追い詰められていく恐怖と逃れ得ぬ罪。犯人・犯罪者視点、倒叙系マンガ群

帰りたい、帰れない

主人公が劇中の事件の犯人、というタイプのマンガをセレクトしています。古畑任三郎的なミステリーでもOKですし、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のような華麗な犯罪者物語でもOK。基本的にサスペンスが多いです。

【オススメ】僕たちがやりました(原作:金城宗幸 漫画:荒木光)

チンピラに復讐するために主人公たちが仕掛けたちょっとした悪戯。それは関係者全ての運命を大きく狂わせる大惨事となった。明るく楽しい学校生活は、恋は、それでも続く。彼らの友情が続くうちは、そして罪の影から逃げ続けられるうちは……。

僕たちがやりました

第5話”漢のC4爆弾”(1巻収録)より

甘酸っぱい青春白書に亀裂が入り、各人のダークサイドが露呈していくカタルシスが見どころです。昼間のビーチで浮き輪に浮かんでみんなでのんびりしてて、実は沖に流されてて陸地は見えなくなっていて、みんなそれに気付いてるけど口には出せなくて食料も水もない感じというか。


ちなみにインタビューによると金城・荒木両先生どちらも古谷実先生がお好きだそうで、作風も似てますし、「シガテラ」へのオマージュがあったりもします。全9巻で完結。

満州アヘンスクワッド(原作:門馬司 漫画:鹿子)

昭和12年(1937年)、満州国。植物学に造詣の深い関東軍の兵士・日方勇は農業訓練所に配属され、他の兵士から嘲られつつもそれなりに平和な日々を送っていた。しかし母がペストに罹患し、急に大金が必要となった彼は、独特の嗅覚で芥子畑を見付けだし、一攫千金の博打に出る。それはやがて満州を裏で支配する男が、日の当たる道に背を向けた瞬間でもあった。

満州アヘンスクワッド

#1″満州の男”より

「ブレイキング・バッド」以降の作品という感じで、Webコミック連載とはいえよく企画通ったものです。麻薬取引でのし上がる話なのでリスクが非常に高く、展開は命がけ。しかし垢抜けたキャラクターたちのおかげで読み味はライト、口当たりの軽さに騙されるとしっかり酔わされるストロングゼロな酩酊感があります。


2020年~「コミックDAYS」で連載。

試し読み コミックDAYS

デストロイアンドレボリューション(森恒二)

全てを壊す「力」を持つ少年・マコトと、世界を相手どる「理想」を持つ少年・ユウキ。ふたりが出会ったことから、世界を揺るがすテロリズムが胎動し始める――

基本危険な作品しか描かない森先生の、ある意味最もデンジャラスな作品です。圧倒的な力に対して、理想がかなりイノセントのも危ない。

後半はスーパーSF大戦になりますが、前半は比較的一般的な世界観で「なぜテロを起こすのか」が語られます。このパートの説得力が高く、テロも成功していってしまうわけですが、どんどん大事になっていくのでテロの難しさもよーくわかります。

なにかもちがってますか(鬼頭莫宏)

エスパー系倒叙その2。かわいらしい顔をして暴言を吐く転校生の一社高蔵(イッサ)は、日比野光(ミッツ)が無自覚に発揮する空間をえぐり取るような超能力に本人より先に気付き、彼に接近してそそのかす。「普通の人々」の平和のためには、携帯電話で話しながら車を運転するような人間は殺してしまってかまわないと――鬱展開のマエストロが仕掛ける、ポスト「デストロイアンドレボリューション」的作品。

なにかもちがってますか

第21話”ぼ・ぼんくらは少年探偵団”(4巻収録)より

イッサくんの量刑論や宗教論は現実の違和感を切り取るような鋭さがあり、そういう意味で終盤に近い4巻が僕は一番好きです。こういう主人公の参謀役が語る理想論は僕の好物ですが、逆に言うとそこが楽しめないと微妙かも。


鬼頭先生の作品としてはそれほど悲惨さややりきれなさを残さず、5巻ものとしてかなりおすすめできる作品です。「good!アフタヌーン」で2009~2015年連載、全5巻で完結。

試し読み BookLive

うなぎ鬼(原作:高田侑 漫画:落合裕介)

見た目は怖いが気の弱い大男・倉見勝。借金返済のためにあてがわれた仕事をこなす彼だったが、ある日の仕事はいつもとは少し違い、15万の手当てで中身のわからない50~60キロの荷物を指定された場所へと届けるというものだった……。

うなぎ鬼

第2話”顔”(1巻収録)より

架空のドヤ街「黒牟」のうらぶれた雰囲気が読むものの心を暗鬱とさせる、自分が何をやらされてるのかわからない系サスペンスです。ただし、「何かまずいことになっている」ことだけは薄々わかっているのですが……。


裏稼業の描写もメイン要素で、出てくる要素がしっかり組み合わさって終わる完成された作品。出てくる人物はいずれもかなりの存在感があり、大体目が死んでます。「ヤングキング」で2014~2015年連載、全3巻で完結。

試し読み LINEマンガ

マイホームヒーロー(原作:山川直輝 漫画:朝基まさし)

47年一度も刑法を犯さず生きてきた――どこにでもいる中年男・鳥栖哲雄のささやかな幸福は、愛すべき妻と娘、趣味の推理小説投稿から成り立っている。しかしその娘に危機が迫っていることを知った彼は、ある「完全犯罪」に手を染めていくことになる……。

あんまり詳しく書きたくないんですが、これは倒叙ミステリ好きの人なら絶対好きです。山川先生の意外な一面を見ました。


作画はサイコメトラーの作者で、こういうの描かせるとさすがに上手い。
心理描写に尺を使い過ぎず、テンポ良く話が進むのが好印象。どーでもいいですが、個人的に全登場人物の中で主人公の奥さんが一番怖いです。

試し読み Webヤンマガ

骨が腐るまで(内海八重)

かつて人を殺した罪を共有した5人の子供たち。毎年死体を掘り返し、子供じみた儀式を行うことで秘密の関係を更新する彼らだったが、その死体が突如消えてしまう。そして鳴り響く脅迫者からの電話!
クライムサスペンスから捩じれた「犯人による犯人探し」へと移行する、青春群像倒叙ミステリー。

骨が腐るまで

第4夜(1巻収録)より

よくあるアレかな、と思いきや途中からかなり面白くなりました。絵も今風でエログロ騙し合いありとキャッチーですので、なんだかんだ読んでて楽しい作品です。倒叙にしては妙におおらかであまりヒリヒリしないんですが、そのへんの評価は好みによるかと。


「マンガボックス」で2016~2018年連載、全7巻で完結

試し読み マンガボックス

オナニーマスター黒沢(原作:伊瀬勝良 漫画:横田卓馬)

周囲に性的な意味以外では無関心、ひとり女子トイレにこもり、妄想の中でクラスメイトを穢すのが趣味というタイトル通りの中学生・黒沢翔。独りで静かで豊かな時間を日々満喫していた黒沢だったが、ある日女子トイレから脱出する瞬間を女子生徒の北原綾に目撃されてしまい――Webマンガ界に伝説を残した、「すべての人類を破壊する。」コンビの初期作。

オナニーマスター黒沢

第1発”めぐりあい、女子トイレ”(1巻収録)より

割とよく感動作! みたいに言われてるんですが、個人的にはあんま。ただネタ漫画と見せかけて、この題材にしっかり必然性があるのには驚きました。そこが刺さると一生忘れられない作品になります。
ツッコミ入れながら読んでなんぼでもあるので、そういうの好きならニコニコで読むのがおすすめ。

2007年横田先生が自身のサイトで公開したものが初出(YOKO名義)、現在はKindleなどでも読めます(下記リンクは分冊版ですが、コミックス版もあります)。原作は2006年「新都社」で連載(伊勢カツラ名義)、2009年「キャッチャー・イン・ザ・トイレット!」として書籍化した小説。

試し読み ニコニコ静画

血の轍(押見修造)

「過保護」と言われつつも美しい母の愛を一身に受け、健康に育つ中学生・長部静一。静かな穏やかな日々は丁寧に描写され、その中で少しずつ不安感は拡大していき、やがて決壊の瞬間を迎える……。冒頭に配置された少年時代の夢が意味するところとは? 少年少女の心理サスペンスを得意とする押見先生が、ひとつの技術的頂点を見せつける「毒親」サスペンス。

血の轍

第1話”血の轍”(1巻収録)より

やってることは「惡の華」に近いですが、あれをより現実寄りに削いだ感じの読書感。トーンを使わない乾いた画面効果もあいまり、どこか昭和的な懐かしくも不気味な手触りがします。このカテゴリの他作品でも主人公に「守りたいもの」を与えることで罪と希望の解離を生み出す技法は多く見られますが、押見先生はそういうのほんと得意みたいですね。


「ビッグコミックスペリオール」で2017年~連載。
僕は別に押見先生の大ファンというわけではないのですが、気付くと大体全部読んでるあたりなんだかんだ好きっぽいです。安心して不安になれるクオリティの作品。

試し読み pixivコミック

ミギとダリ(佐野菜見)

裕福な住人が暮らす神戸市北区オリゴン村。そこに住む老夫婦に引き取られた13歳の少年・秘鳥(ひとり)には、暗い過去と秘められた目的、そして「実はふたりいる」という重大な秘密があった――「坂本ですが?」完結後2年の時を経て、シュールさはそのままにアゴタ・クリストフ的設定で迫る「悪童」ホラーコメディ。

ミギとダリ

第三十三話”パンより硬いものはない”(6巻収録)より

シュールギャグとサイコスリラーが同じ作品の中で共存する、ちょっと他に類を見ない読み味の作品。ギャグ漫画時空で雑に処理される展開もあるのが難ですが、後半の話の盛り上がりは読ませます。相当クセがある作品ではあるので、試し読み推奨。


野心的な題材で、作者の意気込みが感じられます。普通にギャグっぽい場面でも「これはギャグなのか、ホラーなのか?」と判断を任されるような描写もあり、読む人によって笑いどころが違いそう。「ハルタ」で2017~2021年連載、全7巻で完結

試し読み KADOKAWA公式サイト

魔風が吹く(円城寺真己)

震災の傷も癒え切らぬ熊本。金に困り、学歴もなく、小さな悪事に手を染めようとした若者・堺翔平は、旧友にその事実を知られ死体処理をさせられることになる。だが杜撰な処理は暴くまでもなく露見し、死体の父親・上遠野は翔平を犯人と断定、拉致して開腹手術を行い、腹の中にスマホを埋め込む――その目的は?
状況が連鎖するようにして深みに嵌まる、地味ながら強い印象を残すクライム・サスペンス。

登場人物は全員ちょっと頭の線が切れてる感じで、下水管の中でヘドロを投げつけ合うかのごとき人間ドラマを楽しむことができます。読んでて割と窒息するやつです。
破滅ものとしてもなかなかのテンションなので、ウシジマくんとかお好きだとピンとくるかも?

上遠野の捜査フェイズは結構ツッコまれてますがそっちはあまり違和感感じず、どちらかというとその後の展開に一部違和感感じます。この話の展開だと、もっとちゃんと翔平に守るもの(=脅すネタ)がないと不自然な気がするんですが、それだとキャラがぼやけ、(どうあがいてもバッドエンドとなるこの物語の)後味が悪くなり過ぎてしまうのかもしれないです。

試し読み となりのヤングジャンプ

探偵が早すぎる(原作:井上真偽 漫画:三月薫)

父の死によって、5兆もの遺産を手にすることになった高校生の十川一華。彼女を亡きものとすることでその遺産を手にすることができる大陀羅一族はさまざまな完全犯罪をもくろむが、異様な推理力を持つ探偵・千曲川光はあらゆる計画を事前に見抜き、トリックを意趣返しすることで事件を未然に防いでしまう。斬新な試みで人気を呼んだ話題作のコミカライズ。

結構バッサリカットしてる? のか、「なんでこの状況になったのか」部分は割と謎のまま話がスタートします。犯行計画がなぜ露見したのかが最後に明かされるんですが、設定が設定なので半分勘みたいなとこからスタートしてることもしばしば。

とは言え納得できる理屈が毎回仕上がっていて、分1話1話の情報量が濃く贅沢な読み応え。

試し読み 少年マガジンエッジ公式サイト

それじゃ、参りましょうか

倒叙系サスペンスのコーナーでした~。基本きつい上に読み始めると止まらなくなるので、時間ある時に読むことをお勧めいたします。

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