ステージの上からの別世界への誘い。おすすめ役者/俳優/演劇マンガ

うつし世はゆめ よるの夢こそまこと

現実と芝居の世界を行ったり来たりする、「演技系」マンガのセレクションとなります。個人的にめっちゃ好きなジャンルで、というかガラカメが好き過ぎるんですが、オーディションとか役作りのわけわからん修行とかトラブルに対するとっさの機転とか、そういうのをしっかり見せてくれるともうそれだけでスタンディングオベーションする傾向が僕にはあります。そういう嗜好で選んでます。
演技者の他演劇カテゴリとしていて、劇場、テレビなど媒体は問いません。裏方・シナリオ・監督もありです。かりそめのサラリーマンの仮面の下に裏の顔を隠し持つ……とかそういうのは別カテゴリ、声優も別としました。

【オススメ】ガラスの仮面(美内すずえ)

かつて劇作家・尾崎一蓮の創作した「紅天女」を演じた伝説の女優・月影千草。今は引退した彼女だったが、大都芸能のやり手社長秘書にして冷血漢と噂される速水真澄が、彼女に天才女優姫川歌子主演で「紅天女」再演を持ちかける。しかし月影は「自分の育てた女優が演じること」を条件に一度その話を白紙に戻し――そして天性の演技勘を持つ少女・北島マヤと運命の出会いを果たす。狂気すら孕むその熱演で観客の(そして読者の)心を奪うマヤの「ガラスの仮面」には、しかしある出来事によって大きな罅が入ることに――

もし誰かに「何かおもしろいマンガない?」と訊かれたら、僕の知る他の全てのマンガをさしおいて真っ先にあげるのがこのマンガです。とにかく圧倒的に面白く、本当に「このマンガを読む」という行為以外何もできなくなります。初期の当サイトには「名作」というカテゴリがあったんですが、その時も迷いなくトップに置いたのがこの作品でした。

ただしここ数年は開店休業状態で、連載約40年ですがまだ完結していません。先の展開を見据えた50巻が2016年の3月ぐらいに出るはずだったんですが予想通り発売されず、その後も何事も起こらずにいるうちになぜか2020年に作中の劇「紅天女」のオペラ公開が決定したりして何が何やら。HUNTER×HUNTER信者とかは幸せですよ、待ってれば続きが読める見通しがありますからね……。

マチネとソワレ(大須賀めぐみ)

天才役者としてあまりにも認められ過ぎた兄の光にかすみ、何をしても比較され続ける新人役者・三ツ谷誠。だが追いつこうにも、すでに兄は鬼籍。何をすれば超えられる? どうすればみんなに認められ、褒められ、兄よりも優れた役者だと認めさせることができる?
情熱と絶望を抱えた彼に「ある出来事」が降りかかり、何かががらりと切り替わる――「昼公演(マチネ)」と「夜公演(ソワレ)」のように。

マチネとソワレ

第16話”37ページの1コマ目からGetWild流してシテ〇ーハ〇ターのEDみたいな感じで読んでください”(1巻収録)より

大須賀先生の持ち味を生かした、サスペンス強めの演劇もの。エピソードの掴みが上手く、言語化しやすい印象的なシーンが多いです。↑画像の後にくるシーンが特に印象深い。
自己顕示欲がテーマのひとつのようで、主人公は欠落を埋めるように「愛される」ことに強いリビドーを抱えています。若干ヤンデレっぽいというか、彼女できたら厄介な人になるタイプです。


即興演劇とか意図の不明なオーディションとか、演劇ものの美味しい題材も目白押し。
ガラカメでいう紅天女的な劇が大須賀先生の過去作「ヴァニラフィクション」なので(そんな名作か? とか言ってはいけない)、併せて読むとより楽しめるかも。「ゲッサン」で2016年~連載。

類似作 ガラスの仮面

試し読み ゲッサンWEB

ダブル(野田彩子)

容姿端麗で演技の才能は圧巻。しかし生活能力皆無で、台本もろくに読めない難読症の無名役者・宝田多家良(30)。まがりなりにも彼が役者としてやっていけるのは、同居する鴨島友仁(30)の献身的なフォローあってのことだった。多家良の才能を世に広めたい友仁と、友仁を尊敬しその言葉にすがる多家良。「ふたりでひとり」の天才役者の結合と分離を描く、話題沸騰の演劇マンガ。

ダブル

第四幕”ファウスト”(1巻収録)より

没入系を一種の障害として描いた天才役者もの。この手のマンガだと役者の演技が「凄い」ことをどう見せるかが説得力に直結すると思うんですが、無闇な狂気や謎のエフェクトに逃げず、正攻法で勝負してくるのに好感が持てます。
展開が早く、コンビものっぽい展開メインかと思いきやコロコロ環境が変わります。正直序盤の感じをもうちょっと読みたかったです。


「ふらっとヒーローズ」で2019年~連載。こう並べてみると、面白い役者ものは女性作者が多いですね。普段から演劇見てる人に女性が多いんでしょうか?

類似作 アクタージュ act-age(原作:マツキタツヤ 漫画:宇佐崎しろ)

試し読み pixivコミック

【オススメ】崖際のワルツ(椎名うみ)

美しい顔に不慣れな、異様に低レベルな演技を見せる演劇部新入部員・西園寺華。彼女に「目を付けた」五反田律は、15分の寸劇で華のパートナーに立候補する。猛特訓を経て、ふたりが見せる衝撃の白雪姫とは……。(”崖際のワルツ”)
「青野くんに触りたいから死にたい」でブレイクした俊英の初期短編集。


グロテスクな笑顔、人形のような手足。突発的な行動、笑顔で行われる悪意と押しつけの善意、壁ごしの会話、そして性への惧れ。共通する部分が多いので青野くん好きの方は普通におすすめ、初見の方も側頭葉にこびりつく不気味さは一度味わうと常習性があります。「崖際のワルツ」はこのまま連載始まりそうな作り込み、「ヤバい演技」の魅力満載で管理人的に大ヒット。

崖際のワルツ

“崖際のワルツ”より


他胸が膨らむのが嫌な小学生を描く「ボインちゃん」、不登校児の抵抗を描く「セーラー服を燃やして」を収録。全1巻(短編集)で完結。
Kindleとかで読むと裏表紙が収録されてないのはちょっと問題。電子書籍派の参考用に上のツイート貼りましたが、ついでに椎名先生のtwitter読んでみたらテンションおかしくて面白かったです。勢いのある人はSNSからしてちがうな。

試し読み コミックDAYS

【オススメ】ヒナ 値付けされた子役たち(鈴音ことら)

芸能事務所に入社したばかりのホヤホヤの新人・烏丸省吾は、子役たちの「大人びた」ビジネス観、そして子供たちを「商品」として取り扱うことを求められる仕事の洗礼を浴びる。きわめつきは7歳にして完璧に裏表の顔を使い分ける売れっ子少女・ヒナ。烏丸は縁あって、ふたまわり年下の彼女に仕事のイロハを教わることになることに……。

ヒナ

第3話”小さな大人”(1巻収録)より

感情豊かで情緒的な青年男性と深謀遠慮でクールな幼女という関係性の対比、子役を扱う芸能事務所という特殊な職場の内実、難しい問題を放り込みそれを処理してみせる展開の鮮やかさと、ストーリーテリングの上手さが際立つ作品です。冒頭かなりダメっぷりを発揮する主人公もどんどん成長し、実はこのキャラクターが主人公でないと話が成立しないということがわかってきます。


あと「引き」が毎回上手い。連載作家としてこれは強みです。うっかり読み始めるとかなり長時間拘束されるので、お時間ある時にどうぞ。
2019年~「サイコミ」で連載、コミックスは電子書籍のみ。

試し読み サイコミ

7人のシェイクスピア(ハロルド作石)

プロテスタントが国教となり、宗教、身分差、そして疫病が社会を蝕もうとしていた16世紀末イギリス。後に史上最高の詩人として知られるウィリアム・シェイクスピアは、グラマー・スクール出の無学で無名な一介の青年に過ぎなかった。
彼が演劇都市ロンドンで自由と名声を掴むには、何もかもが足りない。教養、構成、心を打つ詩行――それらを埋めるパズルのピースが揃い、「シェイクスピア」という分業製のチームが化学変化を起こす時、奇跡のような傑作が次々と生まれ出る。

7人のシェイクスピア

第6話”トマス・ソープ”(「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」1巻収録)より

さまざまな才能が結集し、名だたる名篇が作られていく過程は問答無用でテンション上がりますし、知らない作品についてかなり興味をそそられます。
成功の裏でシェイクスピアたちはそれぞれ爆弾を抱えており、常にどう転ぶかわからないサスペンスも見どころ。


第一部にあたる無印は「ビッグコミックスピリッツ」で2010~2011年連載(全6巻、新装版で全3巻)。本格的にチームが稼働するのは「週刊ヤングマガジン」で2017年~連載の「7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT」から。

試し読み ヤングマガジン公式サイト

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