当たって砕けてこびりつけ! 漫画家たちが身体を張ってレポートする、体験取材・突撃ルポ系おすすめマンガ

「これ漫画家の仕事じゃない」


またの名を「企画ものマンガ」とも(僕に)呼ばれる、漫画家自ら取材をし、それを記録するルポ漫画のおすすめコーナーです。自分から進んで行うものもあれば編集部の決定した企画に放り込まれることもあるんですが、後者の場合人があんまりやらないことをしないと面白くないということで代替ろくな目に逢わないですが、時々おいしい思いをしたりもしています。
私人としての漫画家が何かにどハマりしたり、何かに「なっちゃった」結果を発表する作品も含みます。「ネタを1から考えなくてもいい」という性質上、新人作家の修行場としても機能していますし、有名作家の意外な一面が見れたりすることもあります。実利・知識系のマンガは安定して人気が高いので、今後も比較的安定して作品が増えていきそうなジャンルです。

【オススメ】もう、しませんから。(西本英雄)

正式には「西本英雄のマガジン調査隊(仮) もう、しませんから。」。普段見れない週刊少年マガジンの作家たちの素顔を明かすとともに何かしらの企画ものに招待し、各人の私物を賭けた勝負に持ち込んだりサイン会に乱入したり大量のプリンを食わせたりしつつ、西本先生がサメの泳ぐ水槽に放り込まれたりヴァンダレイ・シウバに関節技をかけられたりと完全にバラエティのノリで展開されたマガジンの裏名物的作品。

もう、しませんから。

File.202″アニメのお仕事(後編)”(「もう、しませんから。」9巻収録)より

10年以上続くだけあってギャグの切れ味は良く、マガジン作家競作マンガ(「魔画尽町殺人事件」もうしま8巻に特別収録)のまとめ役にも起用されるだけの高い構成力も併せ持ちます。正直企画ものとしては失敗してる回もあるんですが、「そこをいかにマンガとして成立させるか」がすごく上手い。そういう回を乗り切って、笑いを取れる回でしっかり取りにきてくれる安定感があります。


登場作家は森川ジョージ・久保ミツロウ・瀬尾公治・真島ヒロ・幸村誠(各敬称略、以下も同)などが比較的多く登場し、その他福本伸行・赤松健・諌山創・加瀬あつし・CLAMP・山本航暉・大今良時・さとうふみや・藤島康介・高橋ツトム・沙村広明などなど。編集者も何か弱みを握られるとネタにされます。2004年から色々あってタイトル変更(「ちょっと盛りました。」)、2017年に激流編と称してアフタヌーンでもちょっとだけ復活しました。アンケートで1位とるような作品じゃないんですけど、3位ぐらいに入れてた人が多いんじゃないですかね?

【オススメ】ソレミテ それでも霊が見てみたい(総合プロデューサー:石黒正数 漫画:小野寺浩二)

幽霊話は好きだが心霊体験は皆無。それでも霊が見てみたい――熱い思いに駆られた漫画家ふたりと編集者たちが、全国各地の心霊スポットを練り歩く! という、参加したら凄く楽しそうな企画ものルポ漫画です。

霊を見たら連載終了と銘打ってるのに、一話16Pで3巻+続編(「おばけ道」)まで出てる時点でまあお察しではあります。

ソレミテ それでも霊が見てみたい

第十二夜″霊視体験”(2巻収録)より


最初は関東圏が中心ですが次第に行動範囲が広がり、四国とか青森とかまで足を伸ばしてみたり、霊能力者に診てもらったり、ゲストで「アワーズ」の漫画家が参戦したり、果ては「ムー」編集部まで登場したりと実はかなり豪華な連載です。メンバーが誰も車を運転できないため、アッシー君は編集長。

ここまで笑える心霊漫画というのも珍しく、なんかそういうテイストのもの読みたいけど怖いのは嫌、というアンヴィバレンツな方でも安心の仕上がり。この作品の石黒先生はあくまで「P」ですが、ちょっとだけおまけを描いてます。全3巻で完結。

試し読み eBookJapan

【オススメ】定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~(吉本浩二)

「ブラック・ジャック創作秘話」をはじめなんとなく気になるマンガを連発し、現代の漫画界で少なからぬ存在感を示す漫画家・吉本浩二。だがその小遣いは月2万1千円……! 酒もタバコもやらないし昼飯代も含まない、それでもカツカツだというのに、なんならもっとシビアな他の小遣い夫たちは、毎月どうやってやりくりしているのか? 禁断の秘部を暴くリアル小遣いドキュメンタリー。

定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~

第15話より


一応余暇の過ごし方、お金の使い方が主題なのですが、題材上必然的にせせこましい・涙ぐましい節約術を描くのでプロレタリア文学的な悲哀が滲みます。
吉本先生の本前にも何冊か買いましたが、一冊買うと数十円漫画家の収入になるはずなので、「僕の買った分の印税がこのお菓子になったのか……」とか勝手に思いながら読みました。

他人の貧しい懐事情を覗き見るゲスい野次馬根性を満喫できる作品です。SPA!とか読んでる感覚に近い。ステーションバーの回はとりわけ「うわっ……」という感じで、ネットでも話題に。


僕は結構縛りプレイみたいなの好きなので、共感する部分も多かったです。なんか登場人物のA型率高そう。
家庭を持つということの現実を描いた作品でもあり、同じような境遇の人にとっては救いになるかもしれません。「モーニング」で2019年~連載。

類似作 1日外出録ハンチョウ(原作:萩原天晴 漫画:上原求/新井和也)

試し読み Renta!

いつかモテるかな(よしたに)

元サラリーマン・漫画家のよしたに(38歳)がフワッとしたタイトルで挑む、「連載中に彼女作って結婚する」体当たり玉砕系恋愛指南エッセイ。王道の服選びや笑顔の作り方はもとより、美顔、テーブルマナー、日サロにも挑戦。タメになるノウハウとアラフォー独身の心をえぐる発言が満載です。先生の過去の恋愛体験も収録。

個人的には何を話していいかわからない人は、「相手に興味を持ったら楽に喋れる」という話が一番参考になりました。
よしたに先生は全然恋愛体質ではなく、結婚に対して懐疑的な姿勢も隠さずに披露されていて共感できます。

色々体験する中で徐々に成長していくよしたに先生の姿は、恋愛に臆病な男性の心を動かす楽しさがあります。実践の効果もしだいに目に見えて現れていきますが、最終的によしたに先生の努力は実るのか? 全4巻で完結。

試し読み S-MANGA

55歳の地図(黒咲 一人)

漫画家は売れなくなったらどうなるのか? 誰しも一度は思うその疑問、黒咲先生も最初は別の仕事を考えたりしますが、最終的に下した決断は、家を引き払って四国遍路の旅に出ることでした。

黒咲先生はかなり売れていた時期もあったようで、アレの印税で買ったとかコレの印税で買ったとか思い返しながら衣類を処分し、家具を処分し、原稿を処分します。このくだりはとても切ない。

この先生は身体を張ったおかげかこの作品を世に残せましたが、人知れず消えていった漫画家はどれくらいいるんでしょうね……。全1巻で完結、ラフですが続編「55歳の地図Again~虹の峠から~」も発表されています(全2巻)。

失踪日記(吾妻ひでお)

突然ふとマンガを描くことが嫌になり、原稿をほったらかして逃げ出した89年の吾妻先生。酒を飲んでは鬱になり、金もなくなったので山奥へ。そしてそのままホームレス生活に突入することに……。
暗く笑えない内容を明るく笑い飛ばし、吾妻先生を一躍メジャー作家に押し上げたホームレスルポ漫画の金字塔。

失踪日記

“夜を歩く”より

この内容でギャグ漫画が成立していることにまずびっくりします。子供に聞かせるような話でもないですが、飲み屋で聞くと笑い転げるような話が満載。「笑うしかない」ともいいますが。

2005年発売。1992年の「夜の魚」あとがき及び2002年「お宝ワイドショー」連載作品に加筆、他描き下ろし。正直吾妻先生のマンガは良さがわからないものが多いんですが、このへんのルポものは非常に面白く才能を感じます。ホームレスの他ガス管工事の住み込み仕事やアル中時代の話も収録。2013年「失踪日記2」としてアル中病棟篇発表、全2巻で完結。

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ(永田カビ)

これはですね、タイトルで損してるな、と思うマンガです。じゃあ他にどんなタイトルつければいいのかというと特に案もないんですが、パッとこれ見て興味を惹かれる人というのは結構少数派なんじゃないのか、という気がします(というか僕がそうです)。特に男性。
つってもめちゃめちゃ売れたそうなので、気のせいなんでしょうけど。レズ風俗ルポも興味深いところですが、メインは永田先生が「なぜそこに至ったか」という自分語りです。

自傷行為をする人はなぜそうするのかというメカニズム。あるいはなぜ「バイト先のあの駄目な人」が遅刻や欠勤を繰り返すのか。これらを完全に理解する能力は僕にはないですが、わからないなりに「そうなのか」と思わされました。

こういう題材なのに絵がかわいくて愛嬌があり、終わり方も明るいのがいいですね。どこにも居場所がないと感じる人には、特におすすめしたい良書です。

試し読み ダイジェスト(マトグロッソ) pixiv

AV男優はじめました(蛙野エレファンテ)

大阪在住の蛙野先生(30代、バツイチ)は友人との飲み会に参加し、AV業界の仕事を紹介されてホイホイと参加してしまう。エキストラのつもりが初回から一対一、しかしここで結果(?)を残した蛙野先生のもとにはその後もぽつぽつAV関連の仕事が舞い込むように――250本以上のAVに参加した男が振り返る、AV業界舞台裏ルポ。

AV男優はじめました

第三話”たちっぱなしのエキストラ”より

もともとTwitterで作品を発表されていて、あらためてくらげバンチで連載。内容的には撮影時のカメラの動きとか男優の「演技」指導とか、あとはギャラの話なんかも出てきます。コネで入ってる感じなので男優志望の人にはあんま参考にならんかもですが、現場の雰囲気は伝わってきます。


いくぶんライトに描かれてるので、ショービジネスの厳しい舞台裏! みたいな作品ではないです。シンプルに知らない世界の色んな現場の撮影模様が出てきたり、女優さんの普通の女の子らしい部分が見れたり、そういう面白さ? なぜ蛙なのかというと、「おたまじゃくしを出すからです」とのこと。

試し読み くらげバンチ

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