恥はかき捨て世は情け。旅情を掻き立てるロードムービー系おすすめマンガ

すべての道はロードに続く

ロードムービーとは旅が話の構成要素に組み込まれた人間ドラマ、「主人公が旅の過程で様々な人物・出来事と出会い、成長・変化する物語」のことを指します。言葉の通り元々映画で勃興したジャンルで、映画に限らず「ジャンル」として使われる名詞です。
一般的には現実世界を舞台とますが、「オズの魔法使い」のように、ファンタジー世界を舞台としていてもロードムービーと見做される作品もあります。海外だと「イージー・ライダー」や「パリ・テキサス」など、日本だと「母をたずねて三千里」とかが有名。指輪物語なんかもそうっちゃそうなんですが、あれはちがうロードです。
コロナ禍ですので疑似体験したい方にもどうぞ。漫画でも意識的な作品が増えると、「ロードコミック」と呼ばれる日がくるのかも?

【オススメ】北北西に曇と往け(入江亜季)

車と会話し、長い足でアイスランドと日本を股にかけ、サングラスがよく似合い、女に興味がない美青年――御山慧。探偵業を営む彼が、なんにもない野っ原で車をひっくり返すところから物語は始まる。
日常描写だけでも十分面白く、そこに謎とアクションも加味される多面的魅力を持つ作品。

1冊読んでの満足度がハンパないです。絵・台詞・キャラクター・ストーリー・空気感・読者サービス全てが高水準で、ついでに読むとアイスランドに旅行したくなるエッセイ的魅力まであるので恐れ入る。

とまあ絶賛してますが、読むと納得すると思いますよ。ついでに言うと、女性作家でこれほど機械を描くのがうまい人も珍しいと思います。
2016年~「ハルタ」、2021年~「青騎士」で連載。

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雪女と蟹を食う(Gino0808)

人生にどん詰まり、金も尽きつつある無職の男は、偶然街で出会った女の後を尾け、彼女の家に押し入り関係を持ってしまう。その妖艶な人妻――雪枝彩女は、「死ぬ前に北海道で蟹を喰いたい」という男の思いつきに同調し、なぜかふたりで北海道を目指すことに。一体彼女は何を考えているのか、そして旅が終わったら……? 謎めいた美女とめぐる、東北~北海道ロードムービー不倫サスペンス。

雪女と蟹を食う

第12話”バカな人”(2巻収録)より

現実逃避の総合デパートみたいな作品で、人生疲れてる人向け。1巻の展開が奇想かつ変なリアリティがあり、主人公の情けない心理描写についつい感情移入させられます。
彩女さんに魅了されながら進む旅は同時にカウントダウンでもあり、読めば読むほど現実に戻るエネルギーを奪われる魔性のマンガです。


性的要素強め。2019~2021年連載、7巻までが雑誌掲載分(「週刊ヤングマガジン」)で、8巻のみ「コミックDAYS」と「マガポケ」掲載で全8巻で完結

類似作 俺たちに明日はない(映画)

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【オススメ】ふしぎの国のバード(佐々大河)

粗野なようでいて紳士的、親切なようでいて外国人からぼったくる――著名な冒険者のイザベラ・バードは、通訳の伊藤鶴吉とともに1878年(明治11年)、「ふしぎの国」の奥地を目指す旅へ出る。文明開化過渡期の「滅びゆく」数々の文化に触れる彼女は、何を思い、何を記すのか?

作品中で紹介される文化・街並みは現代の日本人からしても不思議で、会話も(例外的な回もありますが)「イザベラに聞き取れた音」だけがはっきり読める形で表記されるため、読者は彼女とともに「異人」として150年前の日本旅行を追体験できる作りとなっています。


当時の日本文化はユニークな部分もあれば不潔でおぞましい部分もあり、イザベラ(あるいは読者)はそれに対して「自分の属するコミュニティとは違う」価値や珍しさ、不快感や低俗さを感じるわけですが、クールなようでいて確かな人間味を感じさせる鶴吉の言動に現れているように、先方も西洋文化に対して同様の感情を持っていることが忘れられていないのが素晴らしい。
「ハルタ」で2013年~連載。

試し読み ComicWalker

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