実験、雛形、デビュー作もあり。サクッと読めるおすすめ短編集マンガたち

短編集といいつつ

中編も混じってます。そこ分ける必要は別にないかなーと思うんでそうしてるんですが、「おれは30P以上の話なんて読みたくないのだ」という人もいるかもしれないので、おおまかに収録作を併記しています。例えば2作品しか収録されてない本であれば、大体お察しいただけるかと思います。

【オススメ】イグアナの娘(萩尾望都)

表題作「イグアナの娘」は家族の物語。一種の虐待による醜形恐怖をイグアナに例えた作品で、今見るとちょっと大島弓子チック。ドラマ化されたのでそちらをご覧になった方も多いと思います。
異論はあるかと思いますが、絵に関してもこの時期が一番いい気がします。
イグアナの娘

いろいろ読みましたが、僕が読んだ中で一番面白いと思ったマンガ短編集がこれです。

収録作は「イグアナの娘」「カタルシス」「午後の日差し」「学校へ行くクスリ」「友人K」、小学館文庫版ではこれに「帰ってくる子」が付きます。お気に入りはやはり家族の確執を描いた「カタルシス」。作者自身の体験を反映しているそうです。

【オススメ】ロングロングケーキ(大島弓子)

夢の中に現れた宇宙人の宇さんは、目を醒ましても枕元に座っていた。あらゆる物体に化け、奇妙な超能力を操る宇さんのおかげで何不自由のない暮らしを手に入れた主人公だったが、周囲から見ればそれは狂気への傾倒でしかなかった……。(”ロングロングケーキ”)
大島先生の中では少し難解なほうですが、僕は非常に好きな短編集です。

デジャヴュや人格転移などのSF要素もありつつ全てが砂上の城のように曖昧で、現実という足場は儚く、ほとんど変な夢を見ているような読書体験を楽しめます。

収録作は「いちょうの実」「ジギタリス」「秋日子かく語りき」「ロングロングケーキ(終わらないケーキ)」他3編とあとがき。

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天人唐草(山岸凉子)

厳格で口うるさい父の教育方針のもと、失敗を過度に恐れ、外の世界でうまくやれなくなっていく岡村響子。やり直せるチャンスはあった、しかしそうはできなかった彼女がついに「壊れる」きっかけとなったのは――(”天人唐草”)
表題作は自薦作品集やスペシャルセレクション、文庫全集でも書籍タイトルとして使われる山岸先生の代表作のひとつです。単行本初出は下記リンクサンコミックス版で、他に「キルケー」「夏の寓話」「悪夢」を収録。

天人唐草に絞って言うとこの突き放した感じ、「面白さのために描かれた悲劇」はまさに山岸先生の真骨頂。毒のさじ加減が絶妙で、全く救いのない話ですが後味は悪くありません。

が、僕がたまたまこの話を他人事として読める身の上だからそう感じるだけで、読者によってはかなりダメージを受ける可能性があります。30年前の作品ですが、今読んでも古びてないのはそのあたりの普遍性でしょうか。個人的には「キルケー」も結構好き。

ミッドナイトブルー(須藤佑実)

卒業しても4人で集まろう――そう約束したのに、彼女は交通事故で死んでしまった。残された蓮見他二名は約束の場所へ出向き、彼女のことを振り返る。ところがその場にはなんと彼女も参加していた。ただし、幽霊として、蓮見にしか見えない形で――(”ミッドナイトブルー”)

少し変わった形の恋愛物語集です。ダーティかつハートフルな味わいのある夫婦もの「ある夫婦の記録」が僕は好きですが、「箱の中の思い出」もオチで「ははあ」と思いました。

収録作は「箱の中の思い出」「夢にも見たい」「今夜会う人」「ミッドナイトブルー」他3篇。
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ワールドアパートメントホラー(大友克洋/今敏/信本敬子:原作 漫画:今敏)

兄貴分が任されていた多国籍アパートの立ち退きを命じられたヤクザ者、一太。あらゆる手を使って住人たちを追い出そうとするが、敵もさるものそう簡単には従わない。
さらにアパートに幽霊が出るという話が出てくると、次々に妙な現象が起こり始め、次第に状況はスラップスティックに、画面は今敏のアニメっぽくなっていく。(“ワールドアパートメントホラー”)

「PERFECT BLUE」や「千年女優」で知られる今先生ですが、元々は漫画家として活躍されていました。表題作は大友克洋監督作品のコミカライズでありながら、ここで現れているのはまぎれもなく今映画の世界です。

とにかく絵が素晴らしく、空間と人物、そこに入り込む幻視的世界のバランス感覚に圧倒されます。奥行きのある廊下での立ち回りとかを描かせると、この人の右に出る人はそうそういない。

なかなかに凄まじいので、機会があればぜひ。表題作の他、「お客様」「わいら」「JOYFUL BELL」を収録。

さよならにっぽん(大友克洋)

大友先生の比較的初期作品。ニューヨークで空手道場を始めた薄汚いおっさんの、それなりに騒がしくたまにバイオレンスなビンボー暮らしを描いた作品で、順序が逆なんですが吉田秋生先生とか好きだとグッとくると思います。あと昭和のタカりまくりタコ部屋貧乏学生ものが好きな人もおすすめ。表題作、「East of The Sun, West of The Moon」「聖者が街にやってくる」「A荘殺人事件」を収録。

「AKIRA」みたいな派手さはなく、抑えた筆致で淡々とストーリーを描くタイプのマンガです。雰囲気的には山本直樹作品とかに近い。

往年のジャズマンの訪日を描いた「聖者が街にやってくる」が、渇いた哀愁があって僕は好きです。

【オススメ】踊る教室(田村由美)

いつも突っ張っている女子高生、はるこ。不敵な男子稲荷。彼らは他の生徒とはやや考え方が違い、そのために少し疎まれている。
そんなある日、ふたりを含む数人の高校生と教師が、テロリストによって教室に監禁されてしまう。彼らは監禁状態からの脱出を目指そうとするが、次第に生徒対テロリストという構造は、違う対立構造へとズレこんでいく――(”踊る教室”)

純粋というか「尖った」内容で、子供の目から馬鹿な大人を批判的に描きながら、ストーリーとしても伏線を綺麗に回収しつつ見事にまとめ上げています。エピソードを構成する能力の高さ、場面転換を魅せる演出が上手く、一読ため息しか出ません。ちょっと人間関係にうんざりした時に読むと、謎の勇気をもらえます。

田村節全開の表題作の他、「ぼくらの村には湖があった」を収録。もともと好きな人はもちろん、「7Seeds」が長すぎてちょっと手が出しづらいという方にもおすすめ。

若い山賊(吉田戦車)

かつてプロ野球を目指した山賊・島田と、そのライバルだった警察官・亀井。ふたりは再び山中であいまみえ、お互いになぜプロを諦めたのかとなじり合う。(”若い山賊”)
4コマ作家のイメージが強い吉田先生ですがストーリーものも描いていて、こちらの短編集では夢や戦いに青春を捧げたりするちょっと(大分)変な話が色々と読めます。

「若い山賊」「息子の石」「すこやか赤子バトル」「ビバ! とかげ相撲」「めかけ」他4コマ「はちみつ」と徳育話材百選を収録。徳育話材は昔の童話? のコミカライズらしいんですけど、ギャグのようなナンセンスのような、不思議な世界観があって面白いです。

赤子バトルも良くて、乳幼児たちがチャンピオンを目指し、夜な夜な集まって争いを繰り広げるというもの。吉田先生は目の付け所がおかしい。

中編「象の怒り」と2冊ワンセットの文庫版もあって、電子書籍化もされてるのでそっち貼っときます。

フロイトシュテインの双子(うぐいす祥子)

高額の報酬につられて引き受けた家庭教師の仕事。しかしそこで待ち受けていたのは、人を人とも思わない恐るべき双子だった――表題作「フロイトシュテインの双子」3作及び後日談、「森の中の家」「とむらいバレンタイン」「星空パルス」「恋の神様」を収録。

フロイトシュテインの双子|集英社コミック公式 S-MANGA

教師を目指す冴えない大学生・桜井は、古めかしい洋館に住まう可愛らしい双子の家庭教師をすることに。しかし、その双子の正体は、黒魔術に傾倒する邪悪な子どもたちであった。双子の“玩具”として弄ばれる、桜井の悪夢のような毎日が始まる…! ホラー漫画の可能性を詰め込んだ、うぐいす祥子初の短編集!【収録作品】森の中の家/とむらいバレンタイン/星空パルス/恋の神様

ひよど……うぐいす先生らしく、ポップなユーモアとB級ホラーの入り混じった作品集です。大体どれも陰惨な話なんですがあんまり怖くなく、「女の子がかわいかったな……」とかいう感想が残ったりするのは作風のせいなのか僕が麻痺しているのか。

最後の一コマでいきなり別ジャンルになって終わる星空パルスが割と好きだったりします。

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私の嫌いなおともだち(雁須磨子)

自信満々で毒舌家の茜は、次第にクラス内で孤立していく。表面上彼女と仲良しのマナも、彼女が悪口を言われているのを聞いて秘かな喜びを感じ、また陰で茜に悪口を言われていることを薄々察知している……。(”私の嫌いなおともだち)

↑だけはちょっと毛色が違いますが、ややライトめの百合系短編集です。「私の~」2作他、「Little by Little」「誘われ温泉」他4作を収録。

なぜか読んでて「やおい」の語源を思い出しました。「山なし・オチなし・意味なし」でやおいなんですが、ある種それに近いものを感じます。

話としてしっかり顛末がつく作品もあるものの、微妙な心理的距離感とか、考え方とか、そういうものをつらつらと描く中で生まれる分断された流れを見るような作風です。合わない人は合わないと思います。

作中で「人指し指より薬指が長い人は同性愛的傾向がある」みたいな雑学が紹介されてますが、理系だとか、リスクをとりたがるタイプだとかも聞いたことがあります。実際どうなんでしょうね?

あの子と遊んじゃいけません(どろり)

異端の漫画家どろり先生の初短編集です。webメディア「オモコロ」内で発表済の短編13篇他、描き下ろし「女性博士と夏休み」「低級文化禁止区域」を収録。

収録作の中だと「子供に見せたくないユーザーレビュー」が一番好きで、マジで名作です。毒もハンパないですが。
あの子と遊んじゃいけません
今後も単行本に入らなそうなところをチョイスすると、残像くんとか名犬ラッキーとか文雄くんは広告じゃないとかも結構好きです。

突然壁にぶち当たるような不可解なオチにも定評があり、「絶対子供に読ませてはいけない」とまでは思いませんが、読ませたらなんとも言えない顔をされると思います。

Present for me(石黒正数)

砂漠化した世界で身動きのとれないロボットと少女の出会いを描く表題作の他、「ススメサイキック少年団」「なげなわマン」「カウントダウン」他3篇収録。初期作品集ですが既にある程度完成されています。SF作品が多く、ミステリー要素はほとんどありません。
Presentforme

「いい話」の表題作より、僕はなげなわマンとかのほうが評価高いです。こういうオチのために全て投げ打つような作品は割と好きですね(投げ縄だけに)。

説得ゲーム(戸田誠二)

ゲーム会社主任にしてマニアの尾崎が家に持ち帰ったディスクにまぎれこんでいた「説得ゲーム」……起動すると拡張現実によって描写されたのは、ビルの屋上から今まさに飛び降りようとするひとりのOL。説得に失敗すれば彼女は落ち、ゲームオーバー。尾崎はゲームの製作者をスカウトするために、細い糸をたぐるように調査をすることになるが――(”説得ゲーム”)

説得ゲーム

“説得ゲーム”より


他、タイムマシンや脳移植など題材はいずれもSF系ヒューマン。個人的には男性の出産が可能となった社会での夫婦を描く「クバード・シンドローム」が一番好きですね(そのうち実現しそうな気もする)。同作者の「スキエンティア」同様、おすすめのマンガ短編集としてよく名前があがるレベルの高い作品です。

昔読んだ時に比べると「追いついてきた」と感じますが、それでも出てくる技術はまだまだ人類にとって未知のもので、それを題材に人の営みを描き出す……みたいなのを描かせると戸田先生は漫画界屈指の名手。斬新なアイデアではなく、表現の上手さで魅せてくれる作家です。

薔薇だって書けるよ(売野機子)

身寄りのない素直な点子と恋に落ち、晴れて結婚生活をスタートすることになったもの書きの八朔。ふたりの幸福なアパート暮らしは、しかしあまりに常識知らずの彼女に辟易したことから次第に距離が開き始める。帰らない夫の好きな薔薇を買いにいった点子は、それが一輪400円もすることを、すぐに枯れてしまうことを知る――(”薔薇だって書けるよ”)

これは表題作がめっちゃいい。めっちゃいいですよ。タイトルも読むと意味わかって素晴らしい。
薔薇だって書けるよ

“薔薇だって書けるよ”より

表題作、「オリジン・オブ・マイ・ラブ」シリーズ3作、「日曜日に自殺」「遠い日のBOY」「晴田の犯行」を収録。この晴田の犯行が「コミティア」初登場で読書会投票1位を獲得したのだそうで、処女作品集ということになりますが才能ハンパないです。

試し読み 白泉社公式サイト

【オススメ】売野機子のハート・ビート(売野機子)

「イントロダクション」「ゆみのたましい」「夫のイヤホン」「青間飛行」収録。表紙はなんとなーく80年代ですが、中身はそうでもないです。

共通して音楽が小道具として扱われ、いずれも面白く、一作一作じっくりと感想を書いてみたい気すらします(書きませんが)。

個人的には天才シンガーへのインタビューを引き継ぐことになった若手音楽ライターを描いた「青間飛行」が最も好きです。
売野機子のハート・ビート
恋愛と青春の闇を描くスタイルですがタッチは軽め。一枚のアルバムのような構成を感じますが最後のページは開放感があり、収録順序的にもこれがベストのような気がします。

夜とコンクリート(町田洋)

酔った同僚を連れた妙な男が道をやってくる。仕方ないので部屋にあげることになったが、ふと妙な男が「水道が出しっ放し」だと呟くのを聞いた。部屋の中を見てもいないのに――(”夜とコンクリート”)
表題作、「夏休みの町」「青いサイダー」「発泡酒」を収録。

休日感あふれる、おっとりとした雰囲気の短編集です。おしゃれな夕暮れのカフェとかで読むのに最適。

個人的には「青いサイダー」が好きで、絵的にもこれだけちょっと異質です。幼い「僕」の前に現れた友人「シマさん」は、少し様子がおかしくなっていた――というような話で、ちなみにこのシマさんはビジュアル的には無人島です。これがなんなのかはちゃんと説明されるんですが、狭い無人島(シマさん)の上で子供がくつろぐビジュアルに既に価値があるなーと思う次第です。

試し読み 詳伝社特設サイト

ウムヴェルト(五十嵐大介)

人には、あるは蛙には、世界はどんなふうに見えているのか――? ウムヴェルト=「環世界」をテーマとして「ディザインズ」の原型となった表題作の他、「ガルーダ」「鰐」「魚」「ツチノコ」他5編を収録した奇妙で豊かな未確認生物系短編集。

実に出オチな絵本風の「よかったね雨男」がささきまきみたいで好みです。あと「魚」もバッサリした一発ネタで、よくこれで一作描こうと思ったな、と感じる作品が多い。

環世界以外にも身体の大きさによる時間感覚とかの話もあって、主観をテーマとした短編集と見ることもできます。サラリと描かれてますが、膨らませると長編になりそうなアイデアも多く見られる何気に贅沢な一冊。

試し読み 講談社コミックプラス

【オススメ】いちばんいいスカート(谷和野)

母がフリマで買ってきた、かわいいけど着るとちくちくする300円のセーター。虫食い穴ができたことをいいきっかけに着なくなったそのセーターは、祖母が穴を上手に繕ってくれたことで捨てられない宝物に変わった――(”みづくろい”)

どきっとする言葉遊びで読者を驚かせる表題作、ハートフルな「みづくろい」の他、こたつやクリスマスツリーの擬人化(「おこったちゃん」「みんなの、大きなかわいい子」)、ちょっと切ない幽霊譚? の「同居もん」に「空に落ちる」、「よいお菓子わるいお菓子」を収録。

おこったちゃん

“おこったちゃん”より

ずいぶん色々できる人だな、という印象。あと萩尾望都好きそうだな、とも思います。器用貧乏というのではなくバランス良くパラメータ高い感じで、毒のある話もあるんですがなんか読むと単純に幸せになります。

マンガ読んだなー! って感じ。コムズカシーのも好きなんですが、たまにこういうの読むとほっとしますね。

いちばんいいスカート

“よいお菓子わるいお菓子”より

個人的に一番好きなのは最後の「よいお菓子わるいお菓子」。中核部分がすっぽり抜けたパズルみたいな話で、ヒロインの周囲にあるいくつかの問題がそれぞれに別方向を向いてるふしぎな構成。しかしだからこそ、「片付けなくてはいけない膝の上のお菓子」が暗示する説明できないヒロインの感情がリアルに胸に迫るというまあこれは変な魅力のある短編ですよ。ちなみに谷先生のデビュー作でもあります。

試し読み 小学館公式サイト

お目にかかれて(波津彬子)

霊が出るといういわくつきのビルを買い取った堅物社長アーノルド・マクファーソン(アーニー)。不動産屋を帰し、ひとり佇む彼の前に現れたのは、若かりし頃の姿をとった祖父グレアムだった。他人には見えない祖父だったが、アーニーのことを密かに慕う秘書・ミルドレッドだけは例外で――? 欧米を舞台に紡がれる、ハイセンスでどこかユーモラスな5つの物語。

お目にかかれて

“お目にかかれて”より

波津先生(はつあきこ、と読みます)は「雨柳堂夢咄」などの作品で知られる作家で、この短編集は割と初期。大人びた描線と、ハーレクイン的ロマンスを基調に時々見せる能天気なノリがじんわりと読む人を幸せにしてくれます。とっつきやすいので、ハーレクインって何? という方にもおすすめ。

収録作品は表題作、「予期せぬ出来事」「南の果てのロマンス」「夢の庭の未亡人」「イントロダクション」。文庫版だともう何作か付くようです。基本的にはどれも洒落た風情のロマンスですが、大富豪の第二の青春を描いた「イントロダクション」も哀愁漂う佳品。

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宝石色の恋 西UKO作品集(西UKO)

OL、店員、大学生――都会の街を歩く大人の女たちの様々な恋の形は、美しいけれど時にまるく、時にいびつ。「ルーレット」「mio post」「マネキン」「baby you」他、17粒の宝石のようなガールズ・ラブコレクション。

宝石色の恋 西UKO作品集

“恋女”より

初出は大体「楽園」、一部同人誌。作品数が多い分単話のページ数は少なめで、サラッとシーンを切り抜いたスナップのような作品が多いです。中には日常ミステリ形式で恋の始まりを描く「mio post」、言葉遊びでしゃれた後味を残す「777」のようなトリッキーな作品もあり、センスの高さが伺えます。

最期の「the OL cafe」は会社風の企画ものカフェを描いた妄想作品で、無駄によく考えられていて楽しい作品です。オシャレな世界観もいいですが、後最後にこういうしょうもない感じのやつが来るとなんとなく嬉しい。

試し読み ebookjapan

ボクんちの幽霊(笠原千鶴)

新しく引っ越した新居で、彼女が指差した空間。誰もいないそこには、僕には見えない誰かがいるという。しかしあんまり気にしないで始まった「ふたり」暮らし。意思疎通手段は、風もないのに揺れるカーテンだけ――(”ボクん家の幽霊”)
flowers期待の新鋭が綴る、心の隙間を撫でるような短編集。

ボクんちの幽霊

“マイ・スイート・シネマ”SCENE.1より

表題作が一番地味で、その他「マルコの小さな図書館」「マイ・スイート・シネマ」「画家と助手」を収録。一日だけ若返った老婆がひょんなことから知り合った若者と一日だけ遊びほうける「マイ・スイート・シネマ」がもうプロットだけでも結構好み、ロマンチックでノスタルジックで、一番キャッチーです。好き。

少しだけトリッキーなこともしてますが、シンプルにいい話が多いです。前に何か別の作品にも書いたかもしれませんが、ヒューマン上手いのは作家の特質として「選ばれてる」な、と感じます。僕にはこういう話は上手く語れない。
題材も幅広く、色んなものを描けそうな作家だと感じます。

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スピカ ~羽海野チカ初期短編集~(羽海野チカ)

なにかを好きになることは、バカにされ、笑われるほど悪いことなのか? ――周囲の言葉に傷つきながらも夢を追いかけるバレリーナ、憧れの探偵を目指す少年のジュブナイル、押井守作品のキャラクター評……「ハチミツとクローバー」連載開始前後、2000~2004年の出版社を越えた作品を収めた、心温まる短編集。

ミドリの仔犬

“ミドリの仔犬”より

個人的にはキオの少年探偵シリーズ(↑)が好きですね。なんか懐かしいものを読んだ感覚で、シンプルに面白かったです。
表題作「スピカ」が最も後の諸作品に近い雰囲気で、明快なメッセージ性とキャラクターの振る舞わせ方の重ね合わせで、既に作家としての「見せ方」をある程度確立していたことが伺える作品です。あとやっぱり作者の人柄がまずキャッチーだなと。
スピカ

“スピカ”より

あえて難点を言えば、100ページぐらいしかないです。スペシャル描き下ろしとかそういうのはなく、ちょっとボリューム不足に感じるかもしれません。
でもそこで足しちゃうと「初期」作品集じゃなくなっちゃうのでどうもね……。デビュー当初でこのクオリティということで、やっぱり才能ある人なんだなー、と思います。

試し読み 白泉社e-net!

もう卵は殺さない(香魚子)

この世のあらゆる物語の主人公が待機する謎の空間「主人公斡旋所」。世に出される主人公の前には扉が現れるが、売れ線とは言えないストーリーのために、笹木綾子はいつまでも呼ばれることがない。他の「幼稚な」作品を小馬鹿にする彼女だったが――(”もう卵は殺さない”)
没になった過去作の主人公へささげる表題作の他、「きょうはなんの日」「茉莉花にくちなし」「亘理くんとふれたなら」を収録。

“もう卵は殺さない”より

上の画像の「男と女が好き合うだけの話」は「亘理くんとふれたなら」のこと。正しいメタ系ギャグを見た、という思いです。
他三作は(ヒロインが悪霊だったりはしますが)割と正統派の少女マンガで、表題作が頭ひとつ抜けてる印象。とりあえず「少女向け」の垣根はゆうゆう超えてる作品だと思います。

ちなみに探偵一族の末裔・赤柳りつが高校の隣の席の男の子と街の事件を鮮やかに解決する(トリックに矛盾などない)話も即お呼ばれしていて、普通に読みたいんですが、軽く調べた感じ実在しないようで、それは残念。

試し読み 集英社公式サイト

このかけがえのない地獄(アッチあい)

魔法少女はトイレで着替えなんかしないし、ステッキを手作りもしない。コスプレなんて言葉で片付けて欲しくはない、それは彼女のかなわない夢だった。(”このかけがえのない地獄”)
oimo先生が名義変更して送る短編集。表題作の他、「死んでいる君」「4番目のヒロイン」「黙れニート」「僕は彼女の彼女」を収録。

表紙見ての通り女の子はかわいいです。内容は全体的にひと捻りしてあり、じくじくした女性的な毒があって、阿部共実先生など好きな方だとおすすめ。「僕は彼女の彼女」の後書きで「普通に男女がくっつく話はムカつく」みたいなこと書いてあっておお……と思いました。

こちらもメタですが、ラブコメにおけるラッキースケベ要員の女の子が「身体触られるだけの係」みたいなこと言われる「4番目のヒロイン」が人気高いようです(僕も好き)。なかなか予想外の終わり方をしますが、この短編集だと一番後味がいい話かも。

試し読み コミックシーモア

きっとすべてがうまくいく(甘詰留太)

院生あがりで娘みたいな年頃の女子に突然告白されて、戸惑いを隠せない助教授の小此木(四十路)。積極的な彼女の態度に徐々に心を許していくが、ふと我に返った彼は20歳近い年齢差に躊躇してしまい――(”きっとすべてがうまくいく”)
蠱惑的な女性描写と豊富なアイデアで勝負する、甘詰留太詰め合わせ短編集。

きっとすべてがうまくいく

”きっとすべてがうまくいく”より

↑ネットでよく紹介されている、「自ら何もしなければ人はただ歳をとった子供でしかない」はこのマンガが元ネタです。甘詰先生というと「ちょっとエッチなマンガ描く人」ぐらいの認識でしたが、熱血仕事もの「あ行のプロ!」や差別をテーマにした「雨の日はカレー」などストーリーも幅広く絵もうまく、読んでみるとかなり楽しい作品集でした。

甘詰先生の作品だと僕はこれ書いてる時点で「ナナとカオル」だけ読んだことがあって、あれに一番近いのは「ぼくの○○ペット」だと思います。「ふたりでもひとりエッチ」は馬鹿馬鹿しくて割と好き。他「星の王女さま」と後書き、別冊の後日談を収録。

試し読み コミックシーモア

【オススメ】竜のかわいい七つの子(九井諒子)

いがみ合う山国と海国。しかしその国境に一匹の竜が巣を作った。近づくと喰われるその道を、なぜかひとりの商人が越境してやってくる。敵国の人間どうしにも関わらずそこに交流が生まれるが、しだいに竜の巣立ちの時は近づき……。(”竜の小塔”)
新解釈ファンタジーの名手・九井諒子がその名声を決定づけた、瑞々しい発想に満ちた短編集。

文句なくおすすめです。名作しかない。個人的に一番印象に残ったのは「犬谷家の人々」で、SFとミステリがごっちゃになった九井先生らしいパロディギャグ。「狼は嘘をつかない」も「あ、そう来るのか」と驚きました。

一作一作の構成が上手いです。そしてどれも品が良く、さわやかな後味を残します(「子がかわいいと竜は鳴く」は若干納得いかないラストですが)。他、「人魚禁漁区」「わたしのかみさま」「金なし白祿」を収録。

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