身体の変化と成長、あるいは残り火の強さに戸惑う男女を描く、おすすめ「性年」マンガたち

教えてお姉さん!

漠然と「こういうジャンルはあるな」という認識はあった、成長にともなう性の悩み、性にまつわるエトセトラを取り扱ったマンガたちです。どういうタイトルでいったものかと思ってたら某サイトで「性年」という表現があったのでそのままいただきました。LGBT系のマンガも今のところ入れてますが、そのうち分離する予定。
対象年齢は思春期から老人まで特に縛りなし。百合BLは別でやってるのでそちらご参照ください。

荒ぶる季節の乙女どもよ。(原作:岡田麿里 漫画:絵本奈央)

穏やかな季節は否応なく終わった。高校で文芸部に所属する小野寺和紗は、部員の菅原新菜が口にした「ある言葉」を聞いた瞬間から、少女から大人へと続く困惑に満ちた時間へと足を踏み入れることになる。鉄道好きでのんびりした幼馴染の男子はいつの間にか「男」になり、子供を持つ人は全員あの行為をしていることに気付く――5人の文学少女の悩みと恋は、青春時代をきれいなだけでは終わらせない。

純情少女が過激な題材と正面衝突する話。視点は女性ですがあまり生々しくなく、男性も違和感なく読めるちょっとライトな思春期イニシエーションストーリーです。男性だと、第2回でトラウマえぐられる人も割といそうな気もしますが……。
意外と恋愛要素も出てきたりで、じわじわ先が気になる方向へシフトしていきます。

この手の話はいくらでも嫌悪感を刺激する方向に進めますが、そういう手に頼らないのは好み。高校生としては相当うぶな和紗意外にも、ミステリアス少女や小説家デビューをもくろむ過激派、性に過剰に拒否反応を示す眼鏡、男の子を好きになったことがないおっとり少女と趣向は色々、サブキャラもいい味出してきます。キャラ多い割にはスッキリした印象ありますね。
コメントでおすすめいただいて読みましたが面白かったです。なかなか自分ではこういうの手が出ないので、ありがたい限りです。

しまなみ誰そ彼(鎌谷悠希)

広島県、尾道。友人にホモ動画を見ていることを知られたことから、思いつめて自ら死を選ぼうとしていた少年・要介(かなめたすく)。しかしそこに突然現れた謎の女性「誰かさん」に誘われるようにして、彼は談話室と呼ばれるよくわからない空間に案内される。そこで出会うのは、「普通」ではない、しかし彼のことを、そして自分自身を否定しない人々だった――

この作品の題材はいわゆるLGBTひととおり、そしてそれにまつわる偏見と差別、自分を受け入れ、他人を認めることです。奔放なイメージと豊かな表情描写で全体感はガーリーですが、本質的には闘争的な作品。

尾道空き家再生プロジェクトに取材して描かれていて、古民家を解体して何かに作り替えるNPOマンガという顔も持ちます。マンガワンで読みましたが、この作品に対してのコメントも興味深く、WEBマンガにはこういう魅力もあるのね~などと思ったりもしました。

試し読み pixivコミック

スイートプールサイド(押見修造)

体毛がまるでないことが悩みの中学生男子・太田年彦は、ある日プールサイドで見かけた後藤綾子の腕毛とすね毛に心奪われる。一方彼女のほうでは毛深さにコンプレックスを感じており、勢いあまってどうしたらそんなにツルツルになれるのかと詰め寄った結果、なぜか太田は後藤のむだ毛を剃ることに―― 健康的なエロスを濃厚に放つ押見修造の初連載作品、全1巻で完結

スイートプールサイド

第5話”ステップアップ”より

割とお気楽というかかわいらしい能天気さがあり、押見作品としてはかなりほのぼのとしています。とはいえ絵は割と完成されてて女の子もちゃんとかわいく、そして実にフェチフェチしい押見先生「らしさ」は十分に備わっています。
歪んだ中学生の妄想を見るような楽しさがあり、地味に好き。


2004年「週刊ヤングマガジン」連載、長らく単行本化されてませんでしたが、その後の人気を受けてか別マガで再掲載後単行本化されました。尺が足りなかったのか巻末に透視能力を得た少年の野望と挫折を描く短編「超常眼球沢田」を収録。
ちなみに映像化もされてます。蛮勇と言わざるをえない。

試し読み 講談社コミックプラス

可愛そうにね、元気くん(古宮海)

どんくさい眼鏡っ娘・八千緑七子の「ある姿」に、廣田元気は一目で心を奪われた。しかしこの恋は言葉にできない――彼女をモデルにした同人誌の中で、殴られ、首を絞められ、尊厳を奪われる姿に興奮する、こんな異常な性癖を隠し持っているうちは。

可愛そうにね、元気くん

第1話”八千緑七子”(1巻収録)より

タイトルは誤字ではないです。アブノーマルな少年の精神状態を描写する第一話で(ある種の)読者の心をしっかり掴むこの実力は「買い」。変態バトルロワイアルみたいなとこがあって、内省的な心理描写より倒錯とサスペンスで勝負する、意外とエンタメ寄りの作品です。


出血・リョナ要素がしっかりあるので、暴力描写苦手だとちょっとツラいかも。
これ書いてる時点ではとなりのヤングジャンプで過去の読み切りが4作品公開されてまして、本作のプロトタイプっぽいのは「岩崎さんと可哀想な僕」なんですが、割とド直球にアレなオチだったので元気くんもどうなることやら。「ぼくは大人になれない。」も結構好き。
「週刊ヤングジャンプ」「となりのヤングジャンプ」で2019年~連載。

試し読み となりのヤングジャンプ

彼女が好きなものはホモであって僕ではない(原作:浅原ナオト 漫画:平原明)

好きには二種類ある――■■■が勃つ好きと、勃たない好きだ。同性愛者として年上の男に抱かれる安藤純は、それでも「ふつう」な恋愛や結婚、幸せを諦め切れない。そんな彼の前にBL好きの美少女・三浦紗枝が現れて……。

カミングアウト経験を持つ原作者の体験を元にされており、純の独白やファーレンハイト氏の文章が見せる「”彼ら”はどう思っているか」が強い印象を残すマンガで、ストーリー的にはそれを補強するための舞台設定を整えていくような作りです。といって話がつまらないわけではないですが、結構な急ピッチで進むこの話の肝はやはりそこ。

「BLとゲイコミックってどうちがうの?」みたいなことをぼんやり思ってましたが、こう見せられるとハッキリと別物でした。台詞回しに時折見える下品なユーモアが割と好きです。

試し読み pixivコミック

海浜秀学院のシロイハル(谷川ニコ)

中高一貫の全寮制男子高校、海浜秀学院。校内に女子は存在せず、娯楽も制限された刑務所のような環境の中で、男子生徒の唯一の娯楽にして癒し、それは自慰行為である。ここにその研究と実践および普及に情熱をぶつける若獅子がひとり――

海浜秀学院のシロイハル

第1章より

おおまかに言えば、クールな少年たちが真剣な顔でバカ話するマンガです。マンガワンに時々出てくるちょっとどうかしてる作品の代表格。直球の下ネタしかないですが雰囲気が無駄に上品なので、女子が読んでもたぶん大丈夫。作画担当も女性です。

1~3話で大概ですが、4話でさらに特殊なやつブチ込んできて*おおっと*という感じ。「裏サンデー」「マンガワン」で2020年連載、全6話でおもむろに終了。

類似作 クズとメガネと文学少女(偽)(谷川ニコ)

試し読み 裏サンデー

夜の須田課長(クマザワミキコ)

ルックス抜群で人当たりも良く、女性社員から圧倒的支持を集める須田課長。だが妻とは上手くいかず、というか「世間」と上手くいっておらず、どうでもいいことに時間を奪われて、余計なことを言わないように注意する窮屈な毎日。内心「やってはいけないこと」に心惹かれる彼の生活は段々と荒れ始めつつあったが、そんな彼が世間と折り合いをつけるには――?(「夜の須田課長」より)

夜の須田課長

「ムネチカくんの駄々」より

高校生から熟年夫婦まで題材は広く、それぞれの日常と抱える悩み、性事情などが描かれます。うち3作が夫婦の話で、どれも結構好き。一番いいと思ったのは妊娠数か月の妻と夫の関係を描く「ムネチカくんの駄々」。たぶんそんなに狙って描かれてないんですが、なんとなく誘導にミステリ的なきれいさもあるいい話です。

他「浅岡くんのえす」「ちか子ちゃんの父」「あやちゃんのデブ」を収録、いずれも「COMICリュウ」に2012年初出。全1巻で完結(短編集)。

試し読み コミックシーモア

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