張りつめるサスペンス! 僅かな隙を狙い撃つ監禁・脱獄・脱出系マンガ集

獄中より愛をこめて

タイトルのとおりですが、こちらではわりと大雑把に脱出系を取り扱っています。閉じ込められ系であれば概ねOKですが、「監禁探偵」や「チカーノKEI」、「憂国のラスプーチン」などの脱出を目指さない作品は除外してます。
別に監獄でなくても、スティーヴン・キングのアレとかアレとかみたいに条件さえ整えば脱出系は成立しますので、さまざまなシチュエーションのものを紹介したい(というか読みたい)ところです。

監獄学園(平本アキラ)

今年から男女共学となった私立八光学園、しかし初年度に入学してきた男子はたったの五人。覗きの罪で懲罰棟に収監された五人は、とある事情により脱獄を決意する。裏生徒会の隙をつき、彼らは無事娑婆に戻ることができるのか!? ……というのが前半部分。
そこから更に話は展開していき、序盤~中盤は非常に面白いです。後半は微妙ですが最近ちょっと盛り返したか?

基本は馬鹿エロ漫画で、ござる口調の三国志マニア、闇に染まったアリオタク、徐々にニワトリみたいになっていくドMの巨漢など、あまりにも濃すぎるキャラクターたちと下劣という言葉に尽きるギャグの連射で読者をおなかいっぱいにしてくれます。

もうすっかり紹介するまでもない作品という感じですが、未読であれば(特に男性であれば)一読の価値はあるかと思います。

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【オススメ】約束のネバーランド(原作:白井カイウ 漫画:出水ぽすか)

優しい「ママ」と子供たちが暮らす孤児院、グレイス=フィールドハウス。何一つ不満のない穏やかな暮らし。時折旅立っていく卒業生たちも、それぞれに幸せな生活を送っていると信じていた――その日がくるまでは。
孤児院は一夜にして監獄へと姿を変え、日常生活は探り合いと騙し合いの場へと変貌する。生き残りを賭けた脱出系ダークファンタジー。

脱出する「だけ」では駄目だというのがアクセントきいてます。少年誌の「異色」枠が好きな方、ファンタジー×脱出系というワードにピンとくる方にはぜひおすすめ。


「約束」とは何を指すのかが示され、世界を巻き込む壮大なファンタジーとして物語が拡大していく様は圧巻。……実はあんま先のこと決めないでイケイケドンドンで書いてたらしく、そのへんの話が読める公式ファンブックも読みごたえあります。
「週刊少年ジャンプ」で2016~2020年連載、全20巻で完結。「このマンガがすごい!」2018年オトコ編1位。

試し読み 少年ジャンプ公式サイト

囚人リク(瀬口忍)

貧しいながらも、スラム街でおじさんと楽しく暮らしていた少年・リク。しかしおじさんは殺されてしまい、その罪を負わされたリクは孤島の特級刑務所へ収監されてしまう。犯人である警視総監の手によって!
刑務所内で巻き起こる囚人たちの抗争、緻密な計画と脱出行のスリル、そして囚人たちの友情を描く肉弾系脱獄サスペンス。

囚人リク

第44房”来襲”(6巻収録)より

マンガで脱獄ものを読みたければかなりおすすめ。計画が進行するに従って様々な問題が明快に提示され、これに対して変装したり看守を懐柔したりトリックを使ったり、あの手この手で解決していく連続壁ぶち当たり方式のドラマとして非常に丁寧な作りです。「そこまでやるか」というところまで追いつめてもなお諦めないリクのド根性も見どころで、この一点で彼は歴戦の勇士たちを圧倒する主人公ぶりを見せつけます。

解決方法は「たまたまうまくいった」ものから手品まで色々。個人的にはヘリ固定の問題解決方法が好きでした。どうやって解決するか予想しながら読むとまた一段と楽しめるかもしれません。
後半は風呂敷を畳むのに大きくエネルギーを奪われ、だいぶ大味になります。色々葛藤が目に見えるようですが、とにかく最後まで描き切ったことに拍手を贈りたいです。「週刊少年チャンピオン」で2011~2018年連載、全38巻で完結。スピンオフの「ボスレノマ~「囚人リク」外伝~」が2018~2019年連載、全2巻。

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無頼伝 涯(福本伸行)

殺人犯の濡れ衣を被せられた、天性の格闘センスを持つ工藤涯が奮戦虚しく更生施設送りとなり、そこからの脱獄と自らの無罪を勝ち取るべく抗う姿を選んだ全然少年誌っぽくないミステリ監獄マンガです。全5巻で完結。打ち切られながらもきちんと着地して見せるあたりはさすがというべきか。

無頼伝 涯

第19話”宣告”(3巻収録)より

少年犯罪や更生を扱うマンガですが、他の福本作品同様なんか納得しそうになる謎理論に説得力があります。「薄々思ってるけど言わない」みたいなことを堂々と言わせるとこの人の右に出る人はあんまりいない。あと例によって迷言・名言も多いです。

序盤~中盤がかなり暗いですが、作家として脂の乗った時期の作品で、読み進めると「カイジ」に迫るほど面白くなってきます。典型的な「まとめて読むと評価が変わる」マンガ。

P.I.P.-プリズナー・イン・プノンペン-(原作:沢井鯨 漫画:深谷陽)

特に目的もなく訪れたカンボジアの首都プノンペンで、謎めいた美少女タオと運命的な出会いを果たした中学教師・イザワケイゴ。一度は帰国したものの、親しくなった彼女の面影を求めて再入国した彼は、謂れのない罪でプノンペンの監獄に囚われてしまう。日本大使館は役に立たず、司法と警察は汚職にまみれている。絶望的な状況に置かれたひとりの日本人の目を通して、カンボジア社会の暗部を描くアングラアジアリアルフィクション。

P.I.P.-プリズナー・イン・プノンペン-

第12話”失意と隘路”より

原作はドラマ化もされた沢井先生の出世作で、先生自身カンボジアで収監されたことがあるのが売りですが、本作はあくまでフィクション。原作は馳星周氏が解説してるそうですがさもありなん、読むものを人間不信に陥れる理不尽な人間ドラマはかなり惹きつけられるし、おもむろにファイトクラブが始まったり、「逆転の発想」の痛快さもある意外にエンタメ性の高い作品です。内容の密度の割に一冊で終わるコンパクトさもいい。

時期的には1996~1998年頃。獄中記としてはもちろん、悪名高い売春宿スワイパーの見学ルポ的な読みどころもあって、アングラアジアもの好きならかなりおすすめ。「週刊コミックバンチ」で2004年連載、全1巻で完結

類似作 憂国のラスプーチン(原作:佐藤優 漫画:伊藤潤二)

試し読み コミックシーモア

湾岸JUNGLE(田村由美)

都心の浮島に建設されたウォーターフロント「湾岸JUNGLE」に、同窓会として招かれた少女かのえと、同窓の少年近衛。彼らは一服盛られて昏倒し、閉園後ごみ箱で目を覚ます。目的もわからないまま、謎の脅迫者の言うままに園内を走り回ることになる彼ら。一文字ずつ明かされていく脅迫者のメッセージ、謎の殺人鬼の影、園内に転がっている死体――彼らが相手にしているのは一体何者なのか? そしてその目的とは?(”湾岸JUNGLE”)

湾岸JUNGLE

“湾岸JUNGLE”より


全1巻で完結(短編集)。田村先生らしく割とサスペンス要素が強く、「湾岸JUNGLE」、後日談「ジャングルBOX」の他「パイナップル3」を収録してます。田村先生の監禁ものでは同じく短編集の「踊る教室」も名作。

全部閉鎖環境もので、死人が出ます。そういう意味では統一感あって、このカテゴリにふさわしいのかなと。

【オススメ】BOX ~箱の中に何かいる~(諸星大二郎)

兄を亡くして以来心の均衡を欠いた母を持つ高校生・角多光一のもとに届いた、身に覚えのないパズルと入場券。そのパズルを解いた瞬間から彼の身の周りには不可解な現象が頻発し始め、操られるようにして彼は街をさまようことになる。「呼ばれた」気がする箱のような建物の前にパズルを持つ人々が集結し、人を飲み込み迷わせる箱の中の白昼夢が幕を開く。

BOX ~箱の中に何かいる~

第2話”ゴールへ辿り着けない迷路”(1巻収録)より

そろそろ初老の諸星先生、久々の新作ですが全然衰えてなくて嬉しい限りです。一応これはジャンルで言えば閉じ込められ系ソリッドシチュエーションホラーにあたる作品なんでしょうが、例のふにゃふにゃした怪物たちとのアクションが当然のように発生し、「箱」自体も有機的に姿を変えるので全然物質的なソリッドさはないです。ついでに言うとホラーでもなく、ソリッドシチュエーション(やわらかめ)の面白い何かみたいな印象。

出てくるパズルは諸星先生オリジナルで、扉絵にも間違い探しとか違和感探しとかサービスパズルがあったりしてお得感あります。かなり独特なものもあり、パズラー諸兄はそこで「先を読みたいがパズルを解きたい」というジレンマに悩まされることになります。パズル漫画全般そうですが。
諸星先生だと新宿駅の地下街から出られない短編も面白かったんですが、読んだのが昔過ぎてどれに入ってんだっけ? という状態です。ほんとに諸星先生だったかすら怪しい。

試し読み 講談社コミックプラス

マッドサマースクール(原作:関よしみ 漫画:合田蛍冬)

今年の夏は暑過ぎる――大学受験を控えた段上ヒロミは特別奨学生制度「未来人エクスペリメント」に特別推薦枠として招かれ、キトラス学術研究ビルで20日間の勉強合宿に挑む幸運に恵まれる。しかし新しくできた友人は突然姿を消し、ビルは停電で出入り不可となる。冷房がきかず、灼熱地獄と化した閉鎖空間――これだけでも最悪だが、さらにビルにはマッドサイエンティストの実験場が隠されていた。

マッドサマースクール

第5話”停電”(1巻収録)より

畳み掛けるように状況が悪化していくスピード感は「サバイバルホラーかくあるべし」という感じ。合田先生は「ドクムシ」に続き閉鎖空間サバイバルですが、前作より面白いと思います。調べてみたら原作もマンガ(↓「マッドパパ」に収録)のようなのでそちらも読みましたが、舞台設定と登場人物の名前は共通しているものの、話としてはほとんど別物。

日熊資泰

“マッドサマースクール”(「マッドパパ」収録)より


なので本作にもしハマっても無理に原作読む必要はないかなと(キャラが全然違ったりする面白さはありますが)。こんだけ変えるなら設定も変えて原作表記なしでいい気がしますが、これはリメイクで興味を持たせて原作を買わせる高度な戦略なのでしょうか。
Renta!他電子媒体で2017~2019年描きおろし連載、全4巻で完結。

試し読み コミックシーモア

6000 -ロクセン-(小池ノクト)

中国企業に買収され、わけもわからず深海6000メートルの居住型プラント「コフディース」に乗り込むことになった会社員・門倉健吾。死者の檻と化した海底施設では、機械の誤作動、不気味で攻撃的な人影、形を変える施設などの怪奇現象が次々と巻き起こる。謎のカギは三年前に起きた、搭乗員全滅事件にあるらしいが……。

6000

第5話″出現-2”(1巻収録)より

これも閉鎖環境でどんどん状況が悪化してく系。SFミステリかと思いきやオカルトだったのはちょっとガッカリしましたが、それはいわば舞台装置。本作の真価は手足をもぐように脱出経路が閉ざされ、仲間の命が奪われていく絶望感にこそあり、脱出ものが好きなら一読の価値はあります。

ちょっと背景説明がザックリしてますが、とりあえずヒヤヒヤしながら一回読んで、あとでつまみ読みしなおすと大体わかると思います。全4巻で完結

試し読み コミックシーモア

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