読み マグコミ
多貫カヲ/絢薔子 マッグガーデン 2017年07月10日
マンガでわかる異世界冒険の書(とりから)
記師――彼らの仕事は冒険者たちに同行し、その活躍を記録して神に捧げることで「イイネ」と呼ばれる経験力を得ることである。新人ながらも独創的な発想を持つ新人記師マニュ・ホワイトは、冒険の書を絵で描き、吹き出しやコマ割りを「発明」することで、記師の世界にマンガという新しい表現形式を生みだしていく。
要するにファンタジー世界でweb漫画家をする話です。この世界だと吟遊詩人もアンプとか発明してそう。商業誌で連載されても違和感ない完成度で、テンポ、オチいずれもソツがなく、その上でちょいちょいアイデアが効いてます。
これにもうちょっと作画をメリハリきかせて、うまくドラマを盛り込むと「ダンジョン飯」的なものになるんだと思います。現状でも十分成立してますが「いい原石だな……」みたいな感想。さすがに各話4ページだとちょっと短い。
web各誌の他、kindleでも無料で読めます。
試し読み ジャンプルーキー!
トカゲ爆発しろ(okamura)
幻代社会においてありふれた、亜人たちが通う学校生活。リザードマンの里佐土リドと彼に思いを寄せるエルフの巡星アルタの周りには、いつもファンタジー風味のトラブルが巻き起こり、時々落語的なオチがつく。異種族が当然のように共存するまったりした世界観のラブコメ寄り学園コメディ。
なんか地味に話の作り方がロジカルで好き。その分強引な展開の回もちょくちょくありますが、序盤にネタ振りしておいて、最後そこに落とし込むみたいなのがしっかりしてて安心感があります。ラブコメというかギャグ寄りで結構笑える。
https://twitter.com/okamura3220/status/1221747527831236608?ref_src=twsrc%5Etfw 元は
pixivなどに発表していたイラスト・ショートコミックを連載化。リザードマン主人公のマンガは珍しいですが、先生のTwitter見たらゴジラお好きみたいで納得。「コミックアライブ」および「コミックウォーカー」で2020年~連載。
類似作 異種族レビュアーズ(原作:天原 漫画:masha)
試し読み ニコニコ静画
okamura KADOKAWA 2020年11月21日
竜の学校は山の上(九井諒子)
勇者が魔王を倒した後、世界は自動的に平和になるんだろうか? 残った魔王城は? 勇者はどうなる? 「ダンジョン飯」の九井先生がWebサイトで公開していた作品、同人誌収録作などを集めた、荒削りながらも才能のきらめきを見せるファンタジー短編集。
もっともダン飯感あるのは表題作。その他「帰郷」「魔王城問題」「代紺山の嫁さがし」「現代神話」などファンタジー要素の側面に回り込んだり後ろからのぞき込んだりする作品を多く収録、ちょっと星新一っぽいショート・ショートなんかもあります。
九井先生の作品は定番過ぎてテンション低めで紹介してますが、読んで損することはあんまりない非常に才能のある作家です。ケンタウロス(馬人)の奥さんが謎にかわいいのでそういう属性持ちは特に必読。全1巻で完結。
試し読み マトグロッソ
他にもこんなマンガが夢と魔法の世界で所帯じみています
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最近の日常系異世界漫画ってなろう系の気持悪いタイトルが多いな
なろう小説自体はほぼ読まないのでアレですけど、読者層が何読みたいかはっきりしてるのであれば、あらすじみたいなタイトルのほうが読まれるのかもしれませんね