戦争は歴史の外まで飛び火する。再燃しそうでなかなかしない、架空戦記・仮想戦記マンガ選

すべてがIFになる

架空戦記を扱ったマンガを集めました。「現実の戦争のIFを描く」タイプと「未来や異世界での戦争を描く」2タイプがあり、前者では一時期小説が鬼のように出ていましたが、最近では数も減り、他のジャンルに乗っかる形で出版されるものが多くなりました。

何かしら空想要素を含んで戦争してれば成立する性質上ファンタジー・SFにも大量の作品があるんですが、ある程度現実の戦争に則した面があることを紹介する前提としています。極大魔法でドカーンとか巨大メカでズドーンとかしてもいいんですけど、なんかこう兵站とか、用兵とか、開発とか徴兵とか間諜とか閣議とか訓練とかテロとかメンテナンスとかクーデターとかブービートラップとかのディティールでも魅せてくれるというか、ある程度一般的にイメージされるところの架空戦記を採用してるつもりです。「これ架空戦記じゃないだろ」というものも入ってるかもしれませんが、悪しからずご了承ください。

【オススメ】幼女戦記(原作:カルロ・ゼン 企画・原案:篠月しのぶ 漫画:東條チカ)

色々あって異世界に幼女として転生した元エリートリーマンの主人公は外見は幼女にして知能は老成し、元の世界の戦争に関する知識を有し、かつ軍人としてもトップクラスに優秀。
後方で安全な任務に落ち着きたい彼女? が色々誤解を招きながら結局最前線に放り込まれていくというまさかのコメディ仕立てで進む本格ミリタリーものであると同時に、空を飛んで魔法で攻撃する異世界ファンタジーとしての要素も兼ね備えています。

読んで良かったです。未読ですがレビュー読む感じ原作はかなり読みづらいようで、このコミカライズは入門として最適なのだそうで(アニメもあります)。モデルは第一次大戦前のドイツおよび周辺国。

このサイトやってなかったら読んでなかったであろう作品は結構ありますがこれもそのひとつで、「各国を擬人化した幼女たちがなんか適当にゆるい戦争でもやるんだろう」ぐらいのイメージで読み始めたら全然違いました。まさか幼女が主人公ひとりとは……。

軍靴のバルツァー(中島三千恒)

軍事国家ヴァイセンで出世コースに乗っていたベルント・バルツァーだったが、同盟国バーゼルラントの学校に教官として派遣されることとなる――軍事に限らず19世紀初頭の文化・食事・政治などに対する見識が深く、「騎馬突撃戦のあとにお馬さんを集め直す姿は牧歌的でいいよね」みたいなやたらマニアックな作者の目線も相まってミリオタ・歴史オタどちらも楽しめるお得な作品です。ファンタジー要素はなしで、19世紀後半ぐらいのドイツ周辺がモデル。

軍靴のバルツァー

第14話”解放”(3巻収録)より

バルツァーは帝国軍人ですが作中では籠城戦や撤退戦など不利な戦況によく巻き込まれ、そこで「戦争の歴史を進める」とされる彼の戦略的才能が発揮されていくなど軍師ものとしても満足な仕上がり。

サッと読んでも面白いでしょうが、腰を据えて取り掛かると大変楽しく過ごせました。コラムも充実していて、個人的に満足度のとても高い作品です。「月刊コミック@バンチ」で2011年~連載。

試し読み コミックバンチWeb

将国のアルタイル(カトウコトノ)

始まりはひとりの大臣の遺体だった。史上最年少でトルキエ将国の13将軍の一翼をになう犬鷲のマフムート将軍は、軍事大国バルトライン帝国の陰謀を見抜き、侵略戦争を未然に防いだかに見えた。しかしそれは、大陸全土を戦火に包むルメリアナ大戦の嚆矢に過ぎなかった。

将国のアルタイル

31faşil”将国内乱”(7巻収録)より

オスマン・トルコ風のトルキエを中心に中世ヨーロッパ風の戦争を描く、女性にもおすすめの軍記ものです。絵が繊細で美しい。


とはいえ1巻の時点では微妙。構図がわかりづらく何やってるのかよくわからない場面もあり、展開もそこはかとなく地味。話題作の割には……? と思って読んでると5~7巻ぐらいでとても面白くなり、恐ろしく回りくどいマフムートの策略が炸裂する8巻で「おお」となりました。個人的感想で言えばマフムートが最も輝くのがこの8巻です。
アルタイルは星座で言えばわし座の最も明るい恒星、語源はアラビア語で「飛翔する鷲」

試し読み 月刊少年シリウス公式ページ

将国のアルタイル嵬伝 嶌国のスバル(原作:小林裕和 監修:カトウコトノ 漫画:カトウチカ)

「将国のアルタイル」のスピンオフで、こちらの舞台は極東の島国、「元」日薙嶌国。大陸の大秦国に占領され、屈従の日々を強いられる武士たちの前に、国土奪還を果たさんとすべく死んだはずの皇子が現れる、といったあらすじ。
嶌国はアルタイルで戦略上重要な位置を占める「東弓」の原産国であり、本作でもキーアイテムとして戦況を(物理的にも)大きく揺るがすことになります。

嶌国のスバル

第二回”皇子舞を踏み 筒音郭に響く”(1巻収録)より

アルタイル読んでなくても楽しめる国土奪還もの。頻繁にどんでん返しを仕掛けようとする姿勢は原作同様で、知将が鎬を削り合う合戦は手に汗握ります。
ラストがよくわからなかったので、とりあえずネタバレ感想で解説と疑問点書いてます。


「月刊少年シリウス」で2016~2019年連載、全7巻で完結。カトウチカ先生はアジチカ先生の別名義で、「終末のワルキューレ」と同じ作者です。


とりあえず最後のページ見ると、皇子の喉に刺さったように見えた矢は実際には御簾麻流珠を貫いていたことがわかります。即ち、皇子は肉体的には死んでいない(直接矢の刺さった傷口を見せるシーンも一切ない)。しかし珠を破壊したことで皇子の魂は消滅し、空っぽの小琴の肉体だけが遺された。紅那岐は妹である小琴の魂を元に戻す方法を探している……ということだと思うんですが、そんな手段が存在するのかよくわからず、なんで存在する前提で行動してるのかがまずわからないです。いいラストだとは思いますが、そんな伏線あったっけ……?

試し読み 講談社コミックプラス

銀河英雄伝説(原作:田中芳樹 漫画:藤崎竜)

さながら中世のヨーロッパのような銀河帝国と、レジスタンス的な自由惑星同盟。宇宙航行不能領域と、細長い「回廊」を挟んで面するふたつの国家は、150年もの長きに渡る膠着した戦争を続けていた。
歴史は巡り、ラインハルトとヤンというふたりの天才の誕生により、大きな転換点を迎えることになる。

何度か漫画家されているこの話はSFですが、超能力もアンドロイドも登場しません。あるのは軍略、陰謀、そして生き生きと描かれた、誇り高き軍人たちの生きざまです。
この「誇り高い」というのが結構ポイントで、両国家ともになかなか腐敗しているんですが、彼らはそれに屈しないんですね。

名作架空戦記としては言うに及ばず、ちょっと生きることに疲れてる人にもおすすめの作品です。

アルスラーン戦記(原作:田中芳樹 漫画:荒川弘)

大陸公路の中心に座し、最強の騎兵を擁する王国パルス。14歳となった王太子アルスラーンは、侵略してきた異教国家ルシタニアとの戦への初陣に挑む。しかしそこには、驕れる獅子を屠らんとする罠が仕掛けられていた。

銀英伝と併せてこちらも。管理人はこれの原作凄く好きでした。そのせいでどんだけフェアに評価できてるのかよくわかんないですが、仲間を集めながら少しずつ「王の資質」を示していくアルスラーンの旅路は今見ても燃えます。

原作に比して大きくイメージを損なうこともなく、世界観を広げるこのコミカライズは成功と言っていいと思います。
1986年にスタートした原作小説も2017年末についに完結しました。間が開き過ぎたこともあり終盤は評判が悪く、原作で読むなら7巻で完結と思って読むことを薦めます。マンガ版もそのへんで完結するんじゃないかと。

試し読み マガポケ

【オススメ】銃座のウルナ(伊図透)

異形の蛮族「ヅード」との不気味な紛争が続く辺境の孤島リズルに赴任した狙撃手ウルナ・トロップ・ヨンク。雪原の要塞から照準を練る彼女の胸には、美しい故郷の思い出があった。華々しい戦果をあげることになる彼女だったが、この戦争は見かけほど単純ではないことをやがて思い知ることになる――

銃座のウルナ

第1話”リズル”(1巻収録)より

第1話から強烈で、最初読んだ時「これは絶対ヒットする」と思いました。素朴で牧歌的な故郷と過酷な戦場という対比で魅せる「ディア・ハンター」的ストーリーにSF要素を持ち込み、振り幅と完成度の高い物語に酔わされる名作です。全7巻で完結。

割かし美女のウルナですが、あえて顎をたるませると「健康に育った田舎娘」感みたいなのが出るんですね。こういう記号もあるんだな、と勉強になりました。

試し読み eBookJapan

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