ほのぼのからうんざりまで、ファミリー・家族マンガの灯りの数だけあるドラマ

近くてうるさくてものすごくてありえない

家族もの、ファミリー漫画のおすすめセレクトです。「ファミリー漫画」というとなんかこうのほほんとした、みんなで食卓囲んで白い犬がいておせちもいいけどカレーもね、みたいなイメージが付きまとうんですが管理人の趣味上ドロッとしたやつ、表面上きれいだけど実は大変みたいなのも多くご紹介することになるであろうと思います。
夫婦もの、子育てものは別カテゴリ。ちょうどこれ書いてるのが5月5日なので子育てカテゴリのほうがいいかなーとも思ったんですが、残念ながら実弾不足でした。

この度は御愁傷様です(宮本福助)

「俺が死んだら遺産配分は、ダーツで決めろ」謎と情多き坂上徳造の生涯はしめやかに幕を閉じ、残されたのは3人の子供と1人の孫。そもそも遺産なんかあるのかと遺品整理をするうちに、暗号のようなメモが現れ――葬式ムードのかけらもない、スラップスティック・ホームコメディ。

連作短編に近い内容の1冊もの。徐々に明らかになる祖父の正体、癖のある友人たちも加わって、その場その場のシチュエーションに登場人物が踊らされ続けます。遺産相続ものとしてそれなりにギスギスするんですが、どうあがいても庶民感が漂い、読み味は平和的かつゆるいです。

葬式ものはテーマとして難しいと思うんですがほのぼのしているし、死んだ本人が一番不謹慎でやり切った感があるので全然読んでて嫌な感じがしない、バランス感覚のいい作者だな、という感想です。大笑いするような場面はないですが、単純に読んでて楽しい作品でした。

試し読み まんが王国

スイートホームシンドローム(町村チェス)

娘が小学校にあがるまでに、玄関にばらのアーチを作りたい主婦。彼女がふと足を止めたのは、ベランダにばらの咲き誇る「お手本のうち」。幸せで穏やかな家庭を象徴するかのようなその家の、窓ガラスの奥に見えたものは――(”ばらの花”)
美しいばらの花は、根っこに何を隠していてもいつもすまし顔。ばらや造花や種を人の心になぞらえる、「他人の目」にまつわるみっつの掌編。


最もキャッチーなのは真ん中にある「魔女の箱庭」。SNS中毒のセレブ妻の転落を描く破滅劇でオチも強烈、これ収録してるだけでもおすすめできるエグみと完成度があります。紹介しやすい作品なので他の紹介サイトでもこれに言及してることが多いようで。最後の「希望の種」も僕は割と好きで、後から効いてくる読後感です。

総じて良き隣人が隠し持つねじくれた悪意を遠回しに描くような作品。一冊通して毒の染み込んだ棘が生えてます翌朝ぐらいにかぶれるやつ。

第5回「このマンガがすごい!」大賞受賞後の第2作ということで、そこそこ注目度の高い作家ですがなぜか紙媒体のみの取り扱い。

試し読み このマンガがすごい! WEB

式の前日(穂積)

明日は結婚式――最後の日、ドレスや席順の心配をしたりと、少しそわそわしながらもいつも通りに過ごす男女ふたり。しかし会話を聞いているうちに、なんだか妙な違和感が……。(”式の前日”)
トリッキーな技法を駆使しつつ、様々な「家族」の断片的な姿を描く短編集。

発売当時随分話題になった本で、初読時に「なるほど」と思ったのを覚えています。若干過大評価気味な気もするんですが、でも面白いですし、こういうワザを使う漫画家は貴重なのでそういう意味でも売れるべくして売れた作品です。2013年の「このマンガがすごい! オンナ編」2位。

表題作の他「あずさ2号で再会」「モノクロ兄弟」「夢見るかかし」「10月の箱庭」「それから」を収録。基本どれもいい話で、個人的にはあずさ2号が出色の出来だと思います。

娘の家出(志村貴子)

父の新しい恋人は男の人で、母は母で新しい男を作って、しかもどっちもわたしのタイプで、わたしは思春期で――色々複雑な事情から家を飛び出す少女の読み切りから連載化され、登場人物それぞれのエピソードを重層的に積み重ねるオムニバス形式のヒューマンドラマ。


主役を勤めるキャラクターは女子高生だったり主婦だったり、たまに男の人でそれぞれに価値観があり、その時その時にフォーカスしている問題も色々。肉付けするように新たなキャラクターが投入され、そうすると既存のキャラクターも新しい顔を見せる……みたいな感じですね。段々巻を進めるにつれて面白くなっていく印象です。比較的離婚やLGBTの話題が多いですが、テイストは明るめ。

読んでて思うのは話が前進することがメインではないのがこの人のマンガの特徴かな、と。その状況を処理する時の心理描写がメインで、物語そのものはインフラとして機能する、そういう意味ではちょっと文学的な作品です。

響子と父さん(石黒正数)

イラストレーターの岩崎響子と、庭で模造刀を振り回すお父さん。お母さんはスペイン旅行で不在、次女の春香は行方知れず。岩崎家の歯車は、どこで狂ってしまったのか? と気持ちシリアスに始まった割にはのほほんとした日常ギャグを中心に展開する、一冊完結「ネムルバカ」スピンオフファミリーコメディ。

一応つながりがあるんですが「ネムルバカ」を読んでなくても全く問題ないです。内容は石黒先生の平均値という感じで、可もなく不可もなく、しかし悪くはない、むしろおもしろい。ボリュームも軽くあっという間に読み終わる割に、意外としっかりした手ごたえが残ります。

空回りするお父さんとちょっとキツめの響子のかけあいが主体で、家族持ちの人に割とおすすめかな、と思います。人生ゲームの話とかも面白かったですが、終盤お父さんが切る啖呵にぐっとくるポジションにいるかどうかで読後の印象が左右されそう。

【オススメ】夢の中 悪夢の中(三原順)

家の中は悪夢だ。「にぎやかで」「みんな仲が良い」家庭には好きな読書も静かな空間もなく、スポーツ観戦と大量の食事、押しつけがましい「正しい」人間像への教育。静かな怒りをたぎらせる少女は、自分の子供には好きなことをさせると決意を募らせる。窓際で小鳥を見ていたいというのなら、何時間でも……。やがて訪れる別離と新しい生活、ついに彼女は幸福な未来を手にしたかのように見えたが――(”夢の中 悪夢の中”)
1995年に42歳の若さで夭折した三原順の残した、毒々しくも美しい最後の短編集。

夢の中 悪夢の中

“夢の中 悪夢の中”より

他に「ベンジャミンを追って」「彼女に翼を」「帽子物語」を収録。いずれもブラックで素晴らしい(「帽子物語」は少しハートウォーミングかな)ですが、やはり毒親を題材とした表題作が頭ひとつ抜けている印象があります。来るべくして来る展開なんですが意外性があり、予想できたとしてもそれを二段階ぐらい超えたのが来ると思います。誰にでも起こる悪夢であることを暗示するかのように、物語の中で名前を呼ばれる人物が(本の著者など以外)ひとりもいない、というのも難しいことをサラリとこなしていて洒脱です。

「ベンジャミンを追って」も面白いストーリーテリングで、二回読んでやっと個別の描写の意味がわかりました。台詞で状況を説明する描写も人間関係を利用してごく自然に行い、この運指の見事さだけを以てしても高く評価するに値します。本当に惜しむべき人を亡くしたのだなと思わされる、凄みのある短編集でした。
1991~1992年「BONTON」「ROMANTIC BONTON」「花曜日」発表作を収録。

試し読み 白泉社公式サイト

大蜘蛛ちゃんフラッシュバック(植芝理一)

鈴木実16歳に突然襲い掛かるフラッシュバック。それは亡き父がかつて見た、若かりし頃の母、旧姓大蜘蛛綾のかわいらしい姿だった。そのせいで現在の母に恋をしてしまった彼は煩悶の日々を送るが、学校でも彼に興味を示す女の子が現れて……アフタヌーン流マザコン・ファミリーラブコメディ。

「女の子を描きたいマンガ」という印象で、ヒロイン37歳ですが熟女感ゼロ、セーラー服を余裕で着こなします。絵はさすがに上手く、ラフですが決めるべき絵はしっかりしていてプロの絵です。マザコンものとしては軽め。

絵がちゃんとしてて内容がSF軽く入った日常系寄り、女の子もかわいいということで一日の終わりとかに安心して読めます。お父さんと大蜘蛛ちゃんの思い出がラブコメとして完成してるので、何もドラマが起きないまま話が進んで欲しい気がしますが、実くんのことを考えるとなかなかそーもいかないかもしれません。

試し読み モアイ

【オススメ】SPY×FAMILY(遠藤達哉)

東国(オスタニア)に暮らし、仲むつまじい生活を営む三人家族。その実「夫」の正体はターゲットに接触する目的を持ち、西国(ウェスタリス)から送り込まれた凄腕スパイ「黄昏」だった。だが彼は知らない。自分の「妻」が歴戦の殺し屋であることも、あまつさえ「娘」が心を読むエスパーであることも――裏稼業×疑似家族アクションコメディ。

SPY×FAMILY

MISSION.2(1巻収録)より

2019年3月に連載が開始し、半年足らずで人気と知名度を爆上げした話題作です。物凄くストレートにエンタメ性が高く、1話と2話が完璧過ぎて一発で持ってかれました。


家族ものとしても面白いですが、スパイ漫画かなんかに移動予定で仮置き。登場人物は高確率で裏の顔を持ち、かつ互いにそれを知らないことでズレ系コメディが成立しますが、娘だけが全員の素性を知っているというバランスの取り方が既にキャッチーです。ギャップ萌えの集合体みたいなマンガ。このマンガがすごい!2020オトコ編1位、他色々受賞。

試し読み 少年ジャンプ+

「子供を殺してください」という親たち(原作:押川剛 漫画:鈴木マサカズ)

心を病み、周囲とのつながりを断ち、いわば「いないもの」として扱われる凶暴な人々。それに関わることを余儀なくされた家族もまた次第に心に闇を抱え、しかし身内を病院に運び入れることもできず、誰も何もできないままただ状況が悪化していく。現代の病理に光を当てるノンフィクション原作コミック。

「子供を殺してください」という親たち

#09:【ケース4】″親を許さない子供たち 後編”(2巻収録)より

内側で崩壊している家庭内部に切りこんでいく話で、大体一冊に2~3ケース収録。押川先生は日本で初めて「説得」で彼らを病院につなげることを始めた方だそうで、改変はされてますが全て実際のケースを元にしているとのこと。普通ならただただ暗い気持ちになりそうな状況が、普通とはちょっと違う側面から問題と当人を見る押川先生の視点、行動力によって解決されていく過程が面白さを担保しています。

巻末に寄せられた押川先生の文章も読みごたえあります。あと鈴木先生は不気味な中年描かせるととても上手い。外面はいいのに内部は腐っているのは家庭だけでなく、精神医療や役所の対応など、社会問題を取り扱った作品でもあります。

試し読み コミックバンチ

やったねたえちゃん!(カワディMAX)

「いつか迎えに来る」という母の言葉と、別れ際にもらった熊のぬいぐるみ兼イマジナリーフレンドのコロちゃん。このふたつを心の支えにする少女・小野たえ子は、伯父の小野権造による虐待により完全に精神の均衡を崩してしまう。
かくして生まれたもうひとつの人格は危機に陥ると現れ、一切の躊躇なく殺人を行う。しかしたえ子自身はそれを知らない――

やったねたえちゃん!

第2話(1巻収録)より

元は「コロちゃん」(2007年成年誌「バスターコミック」発表、「少女奴隷スクール」収録)という鬱要素で有名な短編があって、「やったねたえちゃん!」はその中の台詞。本作はその続編で一般誌連載です。これを家族カテゴリのトリに置くだけでオチっぽくなるような作品。
内容的には少女版必殺仕事人みたいな感じで、シビアな環境に置かれた少女が暴力で状況を打開していくバイオレンスな話です。そこそこグロ・暴力描写あり。カワディ先生の特徴のひとつにハードコアな内容とナンセンスなギャグの両立というものがあり、さりげなく紛れ込むとぼけた会話もユニーク。

あとはイマジナリーフレンドの描写が面白いと思います。コロちゃんが勝手に行動してたえ子がそれを叱ったりするんですが、実際には何が起きてるのか? みたいな。しかもそれをたえ子が自覚している。こういうのはワクワクします。
2019年~「コミックフラッパー」で連載。

類似作 殺し屋1(山本英夫)、ミスミソウ(押切蓮介)

試し読み ComicWalker

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