誰もが誰かに見張られている。超管理社会の恐怖を描く、ディストピア系おすすめマンガ

ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている

ディストピアはSFのサブジャンルで、人間性の否定、焚書、言論統制、洗脳、交配管理などを主な特徴とします。つまり、現実にも起こりうる超管理社会を舞台としています。
よくポストアポカリプスと一緒くたにされてますが別ジャンルで、どっちかというとポスアカは文明崩壊して「管理する体制がいなくなった」状態になることが多いです。生き残った人たちの中で極端な階級制度が出来たりすることもあるので、両方兼ね備えてることもままありますが。

【オススメ】狂四郎2030(徳弘正也)

主人公は人間味あふれる三枚目にして、冷酷な殺人鬼としての顔を併せ持つ平巡査・廻狂四郎。相棒として天才科学者の脳を移植された犬・バベンスキーが登場し、この犬を聞き役として男女隔離と強制労働、遺伝子により将来が決定されるゲノム政策、完全な管理社会と化した2030年の日本の現状が明かされていく。
バーチャル上の女性体験にのめり込む狂四郎に半ば呆れていたバベンスキーだったが、その女性が実在することが明らかになると、彼らふたりを応援する立場となる。しかしふたりが現実世界で出会える確率は……。

管理社会型SFの名作として知られる作品で、鬼畜きわまるカレーのシーンがネット上で話題となりました。ターちゃんに比べると知名度は劣るものの、この手のマンガ紹介ブログとかだとかなり高確率で紛れ込んでる作品です。

いかにハードなシーンであろうとも下ネタポンチ系ギャグを混ぜ込んでくるという徳弘先生の作風はそのままですが、展開はハードかつ残酷。読んでると価値観がおかしくなってくるのを感じます。

蛮勇引力(山口貴由)

スーパーテクノロジー「神機力」によって、驚異の発展を遂げた新都・東京。それは人やペットまでもロボット化し、システムにそぐわぬ失業者たちは容赦なく排除する超管理社会でもあった――その東京に現れた、「尊野蛮」を標榜する男・由比正雪は、単身生身の肉体と短刀を武器に、単身新都へと蛮勇なる戦いを挑む。

「覚悟のススメ」の時に崩壊した世界が復興した時代が舞台とのこと。神機を埋め込まれ、半分人を辞めないと職にありつけない世界を破壊するという、冷静に考えてみるとかなりラディカルな主人公です。

敵側が戯画化されているのと、主人公の侠気で割とすんなり読まされますが、正義は見方を変えると悪であるという山口作品の特徴がよく現れたマンガだと思います。

光る風(山上たつひこ)

舞台は軍国主義化の進む日本。ただし時期は連載当時の70年代です。高校生の六高寺弦は周囲の環境や家族に違和感を覚え、ある事件について調査をすることになります。それが悲惨な運命の幕開けとも知らずに――

「がきデカ」の作者がこれを描いていたということ自体がまず衝撃的ですが、ガチなディストピアです。最近はなかなかこういうマンガは出てこないので、若い人にこそおすすめしたい。一読忘れえぬ恐怖を脳に刻み込まれます。

どちらかというとkindle版で買うほうがおすすめ(色々抜けや編集者による改竄があったようなのと、単純に安いので)。

恋と嘘(ムサヲ)

遺伝子情報・性格テスト等により、最も相性が良いとされる結婚相手を紹介される超・少子化対策基本法(ゆかり法)。5年間高崎美咲への片思いを続けた根島由佳吏だったが、政府通知で告げられた真田莉々奈もまた、由佳吏にとって大事な人になっていく――
「全然興味ない異性を紹介されてふたりがやがて惹かれ合っていく」というハッピーな物語と、任意に見えて実はかなり強制力の高い「ゆかり法」の負の部分が作中で交錯するライトディストピア・ラブストーリー。

恋と嘘

第1話”初恋”(1巻収録)より

話題になるだけあって面白いです。基本真面目な恋愛もので、表面上八方美人で実はかなり強情かつ天然な美咲、言動が独特で強気なコミュ障な莉々奈、どっちもヒロインとして魅力があります。


なかなか切ない話ですが、さてどう終わるのか。張り巡らされた布石・伏線が多く、「これはもうこう来るだろう」という仮説がある程度立ってるんですが、外れてたらいいなと思ってます。

懲役339年(伊勢ともか)

死んだものは即座に別の人間として転生するとされる世界――懲役339年の判決を受けたハロー・アヒンサーという名の大罪人がいた。獄中で狂死した彼の「生まれ変わり」たちは生後即座に監獄へと送り込まれ、ただ前世の残した刑期を消化するためだけに無為な日々を送ることになる。
何代にも渡るハローの「転生」を描く大河ロマンにして、転生システムを悪用した社会を描くディストピア。

全4巻。裏サンデーの連載投稿トーナメントで圧倒的人気で優勝して連載化された作品で、最初はいかにも応募作という感じですが、序盤からは予想がつかないほど物語のスケールは広がり、プロの仕事になっていきます。

5巻以内で面白いもの、しっかりしたマンガを読みたい人にもおすすめ。

試し読み BookLive!

ファイアパンチ(藤本タツキ)

「氷の魔女」により、氷に閉ざされた世界。身体を損傷してもすぐに再生する祝福を与えられた少年・アグニは、老人たちと妹を食べさせるために、自分の腕を切断して食材としてふるまう生活を続けていた。しかしある日炎の祝福を持つ男が村に訪れたことから、ささやかで狂った安寧は壊され、アグニは果てしない復讐の旅と輪廻に囚われていくことになる。

ファイアパンチ

第10話(2巻収録)より

第1話の高い完成度で大きな話題を集め、その後の鬱々とした(しかし常に予想外の)展開、片っ端からタブーを犯していくラディカルな描写、いきなり投入されるメタ要素などで賛否両論を巻き起こした全然少年マンガらしくない作品です。


ストーリーはなかなかに行き当たりばったりな感じで、タイトルの「ファイアパンチ」という言葉の使い方からしてフラフラしてます。ただの口論で2話使ったりする話運びや繰り返しを多用するコマ割も全然教科書的でなく、才能のある人がいろいろアイデアを放り込み、思うがままに放浪するライブ感こそむしろ楽しみどころかもしれません。

試し読み 少年ジャンプ+

ハーモニー(原作:伊藤計劃/Project Itoh 漫画:三巷文)

人類滅亡の危機を乗り越え、人は公共のリソースとして健康であることが義務化された世界で、御冷ミァハは友人に集団自殺を持ちかけた。みずから身体と心が、平和と慈愛に絞め殺される前に。
それから13年後――日本に帰還した霧慧トァンは、思わぬ形でふたたびミァハの声を聞く。しかし今度声をかけられるのは、彼女たちだけではない。仮想的ユートピアの崩壊を描く名作SFコミカライズ。

ハーモニー

06(1巻収録)より

少し原作にないシーンも追加され、作画的にも申し分なく、コミカライズとしての完成度が抜群に高いです。原作未読でも支障ないですが、少し硬めかつロジカルな作風なので、多少人は選びます。
Project Itohは映画製作チームで、本作は映画化と連動して連載されました。「月刊ニュータイプ」で2015年~2019年連載、全4巻で完結


原作はetmlという架空の言語で「書かれ」ているのですが、タグの合間に絵が置かれることで言語の性質が変わっている感じがするのもちょっと面白いです。より感情を記録している感じがするというか。
伊藤先生は原作上梓(2008年)後病没、本作が遺作となります。星雲賞、日本SF大賞、フィリップ・K・ディック賞受賞。

試し読み コミックNewtype

その國の名を誰も言わない(清水ともみ)

街中には大量の監視カメラが設置され、PCやスマホにはスパイウェアがインストールされる。あらゆる行動は制限され、家族は解体され、宗教は否定され、言語を強制される。あまつさえ貞操や、生命までも……多くの証言や文書により現代のナチスと評される、「いわゆる」新疆ウィグル自治区の問題を取り上げた啓蒙コミック。

その國の名を誰も言わない

「その國の名を誰も言わない」より

うってかわって実話系。とりあえず本書の目的は「現状を知ってもらうこと」にあると思うので、新疆ウィグル自治区? 何それ? という方がメインターゲット。ページ数も短くすぐ読めます。別に僕は人権活動家ではないですが、社会的な意義はもちろん、淡々としたおぞましさがあり読ませるので紹介した次第です。チベット問題というのもあり、日本もわかったものではない。


本作の収益はウィグル人支援団体へ寄付されるとのことですが、noteやマンガ図書館Zなど各種無料媒体でも公開されています。ウィグル人女性の体験を綴った「私の身に起きたこと」も併せてどうぞ。どちらも全1巻(短編)で完結。あまりこのへんの話が日本で報道されないのは、こういった事情らしいです。

試し読み マンガ図書館Z

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