冒険は終わらない。竜と魔法と妖精その他、ファンタジー系マンガ傑作選

まえがき

一口にファンタジーといっても、大雑把にいって二つに分けられます。
1、「指輪物語」や「ロードス島戦記」、「ラピュタ」的な、別の世界を描いた世界(ハイ・ファンタジー)。
2、「星の王子様」や「ピーターパン」、「モモ」のような、現実から半歩踏み出した世界(ロー・ファンタジー)。

基本的には1が多いんですが、2で風刺的なものとかも見つけ次第放り込んでいきたいところです(所信表明)。ハリポタみたいにどっちとも言える作品もままありますし、異世界ものがローかハイかというのも厳密な定義はないんですが、そのへんは感覚で仕分けします。
日常系ファンタジー異世界転生ファンタジーダークファンタジーは別カテゴリとしてまとめていますので、もしよろしければそちらもどうぞ。

ハイ・ファンタジー(王道)

【オススメ】マギ(大高忍)

突如世界に現れた迷宮を攻略したものは、「ソロモンの金属器」の力を得るという――
大富豪を夢見る少年アリババと少年アラジン、謎の露出狂シンドバッド、奴隷出身の少女モルジアナなどの魅力的なキャラクターが続々登場し、次第にスケールを増しながら、物語が世界の謎へと切り込んでいく王道アラビアンファンタジー。

序盤ギャグ多め、のほほんとしてるんですが途中から急速にシリアス度が増していき、作中人物同士の正義がぶつかり合い、読者も何が正しいのか段々わからなくなってきます。哲学的な作品で、絶望的な描写も強烈。

読む前は「マギ」と「マギ シンドバッドの冒険」のどちらから読めばいいのかわからず、謎の苦手意識がありました。なので書いときますがこっちがオリジンです。食わず嫌いで読まないのはもったいない、大人から子供まで誰が呼んでも楽しめるファンタジーの名作です。全37巻で完結。

試し読み 小学館コミック

ブラッククローバー(田畠裕基)

数多いる住人がそれぞれに魔法の才能を授かるクローバー王国。その辺境に、生まれつき魔法の才能を持たないにも関わらず、魔法帝を目指す少年がいた。傍から見ればバカげた夢だったが、しかしアスタは決して諦めず、地道に努力を積み重ねていた――とりあえず肉体改造という形で。魔力を全く持たず抜群の身体能力を持つことが、やがて訪れる「ブラッククローバー」の力を使いこなす上で重要なキーとなることを、彼はまだ知らずにいる――

ジャンプ的「友情」「努力」「勝利」を体現したがごとき王道ファンタジー。なんといっても読者の胸に迫るのはアスタの「不屈」ぶり。何かというと運命に喧嘩を売り、どんな逆境にも立ち向かう彼のしぶとさは作品のテーマに直結し、強いメッセージ性を帯びています。

話は明快で絵は上手く、アクションが豪快でギャグもいい。あと女の子もかわいく、「ナルト」「ワンピース」「七つの大罪」あたりのいいとこ取り的な印象があります。ジャンプの看板作品のひとつとなるのも納得の、高品質なエンタメアクションだと思います。

試し読み 少年ジャンプ公式サイト

【オススメ】圕の大魔術師(原作:ソフィ=シュイム 漫画:泉光)

世界中のあらゆる書が集まるとされる本の都“アフツァック”に憧れを抱く「耳長」の少年。差別の対象となっている彼は、ある日アフツァックから派遣された司書(カフナ)に自分の耳を恥じる必要はないと諭され、それを契機に自らも司書の道を志すことになる。夢を追う少年の目を通して異世界の書を描くビブリオ・ファンタジー。

図書館の大魔術師

第2話”黒馬の主人公”(1巻収録)より

圕の読み方は「としょかん」。公式サイトで使用されるタイトルは「図書館の大魔術師」ですが、作中で「圕」と「図書館」は別モノである記述あり。魔法の概念や司書の仕事、中東風の世界観などのパーツは細かく設定され緻密に描写され、絵的に満足感があるし実在感があります。作者がノッて描いてる感じが強い。


お仕事系かと思いきや冒険要素もあり。展開もキャッチーです。
ちなみに原作(「風のカフナ」)及び原作者はググってもヒットしません(連載開始時点)。こういう遊び心は好きですが、ソフィ=シュイムの正体とは……? 「good!アフタヌーン」で2017年~連載。

試し読み モアイ

【オススメ】魔法? そんなことより筋肉だ!(原作:どらねこ キャラクター原案:レルシー 漫画:小野寺浩二)

剣と魔法の世界で森の中ひとり、筋肉を愛で、筋肉と共に語らい、最終的に筋肉で大概の魔法を無効化し、筋肉の摩擦熱で空気中に火球を放ち、筋肉で空気を蹴って空を舞う化け物寄りの存在となった孤高の男・ユーリ。そんな彼が超絶美少女(自称)のエルフ・フィーリアと出会い、自らの筋肉を試すべく外の世界へ旅立つことに……ボケとギャグと熱血、そして溢れんばかりの筋肉の脳筋ファンタジー。

魔法? そんなことより筋肉だ!

第2話”ハンカチは携帯するのが常識”(1巻収録)より

原作もちょっと読んでみて大分アレでしたが、小野寺先生がさらに悪ノリを上積みしたかなりカオスな作品。衝撃の服選び回も原作はサラッと済ませてるので、マンガでああなったのは小野寺先生のせいです。さすがだ。
なんとなく読んでて連想したのはゲームの「グランディア」。ベクトルはちがうけど、好きなものに夢中過ぎる主人公とそれを理解? するヒロインという構図が似てるのかな。どっちも演出が上手いし。

「ComicWalker」で2018~2020年連載、全4巻で完結

類似作 魔法少女プリティ☆ベル(KAKERU)

試し読み ニコニコ静画

ドラゴンハーフ(見田竜介)

竜を憎むアイドル剣士ディック・ソーサーに、竜と人間の間に生まれたドラゴンハーフの少女・ミンクは恋をした。彼のために人間になれる秘薬を求め、旅に出たミンクに数多くの試練とギャグとお色気要素が襲いかかる! 果たして彼女は人間の女の子になることができるのか、そしてその恋の結末は?

スチャラカなノリとビキニアーマーを搭載した、90年代初頭の極地的RPGブームを代表する作品のひとつです。最大の売りは怒涛のようなお約束ギャグ。もうこういう底抜けに明るい作品はあんまり出てこないのかな。

全7巻で完結。初期は比較的普通の絵なんですが、連載が進むに連れて目が巨大化し手足が尖り、見田先生特有のデフォルメへと進化していきます。今見ても独特。あとなにげにカラーイラストがめっちゃきれいです。全7巻で完結。

王様ランキング(十日草輔)

耳が聞こえず力も弱く、領民から嘲りを受ける心優しいボッジ王子。彼に期待をかけるもの、邪魔に思うもの、王にはふさわしくないと考えるもの……やがて王がみまかると、宮中の亀裂はしだいに取り返しのつかないほど大きなものとなっていく。ネットの無料連載から口コミを通じてブレイクした童話風ファンタジー。

もともと絵本として構想されていたものをマンガに直したということで、内容的にはやや子供向け、ただし各人それぞれ事情がある(単純な悪い人が出てこない)人間模様はちょっとアダルト。絵がデザイン的な線のクッキリしたデフォルメで、見ていて楽しいし疲れません。背景をあまり描いてないとはいえ、これだけ画面の見やすいマンガもめずらしいです。

ストーリーに関しては正直なんとも。寓話的に読むとものを言えない力の弱い王子というのはいかにも何か言いたげですが、そういう話でもなさそうな。まず王様ランキングの存在意義が割と謎です。

試し読み マンガハック

平穏世代の韋駄天達(原作:天原 漫画:クール教信者)

約800年前、人類は魔族によって滅ぼされかけ、そして突如救われた韋駄天によって救われた。祈りによってこの世に現れた彼らはいわば「神」だったが、しかし無条件に人間の味方というわけではない。時は流れ、戦乱を知らないゆとり世代の韋駄天たちの前に再び魔族が現れる。しかし今度の魔族は過去とちがい、人の形と知性を持っていた――

平穏世代の韋駄天達

第24話”調教師ミク”(3巻収録)より

原作は「週刊少年VIP」連載(~2016年頃)の同人Webマンガで、これをリメイクしたものが商業版。内容的には搦め手・裏技アリの最初からインフレしたバトルものという感じで、普通に面白いですが、作品として評価するなら天原先生の他の作品(「異種族レビュアーズ」、「貞操逆転世界」など)のほうがおすすめ。
ただちょっと面白いのが原作に物凄く忠実にリメイクされている(台詞とかも基本全く同一)ので、見比べると変更されている箇所の「意図」がハッキリわかります。

平穏世代の韋駄天達(原作)

原作版第十一話”調教師ミク”より


たとえば上の画像だと、原作では直接次の場面に移りますが、リメイク版だと一度気を失って目を覚ますことで曖昧だった途中経過を明確にしています。元のほうがいい感じなこともありますが、基本的にはリメイク後のほうがわかりやすく(あるいは流れが自然に)なってるので、比べて読んでみるとマニアックな楽しさがある……かもしれません。
あと原作のアレな少年ジャンプネタが根こそぎ消えて、その代わりにアダルト要素がちょっとだけ増補されてます。「ヤングアニマル」で2018年~連載。

試し読み コミックシーモア

とんがり帽子のアトリエ(白浜鴎)

魔法使いに憧れる仕立て屋の娘・ココ。生まれ持った才能がなければ使えないとされる魔法だが、実際に使うところを覗き見たココは魔法の「使い方」に気付いてしまう。世界の禁忌である知識を得たことで、彼女はある「罪」を背負い、否応なく魔法使いへの道を歩み始めることになる――

絵は繊細で今風、細かく描きこまれています。魔法関連で必要な道具や法則などの細かいリアリティがその図鑑のような絵で描写され、ファンタジー系の設定作りとかが好物の人だとたぶんグッときます。

設定がしっかりしているので、「今後こう来たら面白いな」とか「燃えるな」とか、色々と妄想がはかどります。
学校系ファンタジーですが、ココの存在自体がイレギュラーなこともあり、謎の存在が彼女をつけ狙っていたりと課外活動も多くなりそうな雰囲気です。

試し読み モーニング公式サイト

食い詰め傭兵の幻想奇譚(原作:まいん キャラクター原案:peroshi 漫画:池宮アレア)

所属していた傭兵団が壊滅し、突如ほぼ文無しの無職となった歴戦の傭兵・ロレン。やむをえず冒険者となることを選んだ彼に声をかけてきたのは、冒険のイロハも知らない新米冒険者たちだった。神官のラピスだけは比較的まともなようだが、彼女は彼女で何か隠しているらしい……なろう初のスタンダード・ハイファンタジー。

食い詰め傭兵の幻想奇譚

第3話”追跡から突入する”(1巻収録)より

かなりクラシック……というか、転生も鑑定もステータスもスキルをくれる神様も奴隷も(今んとこ)登場しないです。定番の設定で普通に面白く、ロードス島戦記とか好きな人だとなつかしみを覚えるかも。

なので斬新な何かを求めて読むものではないです。冒頭からして「新米冒険者が依頼を受けてゴブリン討伐しに行く」みたいな感じですが、ちょっと工夫されてて「ゴブリンがんばえー」みたいな気持ちにさせられたのでこれはこれで。
「コミックファイア」で2018年~連載。

試し読み コミックファイア

魔法使いと竜の屋根裏(烏丸渡)

「竜の屋根裏」と呼ばれる謎の巨大物質とそこから飛び立つ竜の存在により、制空権を奪われつつも地上で順調に文明を育む人類。その中にはあえて空を飛ぶための飛行宝珠(フライトブルーム)を開発する変わり者や、それを愛用し空を飛ぶことに執念を燃やすはねっかえりの魔法使いも存在する――
グロテスクな竜と少女のフライト・アクション、そして話の根幹を形成するラブコメ描写の両翼で空を舞う、杖と魔法の現代的ファンタジー。

魔法使いと竜の屋根裏

第1話(1巻収録)より

「NOT LIVES」に続いてのラブコメ×アクションですが、こちらは巨大な敵から逃げ回り攪乱し、やがて「竜の屋根裏」に迫ることになる回避性能を問われるようなタイプのアクションです。この話、極論すると「好きな人を喜ばせたい」というだけの話なんですが、それが回り回って命がけの冒険のモチベーションになってるこの持って行きかたのうまさ。出てくる要素が多い割に話がスッキリしていて、抵抗感なく読める整理された面白さがあります。

面白いわりになぜか知名度が上がらず、これ書いてる2018年末時点でwikipediaのページすら作られていない烏丸先生ですが、僕は個人的に結構好きな漫画家です。本作は残念ながら2巻で打ち切り完結。

試し読み BookLive

グレンデル(オイカワマコ)

剣士としては素晴らしく優秀だが人や獣の痛みを過剰に感じてしまい、生きることにあまりにも執着し過ぎるために時として冷酷な決断を下してしまう女騎士・カメリア。第三王女を見捨てて逃げたことから投獄された彼女は、死罪と引き換えにある取引を持ちかけられる。
かつて世界の王とされながらもその肉が持つ力のために乱獲され、今は絶滅したとされる竜。その生き残りを「竜殺し」の国・王の庭まで護衛しろというのだ。世間知らずで意思の乏しい竜の仔と、涙を流さずには人を斬れないカメリアの不思議なふたり旅は、やがて竜の持つ力により大きく運命を捻じ曲げていく――

なぜ打ち切ったとしか言いようのない尻切れとんぼの終わり方ですが、それでもそこそこまとめ上げて終わらせてくれてるのは立派です。1巻と2巻でそれぞれ最後にしっかり盛り上げるストーリー巧者ぶりで、これは結構続きそうだと思ったら3巻の目次で目を疑いましたよ。

一応設定がフラフラしてるのは少し(かなり)気になりますが、それはまあよくあることですし……。骨太のファンタジーとしてコアなファンを獲得しそうな作品なのに、本当にもったいない。全3巻で完結。

試し読み pixivコミック

葬送のフリーレン(原作:山田鐘人 漫画:アベツカサ)

勇者一行は魔王を討ち果たし、凱旋して物語はエピローグを迎える。エルフのフリーレンにとってそのエピローグは果てしなく長い。かつての仲間は老い、伝説が過去のものとなっていく中、フリーレンは新しい旅に出る。

葬送のフリーレン

第1話”冒険の終わり”(1巻収録)より

フリーレンは高齢ですが時間感覚が(人間と比較すると)バグっており、気が付くと結構な時間が経って色んなことが風化しているという浦島太郎的題材。日常ファンタジー的な話も多いんですが、まださほど平和ではないことが段々わかってくるにつれて、勇者一行の魔法使いというかっこよさも前面に出てきます。


「週刊少年サンデー」で2020年~連載。PVかなり気合入ってて、よかったら見ていただくと雰囲気がよくわかると思います(曲もいい)。

類似作 ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア(山田鐘人)、100万の命の上に俺は立っている(山川直輝/奈央晃徳)

試し読み WEBサンデー

マヌケなFPSプレイヤーが異世界へ落ちた場合(原作:地雷原 漫画:佐伯淳一)

あらゆる仮想現実空間で楽しめる世界最大のFPS「VMB」プレイヤーのシュヴァルツは、プレイ中にミスってマップ外に落下して、そのまま異世界に墜落してしまう。ゴブリンに誘拐されそうな女の子、中世風の街並みと冒険者ギルド、自動生成される迷宮と「魔力」の存在……主人公だけSF装備の異世界ファンタジー。

マヌケなFPSプレイヤーが異世界へ落ちた場合

#17(3巻収録)より

絵が突出してハイレベルです。CG作画で線はカクついてるものの、付け焼刃ではない作画力で銃器・甲冑・モンスター・洞窟・街並みなどゴリゴリゴリゴリ描き倒していて目が幸せ。

タイトルはありきたり、内容もよくある転生ファンタジーの枠内です。ただ迷宮の謎がストーリーの根幹と絡み合うような展開とかはちょっと好き。
「ヤングエースUP」で2016年~連載。

試し読み ヤングエースUP

ハイ・ファンタジー(邪道)

メメシス(柳生卓哉)

諸国を放浪し、魔王の配下を次々と屠るふたりの凄腕冒険者――アシューとキジラ。血の滲むような努力を積み重ねレオンより先に魔王討伐を目指すふたりの胸には、レオンにかつてパーティーを一方的にクビにされた恨みと、「もっと凄い冒険者になって見返してやる」「悔しがらせてやる」という実に女々しい誓いがあった。「今もっともくだらないファンタジー」というスローガンをひっさげて突き進む、動機以外はかっこいいリベンジファンタジー。

メメシス

第2話”真実”(1巻収録)より

新人漫画家のデビュー作ですが、絵がやたらいいです。メリハリのきいた画風でごちゃごちゃした場面も見やすく、なんかひとつの正しいバトル系少年誌ファンタジーの作画を見たという感じ。
そのバキバキの絵で脱力系の内容を展開してくれていて、頭からっぽにして楽しまされました。

ストーリーはだいぶ違いますけど、作風としてはワンピやRAVEに近い印象です。なんか娯楽性高くて疲れないやつ読みた~いということであれば結構なおすすめ。全4巻で完結。

試し読み 小学館コミック

MONSTER×MONSTER(飛田ニキイチ)

時は大狩猟時代。かつて人類の存亡を脅かした獣たちは、今や狩猟の対象となっていた。
西部の街・アセランで15年間ニートを営む主人公は、狩猟者(ブリンガー)を目指す若者たちに触発されつつも、ニートとして安定のクズっぷりを発揮していた。しかし徐々に運命は動き出し、意地でも彼を主人公の座へ引き摺り出そうとうねりはじめる――

MONSTER×MONSTER

第2話”決意の涙!!”(1巻収録)より

モンハン版「描かないマンガ家」という感じの序盤から、段々とシリアスな展開になっていき、面白くなってきたと思ったら打ち切られちゃった不遇の作品。ファンタジー世界の癖にギャルゲーが存在するというかなり適当な世界観で、無骨な絵柄と妙に生々しいギャグ、クズい主人公の組み合わせが妙にクセになります。

物凄くおすすめという感じでもないですが、マンガワンでたまたま全巻公開されてて、軽く読んでみたら全部いっぺんに読んじゃった、とだけお伝えしておきます。全3巻で完結。

試し読み 小学館eコミックストア

彼女がビキニアーマーにきがえたら(花見沢Q太郎)

新婚二カ月の会社員・栗原爽太。日々膨大な仕事・パワハラ・プレッシャーに晒された彼には、心身ともに様々な不調が現れていた。彼に元気を付けてあげたい若妻桃は、アパートの戸棚を開けるとなぜか開いてる異世界への扉をまたぎ、伝説の勇者・モモとして火山に住む竜の肉を狩りに出かける。この出来事をきっかけにモモは頻繁に異世界へ出向くことになるが、やがてこの二重生活に旦那さんも巻き込まれ始め……?

栗原桃

第Ⅳ話”天空の回復職”(1巻収録)より

花見沢先生らしいガッツリエロコメ漫画としてスタートしつつ、異世界に行くと絵柄がアメコミ調に変わるというちょっとしたアイデアで妙な健全さを担保した変なファンタジー漫画です。表紙がキャッチーでいい。

エロはあってもなくてもいい感じですが、話のつなぎやオチの付け方見る感じ花見沢先生的にはあるほうがやりやすそう。
エピソード自体は大した話じゃなかったりしますが、絵の丁寧さやキャラのギャップ、ちょっとスラップスティックな展開で読ませます。「月刊ヤングキングアワーズGH」で2017~2018年連載、全2巻で完結。

試し読み コミックシーモア

ライドンキング(馬場康誌)

あらゆる近接格闘技をマスターしたプルジア共和国終身大統領・アレクサンドル・プルチノフには、まだ見ぬ何かの背にまたがり乗りこなすという趣味があった。テロリズムをきっかけに異世界へと転移し、火を噴き空を舞うワイバーンにライドンしてハマってしまった彼は、ひとときのバカンスを自らに許す。今最も熱い騎乗ファンタジー。

いや、騎乗ファンタジーなどというジャンルはこれ一作しかないわけですけど。読むと意外にスタンダードな異世界チートなんですが、ベタな異世界ものの枠を使って変なことしてるので新鮮でした。


「騎乗欲」という着想は異種族ハーレムのパロディ? ほどよくバカっぽく、大人から子供まで色々忘れて楽しめる異世界ファンタジーだと思います。

試し読み マガポケ

天空の扉(KAKERU)

超高速移動魔法「マクロドライブ」の使い手である少年・ルーシュは元「魔王」およびその親衛隊、幼馴染の友人たちと壮大な冒険の旅に出る。故郷を滅ぼし、姉をさらった元勇者を倒すため――しかしそれは果てしないエロとグロ、JRPGを皮肉ったような暴走展開、現代軍事に通じる兵站諜報理論や妙に細かい空想科学設定に彩られた予定調和とは程遠いものとなっていく。

天空の扉

第8話”幸運の王子”(1巻収録)より

KAKERU先生の持ち味である「ファンタジーを現実に当てはめる」「アウト気味の性描写」「邪道なのに謎の推理力で進行するストーリー」「特殊社会における社会通念」などが横溢し、他のKAKERU作品が好きならこれも好きでしょうし、これがダメなら他のも読むべきではないです。
この人のマンガはケレン味が強すぎて面白いポイントの印象が薄れがちなんですが、敵軍人がキレ倒してる主人公を理屈で説得する展開とか、一般人代表みたいだったキャラがチートキャラと勝負する展開とか、ワクワクするシーンも多いです。しかしおすすめしづらい。

あとは敵側でもトラブルが頻発し、ラスボスが何度も死線を彷徨うことになるあたりも割と好き。作者による執拗な「生活魔法の重要さ」の講義、および「なんでこんなマンガになっちゃったのか」的コラムも読みごたえがあります。
「さくらハーツ」で2011~2012、「コミックヘブン」で2012~連載。8巻までKindle Unlimited対象作品。

試し読み LINEマンガ

ロー・ファンタジー

ブラックナイトパレード(中村光)

ブラック極まる労働環境のコンビニポーソン練馬北口店で絶賛人生迷走中のフリーター・日野三春。不真面目な同僚にかわいい彼女と内定通知とついでに世間の不条理を見せびらかされたクリスマスの夜、彼はちょっとした罪を犯し、悪い子として「黒いサンタ」に北極へ拉致される。しかしそこは就労条件抜群・月給30万・インスタ映えするある意味理想の職場で、しかも日野の意外な才能が発揮される場所でもあり――?

何をどうしたらこういう話を思いつくのか、というカオスなストーリー展開が売り。同作者のヒット作「聖☆お兄さん」ほど笑いを取る作りではないですがそれなりにコミカル、かつこの訳のわからん話をそれなりに腑に落ちさせながら進める手腕はお見事。

思いついたことかたっぱしから入れてるなあ、という感じはありますがこれだけテンポいいと全然気にならない。アイデア先行タイプの作家特有の小ネタの切れ味は健在、非リア充の逆転劇的な部分もありで読み応えあります。

試し読み となりのヤングジャンプ

惑星のさみだれ(水上悟志)

12人の獣の騎士と12体の泥人形が、地球の命運を賭けて争い合う! 突然謎のトカゲに騎士認定された雨宮夕日は、トカゲを宙吊りにして「知るか」的態度を決め込むものの、問答無用で泥人形に襲われてしまう。そこで彼を助けた「姫」は、彼だけに世界を滅ぼそうと企む真の黒幕としての自らの側面を見せ、自らも心に傷を持つ夕日は、彼女の騎士として忠誠を誓うことを決める――

かなりカッコつけるマンガで、大ゴマと勢いでガッと読ませる性能が高いマンガです。反面主人公たちに感情移入できず、あまり没入感はなかったです。だからこそほとんど痛みを伴わず、純エンターテイメントとして楽しめたという向きもあるのですが。

この手のマンガ系ブログだとこれを紹介しないといけないという不文律があるようです。ないかな。基本展開は熱く、ギャグはなかなかにゆるい、緩急のきいた作風が特徴。全10巻で完結。

試し読み eBookJapan

【オススメ】かんなぎ(武梨えり)

高校一年生の御厨仁が手彫りした木の精霊像から、唐突に顕現した(自称)産土神・ナギ。スーパーや食品会社の販促ソングを好み、テレビが好きで魔法少女に感銘を受け、親父ギャグを思いついては自分で噴き出し、近所の子供からは不審者扱い……とまったく神様らしくない彼女だが、神薙町に出没する謎の黒いムシ・ケガレを祓う神性を持ち、時折別人格のような表情を見せる。
しかし、なぜケガレを祓うのか? ナギは「本当は」何者なのか? ギャグとシリアスと萌えが絶妙なバランスで並立する人気作。 

かんなぎ

第二十幕”インタビュー ウィズ ザ アンノウン”(4巻収録)より

個性的な友人と魅力的な美少女を配置した学園ラブコメにホラー・民俗学・心理学・SFガジェット、そしてサブカル趣味を組み込んだオタク心を鷲掴みの逸品。3巻ぐらい読むとグイグイ面白くなってきます。
ナギ様は強い魅力のあるヒロインだし、仁もちゃんと思春期の男の子らしさ(痛さ)が随所にあって、逆に新鮮で良い。たまに「なんでそうなる」的展開もあったような気もしますが、感情を揺さぶられるいい物語でした。

「月刊ComicREX」で2006年~連載。作者急病により第三十六幕(7巻収録)を発表後約2年半休載し、色々憶測を呼んで「かんなぎ騒動」とか言われたりもしましたが、無事に再開されて2017年に完結、全12巻。
アニメ版も好評。絵的にも逆影響が感じられますし、コミックスにミニドラマや作中の歌が収録されたCDが限定版に付けられたりと関係は良好なようです。

試し読み BookLive

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