栄枯盛衰、悠久の時代にそれぞれの戦いがある。名作から異色作まで、おすすめ歴史ものマンガ選

廻る廻るよ

ざっくり歴史カテゴリです。ある程度作品数が見込める時期についてはそれぞれ独立するつもりなので、ここでは隙間産業的に題材になりにくいものをメインに蒐集していく形になります。
厳密に言えば、ほぼ全てのマンガは歴史ものなわけですが。あと2000年ぐらいした時にマンガのカテゴリ分けがどういう感じになっているのか……というような、果てしない時間の流れとその時代の人々の暮らしに思いを馳せるようなカテゴリとなっております。戦争もの多め。戦国マンガは独立したカテゴリとなっています。

日本を舞台にした歴史もの

【オススメ】逃げ上手の若君(松井優征)

時は1333年。鎌倉幕府当主・北条高時の二男として生を受けた北条時行は、腐敗気味ながらも暖かな宮中でのびのびと、その圧倒的な逃げ足を習い事の回避に使いながら育っていた。しかし栄枯盛衰は世の習い。
のちの時代までも名を残す英雄・足利高氏の謀反によって訪れる破滅こそが皮肉にも、少年を英雄たらしめる条件であった。「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」作者による貴種流離譚。

逃げ上手の若君

第1話”滅亡 1333”(1巻収録)より

主人公が強敵に挑んでは成長し、頼りになる仲間を集め……としっかり少年マンガなんですが、トリックスター諏訪頼重を始めラリったギャグが要所要所に挟まれ、死人がバンバン出る割に凄惨な印象があまりない(むしろ人の死すらギャグにする)のは松井先生のブラックさならでは。相変わらず変なのに王道な作風です。
採算度外視の企画らしく、色々新しい試みがなされている(コラムなどで裏事情が読める)のも見どころ。


マニアックな時代設定で前提知識あまりなく読みましたが、読んでると人名と顔がスルスル入ってきます。今の子はこういう歴史の授業楽しくなりそうな作品が豊富でうらやましい。
「週刊少年ジャンプ」で2021年~連載。

試し読み 少年ジャンプ+

アンゴルモア 元寇合戦記(たかぎ七彦)

時は1274年。朽井迅三郎他対馬に流刑された数名の咎人は、高麗から迫る蒙古・高麗連合軍を迎え撃つために自分たちが送り込まれたことを知る。文永の役(1274年)を舞台としたこれまた珍しい歴史マンガで、マイナー誌からスタートしつつもその面白さから注目を集めた叩き上げの作品です。

若干近代戦的な部分もありますがまだまだ野蛮、鎧来て馬に乗って名乗りをあげて突撃する軍団戦、ゲリラ的な戦略や国際法もへったくれもない凌辱は迫力があり、血沸き肉躍る古代戦争劇が読みたければかなりおすすめ。

2018年にアニメ化。まさかのラブコメ要素もありますよ。

無名の人々 異色列伝(平田弘史)

教科書に名を残さず消えた、異様なる人々がいた。一万石の家臣から野に降り馬の轡を作る鍛冶屋となった吉村又右衛門、糸くずすらもしっかり保管し、寓話のような人生を生きた大野仁兵衛、その凄絶なる予言により無益な争いを鎮め水神となった村上織部道慶……平田弘史円熟の連作短編集。

各話は第三者的な目線から語られ、人物のエピソード自体の面白さもさることながら、それをチョイスし調べ上げたエッセイを読んでいるような感覚があります。とにかく頑固なキャラクターが多く、天皇の土葬・火葬問題を扱った「葬変」はその最たるもの。

元々剣豪もので鳴らす作者だけあって殺陣シーンなどはおさすが。末尾を飾る「怪力の母」は特に好評を博したらしく、その後連載化されました。

海外を舞台にした歴史もの

【オススメ】ヒストリエ(岩明均)

紀元前340年頃――ギリシャの都市国家カルディアを離れ、マケドニア王国で王の書記官として名声を手にし、軍事に於いても才能を発揮した謎の人物――エウメネス。アルキメデスやアレクサンドロスといった当時の有名人物を絡めつつ、史実に残らない少年期からの成長と、数多くの出会い、成功と失敗、恋と友情、勝利と挫折――その青春を描く。

ヒストリエ

第24話″パフラゴニアにて・1”(3巻収録)より

言わずと知れた有名作。こちら刊行がおそろしくスローペースで、「アフタヌーン」で2003年連載開始、その後15年以上かけて冊数で10冊ほど、エウメネスの生涯もまだまだ旅半ば。軽く手をつけるなら4巻までが第1部で、そこまで読むとこの物語の猟奇趣味、戦略的な興味、ヒューマンドラマの滋味などが総合的に味わえます。


この気障な主人公をそう感じさせないのも岩明先生のセンスの良さだと思います。エピソードそのものの面白さに加えて、間の取り方、表情、語り方によって「情報」ではなく「情景」を描写するこの巧みさ。印象に残るシーンがとても多く、特に7巻の9Pに渡る例のシーンは子供が読んだらトラウマ必至。

試し読み アフタヌーン公式サイト

【オススメ】キングダム(原泰久)

舞台は紀元前の中国。とある山村に友人と共に暮らしていた少年「信」は、運命の流転からやがて中国統一を目指す争いに巻き込まれ、過酷な争いに明け暮れながら、次第に頭角を現していく。

登場キャラクターは多く九割がた人相が悪いですが、描き分けがうまいのかあまり混乱することもなく、ストーリーもスリリングでまさに王道の面白さ。絵に癖がありますが、知る限り読んだ人(主に男)が大体全員ハマってます。

中国ものは結構読んでて疲れる傾向があるので、ちょっとどうかな……と思って読み始めたらするする読めました。史実を元に書かれているのですが、どうやら簡素な文章をかなり膨らませているらしく、たまに新解釈も打ち出している模様。

墨攻( 原作:酒見賢一 シナリオ協力:久保田千太郎 漫画:森秀樹)

「キングダム」とほぼ同時期、戦国時代の中国――堅守を旨とし、依頼されれば防衛線に現れ苦境をしのいで見せる墨者と呼ばれる集団があった。今日も小国の城主のもとへ、比類なき戦略を持つ墨者・革離が現れる。多勢に対しその智謀で見事撃退の案を授ける彼だったが、実は腐敗し行く墨者の中の鼻つまみ者で――?

序盤~中盤・梁城防衛線がめちゃめちゃ面白いです。後半も悪くないですが前半に比べるとかすむ。ただ、終わり方は完全に想定外でした。

政(始皇帝)や王翦といった「キングダム」の人気キャラも登場するので、見比べて別人ぶりに失笑するのも一興。最後のほうに出て来た水木しげるタッチのキャラはなんだったんだ?

ハーン –草と鉄と羊–(瀬下猛)

西暦1189年、平家を滅ぼすも兄・頼朝と敵対し、刺客を討ち捨てながら、源義経は蝦夷地を彷徨っていた。ようようにして船で大海へ逃れた彼だったがそこにも刺客の魔の手は伸び、藻屑と消えた小舟とともに歴史上の義経の消息はここに途絶える。
しかし運命は再び彼を修羅の道へと呼び戻す。広大で渇いた大陸の覇者への野望が、燃え尽きた魂に新たなる火を灯す越境国盗り歴史絵巻。

これまたレベルの高い歴史もの。歴史の「もしかして?」としてよく語られる源義経(牛若丸)=チンギス・ハーン説を題材とし、なじみ深い日本の歴史と対応させるようにしてなじみのない中世モンゴルの世情をわかりやすく絵解き、ひとりの野心溢れる(しかし、読者同様唯一の異境人としてカメラの役目も果たす)若者が異国の食べ物に腹を下したりしつつ、次第に異国で頭角を現していく様は痛快。

絵のレベルも高く展開もスピーディ、アクションもかっこよく異国情緒もありで、ひととおり水準高いので娯楽ものとしておすすめしない理由はないです。しかしまだ序盤で戦争の規模もそれほど大きくなく、「オススメ!」マーク付けるかどーかは今後の展開次第といったところです(長期連載になりそうではある)。

試し読み モアイ

イサック(原作:真刈信二 漫画:DOUBLE-S)

30年戦争当時の神聖ローマ帝国に、ひとりの侍の姿があった。長大な火縄銃の達人にして至近戦もイケる「イサック」は、なぜかの地へ至ったのか――?

「傭兵」としてのサムライがヨーロッパで活躍するという設定が既にロマンです。狙撃場面や騎馬戦、篭城戦の迫力はいい感じで作画が非常に丁寧。

歴史背景の説明がほぼ皆無(聞きなれない地名がバンバン出て地図表記などもなし)、イサックの「理由」が理不尽でカタルシスに欠ける、なんか地味といった理由によりやや読者を選びます。戦争ものであると同時に時代の大きな流れを描き、じっくり落ち着いて読むことで初めて見える面白さのある大河ドラマ的な作品です。

試し読み アフタヌーン公式サイト

第3のギデオン(乃木坂太郎)

平民の出でありながら貴族の家で育てられたギデオン・エーメと、彼に兄弟同様の親愛の情を向ける貴族の嫡男ジョルジュ・ド・ロワール。ふたりの穏やかな少年時代の記憶ととある事故は、革命前夜のフランスでやがて不穏な大輪の花を咲かせることになる。マリー・アントワネットやルイ16世、ロベスピエールといった実在の人物に独自の解釈を施し、フランス革命を「親殺し」の物語とオーバーラップさせる新説歴史マンガです。
↓動画ネタバレ注意。未読なら1:15以降見ないでください。でもBGMがいい……。

相変わらず絵に変な色気があり、普通に描くと小難しいこのストーリーを艶っぽく仕上げてグイグイ引っ張る筆力はさすが。「幽麗塔」の時も思いましたが乃木坂先生は過去の人物を今目の前で生きているかのように描く能力の高い漫画家だと思います。

どちらかというと情けない人物として描かれることの多いルイ16世ですが、この作品では非常に魅力的で、作中唯一の超能力者としてキーポジションを占めています。僕はあまりこのへんの歴史詳しくないんですが、これ読んでから勉強するとよく頭に入るでしょうね。受験生にもおすすめ?

試し読み コミックシーモア

【オススメ】王妃マルゴ(萩尾望都)

16世紀フランス――政治的な事情もわからず、姉や叔母の結婚式に浮かれる王女マルゴ。後に男の魂を奪う淫婦と呼ばれる女の無垢な少女時代は、ノストラダムスが予言したアンリ2世の不幸な事故とともに崩壊を始める。母后カトリーヌ・ド・メディシスの企画する周遊旅行の最中、ノストラダムスはまたマルゴにもひとつの予言を与えていた。彼女を取り巻く3人のアンリ、そのひとりは恋人に、ひとりは夫に、ひとりは敵となるであろう――歴史に名高い「3アンリの戦い」の時代を少女マルゴの恋と成長とともに描く。

デュマ原作ではなく展開が異なります。華やかで死臭漂うフランスを舞台に、貴族たちが現れては恋を歌い刃を交わして消えていく様がマルゴの目を通して詩的に語られ、その世界があまりに魅力的であったために16世紀フランスについて調べてしまったという点を以ていかに高評価かはお察しいただけるかと思います。よかったら上記リンクもご参照ください。

調べてわかったのがナヴァル王子アンリの人生の波乱万丈さ。この人を主人公に青年マンガを描いてもなかなかに濃厚なものが出来上がりそうです(もうあるのかな)。その手の文学・映像化だと意外にギーズ公アンリも人気者みたいですね。
人名ぐちゃぐちゃで訳わからないフランスの歴史に興味持てない人(僕とか)の盲を啓くパワーのある作品なので、時間に余裕のある時にぜひどうぞ、おすすめです。

NeuN(高橋ツトム)

ブラウシュテッペ村に住む少年フランツ・ノイン――”9″を意味する名を持つ少年は、突如SSに安住の地を奪われ、”壁(ヴァンド)”と呼ばれる特殊任務を帯びる青年テオ・ベッカーとともに逃亡の旅に出ることになる。国中がノインたち兄弟を追うこの状況は、彼の身体に流れる総統の血に原因しているらしい。しかし、なぜそうまでして彼らはそうまでして命を狙われなければならないのか? ナチス政権下のドイツで繰り広げられる鉄血の逃亡劇。

ヒトラーをはじめ、ゲッペルスやヒムラーなども登場。やってることはいつものハードボイルド路線なんですけど、高橋先生の絵の冷たい顔だち、ザラザラしたストーリーがナチスドイツにハマってます。

アドルフ・ヒトラーには「絵を描くのを好む」「運動神経が悪い」「幼少時は金髪」などの逸話があり、それはノインにそのまま引き継がれています。ヒトラーの血を色濃く引くことで次第に特殊な能力を開花させていくSF的な展開もあり。

試し読み 講談社コミックプラス

プリニウス(ヤマザキマリ/とり・みき)

後の世に多大な影響を与えた「博物誌」をものした、古代ローマの知識の巨魁ガイウス・プリニウス・セクンドゥス。いまや忘れ去られたこの知識人はいかなる人生を生き、どのように喋ったのか? ふたりの売れっ子漫画家がタッグを組んで、歴史考証と自由な空想をないまぜに送る偉人の「伝奇」。

「テルマエ・ロマエ」はあまりグッとこなかったんですが、こっちはガチな古代ローマを描いていてすごく好きです。あまり歴史背景に詳しくなくともスッと物語に入れ、知ってるとなお面白くなるリーダビリティ、しっかりと描き込まれたローマの風景や風俗、プリニウス自身の話の面白さ(と胡散臭さ)など見どころ多く退屈しません。

主として人物をヤマザキ先生、背景やなにやらいかがわしいアレコレをとり先生が描いてるようですが、物語が進むにつれてだんだんそのへんの区分けが曖昧になっていき、第三の人格を目指し始めます。そのあたりの苦労や裏話を語る対談も読みごたえあります。

試し読み 新潮社公式サイト

レキアイ! 歴史と愛(亀)

コミュ障で異端学者だが愛妻家だったダーウィン、中二病だが実はリア充だったダンテ、愛妾のために国の未来を歪めたスレイマン、功績はすごいがうぬぼれ屋だったハッブル……教科書に載る偉人たちの意外な一面や功績を、歴オタの亀先生がコメディタッチで味付けした世界史つまみ食い4コマ、全2巻。

「愛」がテーマですがラブコメあり人間愛あり、愛クラッシャーありとあんまり縛りとして機能しておらず、逆に言えば色んなタイプのエピソードが収録されています。登場人物も多岐にわたり、ひとりひとりが短いページ数の中で濃密な人間ドラマを繰り広げてくれるので読み応えは重量級。

1ページの中でギャグやったと思ったら次のコマで死んでたりするこのスピード感は歴史ものならでは。まったく勉強感はないですが頭に入りやすくなるので、受験生は世界史勉強する前に一回読んどくといいかもしれません。ツイ4で無料で読める他、亀先生運営の歴史系倉庫というページでもマンガが読めます。

試し読み ツイ4

オルフェウスの窓(池田理代子)

窓越しに出会った男女が宿命的な悲恋の途をたどることから、ギリシャ神話になぞらえて名付けられた「オルフェウスの窓」。20世紀初頭、ドイツ・レーゲンスブルクの音楽学校から物語は始まり、約束された悲劇へ向けて人々の悲哀と情熱を映し出す。

オルフェウスの窓

新装版4巻より

4部構成で、2部、3部は別の国が舞台。1部はギムナジウムものですが、3部になると歴史大河ドラマとなりかなり作品のカラーが変わります。ページ全体で一枚の絵画のような効果をあげる独特なコマ割り、人間の美醜を同時に描こうとする物語は今見ても斬新。反面、不満としてキャラが一貫性を失い、物語の傀儡になることがあります(特にユリウスの扱いがひどい)。

冷たい重厚さや酷薄さとむせるほどの暑苦しさを併せ持ち、盛り上げどころの表現も強烈。褒めようと思えば枚挙に暇がありません。詩的で古風な台詞回しは大仰で、ここらへんに乗れれば相当ハマります。個人的には2部がすごく好き。
「週刊マーガレット」で1975~76年、「月刊セブンティーン」で1977~81年連載、外伝が「YOU」に1999年掲載。マーガレットコミックス版が全18巻、愛蔵版が全4巻、文庫版が全9巻などで完結。他に外伝もあります。

試し読み コミックシーモア

【オススメ】チ。―地球の運動について―(魚豊)

天体は地球を中心として周り、正しい信仰を捧げた人々は死後、天国にて安寧を得る。すなわちこの世界はかりそめ――異端を拷問し火刑に処す15世紀ヨーロッパで、「その真理」に気付いてしまった人々は、それが破滅への近道と知りながらも魅せられてしまう。――地球が自転し、かつ太陽の周りを公転しているという論理のシンプルさに。中世の思想と天文学的謎解きが知的興奮を呼ぶ群像ドラマ。

チ。―地球の運動について―

第1話(1巻収録)より

情報量が多く、丁寧になぜ当時は天動説が信じられていたのか、それに対してどういった疑問があったのか、それが異端とされた理由は何か……といった「世界観」が語られますが、その説明自体がもう面白くて話に入りやすいです。
地動説といえばガリレオですが、彼の裁判のエピソードが象徴的なように地動説の研究自体が当時は自殺行為なため、物語は独特な悲壮感、あるいは反骨精神とスリリングさに満ちています。


そういう意味で「レッド」みたいなテロリストものが結構近いですし、魔女狩りものの一種と見ることもできます。そういう題材としてここに目を付ける着眼点も好きです。「週刊ビッグコミックスピリッツ」で2020年~連載。マンガ大賞2021 第2位受賞。

類似作 ヒストリエ(岩明均)

試し読み ビッグコミックBROS.

まとめ

以上、歴史もののおすすめマンガでした。いずれ時代が進めば平成ものといったカテゴリ付けもされていくのでしょうが、そこまで生きてどういう未来が来るのかこの目で見れないのは残念ですね。「人間」自体は、そこまで変わっていかないことは歴史から学べるような気もしますケド。
このサイト自体もいずれ「こーゆーのがあった」的な形で誰かの記憶や記録に残ったりするんですかね? それだけの価値を認められるようになるといいな、と日々更新に邁進するのみであります。

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