どこから読んでも大丈夫。安定感とのんびりした空気に癒される日常系マンガたち

毎日が日曜日

日常系マンガの定義はよくわからないのですが、おおまかに言えば「大きく変化しない」マンガだと認識しています。ドラマティックな出来事が起こらず、世界観も既存(普通は現実、それも学校や一般家庭が多い)のものを使うので予備知識が必要ない。サッと入ってサッと出れるフットワークの軽さが身上なのかな、と。もう少し細かく言うと(以下早口)、たとえばミステリーやホラーなら「不可解な謎」「緊迫した状況」が発生してストーリーの糸がサスペンドし、そこから元の状態へと回帰しようとする動きが物語の推進力となります。初期状態が張りつめていて読者にとって望ましい方向へと緩んでいく物語が成長・恋愛・立身出世物語、日常から非日常へとスライドしていく物語が悲劇やギャグと考えていくとそうしたサスペンドがないストーリー、常に一定の糸の張りをキープする物語が日常系だと思ってます。
で。正直言って日常系マンガで面白いと感じるマンガはあまり無く、結構読んだつもりですがご紹介できる数は少ない上にあっても学校生活と4コマカテゴリに大分奪われている状態です。子育てカテゴリも作ったらたぶんそっちにも奪われます。なんとかまあ隙を見てぼちぼち増やしていく予定です。

【オススメ】よつばと!(あずまきよひこ)

詳細は不明だが翻訳系の仕事をしているらしいとーちゃんと、どこかの国で「拾った」という謎の少女よつば、隣の家の家族や頻繁に訊ねてくる友人たちがドタバタしながら交流する、日常系最強の知名度を誇る作品。

「幸福」を体現したようなマンガで、少女目線で世界を描く類作とは一線をへだてる何かがあります。

個人的に日常系マンガではこれが一番好きというか、この作品なかったらこのカテゴリ作ってるかどうか……。12巻に載ってるキャンプのエピソードがすごく好き。

試し読み 電撃オンライン特設サイト

【オススメ】からかい上手の高木さん(山本崇一朗)

小悪魔系美少女高木さんが何かというともやし少年西片くんにちょっかいを出しまくり、オタオタする様を見てニヤニヤするマンガです。西片くんもなんとか反撃しようとするのですが、残念ながら「からかい上手」の高木さんにそれすらからかいの種にされることがしばしば……いや毎回……。

結婚後のスピンオフも発表されており、ラブコメとしても読めるんですが基本的にはワンパターンな子供のじゃれあいです。それでなぜ面白いのかは謎。

試し読み 小学館eコミックストア

【オススメ】セトウツミ(此元和津也)

元サッカー部のスター・瀬戸小吉と、メガネの秀才内海想。暇つぶしのためにお決まりの場所で待ち合わせた高校生ふたりは、高度なボケとツッコミ、謎の言語ゲーム、ただのぼやきでひたすら青春を浪費する。毎話同じ場所で繰り広げられる定点観測会話劇コメディ。

セトウツミ

第27話”ノーフューチャーとスーパースター”(4巻収録)より

読み始めたら概ね予想通りの作品だったんですが、読み終えたらだいぶ予想外の作品でした。当サイト基準の日常系としてはギリギリ。
会話劇は漫才に近く「こんな高校生いるか」というぐらい上手いこと言います。ギャグ回も面白い(6巻の絵しりとりは声出して笑った)し、サイドキャラの心理分析・人間観察も鋭く、構成の上手さも合わさって一本の演劇を見終えたような読後感です。

マンガでは珍しくAudible対応。背景およびキャラのコピペが目立ちますが、それを芸にしているフシがある。2013年~2017年「別冊少年チャンピオン」で連載、全8巻で完結。本作が評価されてか、この作品以降此元先生は脚本家として活動されています。

類似作 男子高校生の日常(山内泰延)

試し読み マンガボックス

千と万(関谷あさみ)

中学になったばかりのちょっとわがままな娘・詩万と、マイペースで一言多いけど娘を大事に思う父・千広。お互いの行動にハラハラしたりイラっときたり呆れたり、父の知らないところで娘にも色々あったり。ごく普通の日常を女性らしい視点で描く、父子家庭ファミリー・コメディ。

千と万

第15話(2巻収録)より

このカテゴリの例にもれずほとんど事件の起こらないマンガですが、ささやかながらも着実に詩万が成長していることが描かれます。こういうマンガを読むと「自分の家庭」にフィードバックがあるので、結婚されて子供がいる方が読むと相乗効果で幸せになりそう。あとそん時そん時に彼女が考えることがらは、女性だと身に覚えのあることも多く共感性高いんじゃないかな、と思います。


それとなく姿の見えない千広の妻について事情が明かされたりしつつ、全3巻で完結。作者の関谷先生は普段は成人向けで活躍されていて、twitterによると詩万の絵がうっかり幼くなるのは「そっちに引っ張られた」とのことです。

試し読み コミックシーモア

おおきなのっぽの、(柴)

小学四年生の古戸蛍の悩みは、自分の身長が友達に比べて頭ひとつふたつ大きいこと。それはもう……頭脳は子供、見た目は大人というほどに……。まだまだ成長期の蛍を中心に、小学生の友人たちや家族たちの日常をユーモラスに描く4コマコメディ。

おおきなのっぽの、

番外編(2巻収録)より

ちょっと引っ込み思案で大きな体を小さく丸める蛍をはじめ、逆の意味で中身と外見がアンバランスな千歳、きっぷのいいお母さん、なぜか敬語でさりげなく面白いことを言うかすかちゃんなどキャラが全体的にいい味を出してます。小さな画面の中で人物をたくさん配置しつつすっきりと見せ、それぞれ動かしたり色んな表情をとらせる作画も素晴らしく、日常4コマの中だと相当推せる作品。


「月刊少年シリウス」で2016~2017年連載、全2巻で完結。1巻の売り上げがふるわず打ち切りという形だそうで(ソースは作者ブログ)、「このレベルでもか」と実にせちがらい。柴先生がその後転スラ日記でヒットしたのがせめてもの救いというか、なんというか。
なお、単行本未収録の初期Web公開版が作者noteで読めます。内容は大体同じですが、赤井くんが本編よりツンデレです。

類似作 無敵のビーナス(池田恵)

試し読み コミックシーモア

ひとり暮らしのOLを描きました(黒川依)

毎回「~するOL」というお題で出オチした後、1ページのマンガがあって次へ行くという、本当に一切ドラマがないスタイルのマンガです。

元々twitterとかにアップされてたのが「不憫可愛い」とかいって話題になっての書籍化。人によっては鬱になるかもしれませんけど。

実際に見てもらったほうが早いんですが、OLさんには友達はたぶんほとんどおらず趣味もなく、発作的に何か始めてみるが長続きしないタイプです。家に帰ると待っているのはぬいぐるみだけでインスタント食品ばかり食べているのですぐ体調を崩し、寝込んでいると不安になって泣いてしまったりします。そういうの眺めて共感するようなマンガです。

試し読み ぜにょん

恐竜の飼いかた(いしがきのぼる)

そのへんに普通に恐竜がいる世界で絶賛婚活中のアラサー漫画家・奥村ねね子は、父に買収されて妹を引き取り、そのついでに恐竜を飼うことになる。なんかよくわからん餌を喰い、猫に怯え、家の中で昼寝する巨大爬虫類との暮らしはゆるくて少しだけ現実とは違う。

ペット系亜流日常コメディということで、一応ねね子さんを中心に進むストーリーもさりげなくありますが基本なんも起こらんゆるい作品です。なんとなくよつばとの影響を感じないでもない。

絵はちょっと粗いですが素朴な感じで、小ネタが割と面白い、のほほんとした日常系らしい日常系作品です。

試し読み コミックリュウ公式サイト

今日からゾンビ!(原作:石川優吾 漫画:荒木宰)

なかなか売れない女子高生アイドル・ぷぅか。彼女はマネージャーとともに怪奇スポットでのグラビア撮影へ向かう途中ゾンビの群れに襲われ、最終的に自らもゾンビに成り果ててしまう――見た目はそのままで。「いいゾンビ」を自称する爽やか青年に連れられて辿り着いたのは、ゾンビが集まって日常生活を送るゴーストタウン。料理教室や運動会も開催されるグロく穏やかな日々の中で、ぷぅかは次第にゾンビである自分に慣れていくのだった――

今日からゾンビ!

第2話”新人ゾンビぷぅか”(1巻収録)より

俄然癒されないやつです。一読「なんでもやってみるもんだな」という感想を持ちました。

なんかこのノリだけで描いてるというか、やりたいシーンを片っ端からブッ込んでる感じは嫌いじゃないです。そこそこブラックユーモア効いてますが基本田舎ののんびり暮らしを描いた作品で、ゾンビ耐性あればかわいいキャラも多く、癒されないこともない……のかもしれない……保証はできかねますが。

おとなのほうかご(イチヒ)

のんべのOL天野さんにおしゃまな小学生早川さん、謎めいた霧崎さんにおっとり水野さん、バイト女子の高木さんにガチストーカーの園田さん。多種多様なヒロイン(と男)が彩る毎日は、ラブコメに行きそうでなかなか行かない。オムニバス寄り群像劇。

おとなのほうかご

第81話(3巻収録)より

タイトルが若干いかがわしいですが、そういうのを期待して読むマンガではないです。意表をつくボケとキレのいいツッコミで足元をすくわれました。


すれ違いネタが上手くて、ラブコメ作家としての高いセンスを感じます。各話短い中で上手くオチをつけてくるのもお見事。
気軽に読めるやつを……ということでしたら結構なおすすめ。全4巻で完結。

試し読み ComicWalker

みなクズ with 男子校系男子(ハトポポコ)

「電撃萌王」にそれぞれ短期連載された「みなクズ」と「男子校系男子」をひとまとめにした単行本。「みなクズ」のほうはこのシチュエーションに対してどうするか? 的な大喜利出してわちゃわちゃやったりふと思ったことをしゃべくったりする、題材が変なガールズコメディ。男子のほうはクズしばりもなくほんとに普通に仲のいい男子高校生の日常で、どっちもまったり面白いです。

みなクズ

「みなクズ」第2話”友人”より

「最高のクズ行為はなにか?」に対して小泉さんが出す答えとか結構良く、クズに対して真摯というか、よくこれだけ色々ネタを考えるな……と想いながら読みました。仲のいい人間がしゃべくってるだけのマンガで話題に反して雰囲気はほがらか、ちょっとオシャレですらあります。

こういう雑談系の作品はセンスがモノをいうので、この武器は強いなー、と思う次第です。

踏切時間(里好)

踏切……それはどんなに忙しい人であろうと、あるいは見知らぬ人どうしであろうと必ず足を停め、決して短くない同じ時間を持て余すことになる人生の波止場。まあ地下道あったり歩道橋で迂回できることもありますが、そこでは少なからず踏切がなければ生まれなかったであろうドラマ、出会い、事件が日々発生しているのです――アニメ化原作のオムニバス。

で、そのアニメのキャッチフレーズが「踏切を待つ女の子たちの日常系オムニバス!」で、そういえば女の子率高いです。男も結構出ますけど。はっさくおじさんのcvが若本規夫さんなのは的確。
アニメだとカットされてるようですが、ライトめのホラーなんかもあります。

場所を限定して物語を描くので、背景が各回一か所しか使われず、取材で(たぶん)趣味と実益を兼ねることができて合理的だな、とか思いながら読みました。読者からすると実際に自分の知ってる場所が出る可能性があって、遭遇すると妙に嬉しかったりしますね。

試し読み コミックシーモア

こうふく画報(長田佳奈)

その小さな街で暮らすのは、神経質な和菓子職人や西洋かぶれの女の子、強面だが実直な男、やさしいけど身体の弱い女の子――形は違えど、小さな「幸福」の形は変わらない。一冊完結日常系大正オムニバスストーリー。

こうふく画報

第5話”小さな訪問者”より

かつての日本を題材にゆっくりした時間を描く作品です。これもほぼ出来事が起こらない、というより「起こらない瞬間」を切り取った作品なので、語られない背景にもストーリーがあります。真新しくないですけど、表紙から期待できる通りのものをしっかり出されたという印象。

絵もうまく、ツボをちゃんと抑えたつくりで粗がなく、amazon見るとレビューも好評。ただちょっとガードが固い印象は否めず、僕個人の感想としても☆4ぐらいです。
軽く縛りがあるようで、毎回何かしら食べ物が登場します。

試し読み コミックシーモア

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