メビウスの輪から抜け出せない。回帰する時間の中でもがくループものマンガ名作選

きょんくんでんわー!

一定の同じ時間、同じ場面を繰り返す、ループ系マンガのおすすめセレクトです。相性がいいのかゲームに名作が多いジャンルですが、マンガでも多くのループものが生み出されています。「ループものである」こと自体が重大なネタバレになることも多いので、このサイトの方針上早い段階でループものであることがわかる作品以外は除外しています。
一応SFタグに入れてますけど、SFじゃない作品のほうが多いよーな気もします。

【オススメ】サマータイムレンダ(田中靖規)

和歌山市日都ヶ島、7月22日――幼馴染である小舟潮の訃報を聞き、故郷に帰ってきた専門学校生の網代慎平。懐かしい家族との団らんも束の間、慎平は潮の死に他殺の疑いがあることを聞かされる。島で囁かれる、自分に瓜二つの”影”を見たものは死ぬという噂。暗転の先にあるのは見覚えのある7月22日――タイムリープの中で避け難い死に立ち向かう、離島ホラー・アクション。

サマータイムレンダ

1巻より

本作の魅力はなんといっても先の読めない展開とスピード感、謎が収斂していく気持ち良さ。ループものとして独自の設定がいくつか付与されていて、これが「無限にやりなおせるわけではない」「失われるものもある」というスリルを作りだしているのも上手い。誰が人間(味方)かわからないタイプのホラーとしても推せますし、「影」が必ずしも敵とは限らない設定廻りがまたエモい。


アクションシーンが多くなってくるのは中盤から。ルールや布石が色々あり若干複雑ですが、カバー裏や話の合間で日記やブックレビュー、メモなどが差し挟まれ、理解を助け(あるいは謎を深め)てくれます。日記異様にリアルだと思ったら、娘さんに書いてもらったとのこと。

試し読み 少年ジャンプ公式サイト

【オススメ】紫色のクオリア(原作:うえお久光 漫画:綱島志朗)

彼女には人間がロボットに見える、それは変えられない彼女の絶対条件。そして私は彼女の友達……。
少し不思議な少女・毬井ゆかりと、波濤学のやや百合な日常譚は、あまりにもあっさりと崩れ去り、また再構築される。プラモデルのように、あるいは光のように――
クオリアから量子論的観測へと話題を転化し、混沌に混沌を積み重ねるラノベ界の怪作を、原作イラストレーターがコミカライズ。

紫色のクオリア

episode:04(1巻収録)より

原作は全1巻。マンガ版は1巻が短編「毬井についてのエトセトラ」相当、2~3巻に中編「1/1,000,000,000のキス」および掌編「if」を収録して全3巻で完結。1巻だけでも発想がぶっとんでてかなり楽しめますが、2~3巻でとんでもなく遠い所へ連れてかれちゃったな、という感じ。
クオリアとは主観的に体験される「質」、世界をどのように感じているかという主観的感覚のこと。

よくシュタゲと比較される作品なんですが、あっちでは軽く触れるに留めている(あるいはやりたくてもやれない)要素が前面に出てる印象です。
小説の漫画化作品として見ても非常にできがいいです(下のリンクは上がマンガ、下が原作小説)。おすすめ。「コミック電撃大王」で2011~2013年連載。

類似作 STEINS;GATE(ゲーム)、火の鳥(手塚治虫)、虎よ、虎よ!(アルフレッド・ベスター)など

試し読み LINEマンガ

コーヒームーン(牡丹もちと)

今日いい日になるだろう――雨の降り続く街で、度重なる不運に襲われながらも少女・ピエタはめげずに学校へ行く。なぜなら禍福はあざなえる縄の如し、最後には今日友人や家族に祝われる、幸せな一日になるからだ。でも、その日はなぜかいつもとちがった。今日を繰り返して、明日が来なくなるなんて、すごく幸せなことなのに?

コーヒームーン

第3話”大好きです”(1巻収録)より

一巻は息をつかせぬ傑作、二巻は話が膨らむ名作なんですが、三巻から急に膝から崩れる迷作になります。なんでや。そこまではほんとに面白い。
シリアスなのにギャグが面白く、陰鬱なのにキャラが生き生きしてます。ループするたび前の世界を「見捨て」ている違和感を言語化した展開はハッとしました。演出と引きがうまく、どんどんどんどん読まされます(2巻までは)。


今後どうなるにせよ既に忘れがたい物語となっており、これは紹介しないわけにはいかないです。あと目玉ぐるぐるのヒロインはいいよね! 2020年~「電撃マオウ」で連載。

類似作 はっぴぃヱンド。(有田イマリ)

試し読み ニコニコ静画

サイケまたしても(福地翼)

これといって取り柄のない、やや内にこもりがちの少年・葛代斎下。彼は幼馴染の枳殻蜜柑に誘われて「モグラ池」へ出かけ、誤って落下したことで「モグラ池で溺死すると、同じ一日をやり直すことができる」という自らの能力を発見することになる。トラブルに対処するため同じ一日を何度も繰り返した彼は、自分の能力を生かしたある活動を始めることになるのだが……。

表紙が毎巻凄く良くて、「福地先生こんな絵描くんだ」とびっくりしました。
序盤でやってることはおもくそ「恋はデジャ・ヴ」ですが、その設定で2巻のバトル展開に入るとかなり異様なことになり、そのへんが個人的に大変面白かったです。

序盤の斎下くんには感情移入できたんですが、途中から鬼メンタル化してしまうと遠い人になってしまい、「もったいない」作品という印象があります。常人では同じ一日の繰り返しに耐えられないので、しょうがないのかもしんないんですが。

試し読み 小学館eコミック

【オススメ】僕だけがいない街(三部けい)

漫画家を目指しながらも、なかなか売れないバイト青年・藤沼悟が時折遭遇する怪現象、「再上映(リバイバル)」――周囲で「何か」が起きた時、時間が巻き戻され、そこから抜け出すためにはかすかなヒントを見つけ出し、なんらかのアクションを起こして未来を変えなくてはならない。彼が母親とともに遭遇した「再上映」は、忌まわしい過去の事件と現在の彼を否応なしに結び付けることになるが――「マンガ大賞」と「このマンガがすごい!」3年連続ランクインの、タイムリープ・サスペンスの快作。

僕だけがいない街

#4″誘拐未遂 2006.05″(1巻収録)より

ややマイナー路線だった三部先生が、これ一作をもってメジャーに躍り出た感のある作品です。師匠にあたる荒木飛呂彦先生からの「三部を手伝ってくれてありがとう」みたいな帯も地味に話題になりました(帯は電子書籍版未収録)。絵的にはさほど影響を受けてないようですが、言われてみればモブや背景をさりげなく動かしつつ要素を隠す演出、主人公への容赦のなさなどは荒木先生の影響を感じます。


全8巻で完結、9巻は番外編。この9巻を読んでなかったのでせっかくだから最初から読み直してみましたが、5巻6巻のドンドォン! と畳みかける展開がやはり衝撃的で、筋を知ってても大変楽しかったです。ちょっと能力ご都合な気はしますけどルール明言されてないし、それで犯人当てとして面白くなってるので全然OK。

試し読み ComicWalker

はっぴぃヱンド。(有田イマリ)

とある田舎町に引っ越した少女・相田茜。姉が教壇に立つ学校で友達もうまくでき、幸せな毎日を送っていた。ただし絶対のルール、「毎日学級日誌を書く」約束を守らなければ、時間は巻き戻される――最悪の形で。第一話のインパクトがなかなかに強烈、その後もサスペンス色の強いストーリーで読者を惹き付ける一見日常系、その実ループ系ホラー・ミステリです。

ストーリーはだいぶちがいますが、正直ひぐらしっぽいです。序盤ののほほんとした空気が嘘のように誰も信じられなくなっていくこの物語がなぜ「はっぴぃ」なのか? 中盤から犯人当て要素も強くなり、悪意もどんどんむき出しになっていきます。


どう終わるのか割と楽しみにしてたんですが、「こうきたか」という感じです。とにかくデビュー作でループものをちゃんとまとめ上げたのが立派。
「月刊少年ガンガン」で2017~2018年連載、全5巻で完結。

試し読み SQUARE ENIX公式サイト

カラダ探し(原作:ウェルザード 漫画:村瀬克俊)

深夜0時になると学校に集められ、「赤い人」との鬼ごっこがスタートする。「赤い人」に全員殺されると”昨日”が繰り返される。ゲームから抜け出すためには、夜の校内に隠された身体のパーツを全て集めないといけない――殺されるために生き返らされる、悪夢系ループ漫画です。

元々携帯小説としてスタートし、人気を受けてコミカライズされました。マンガの世界に入り込めるとして、「どのマンガに参加したくないかランキング」とか取ると上位に来るんじゃないでしょうか。色々と荒っぽいホラーですがキャッチーな作品であることは間違いなく、「夜の学校で髪の長い少女に追い回される」というワードにピンとくるならぜひどうぞ。

「参加者」だけは記憶が持ち越されるので、以前得た情報を非参加者に提示して新たな情報を得たりしたりする捜査フェイズも楽しめます。

試し読み eBookJapan

【オススメ】盆の国(スケラッコ)

繰り返される一日、増え続ける「おしょらいさん」――お盆になると帰ってくる彼らを見る力を持つ少女・秋と、謎の青年・夏夫の「世界を元に戻すための冒険」を描く、うだるような暑い京都のループ系ジュヴナイル。

カルチャー誌フリースタイルの「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め!」1位。百鬼夜行と化していく真夏の街を少女がうろうろしたり、死んだ同級生とキャッチボールしたりする非現実的な世界と薄味の絵柄がマッチしていて、行ったことないけど夢によく出てくる街を懐かしく見るかのようでした。

他の方のレビューにもありましたが、「古くて新しいマンガ」という印象。全1巻で完結。

試し読み トーチweb

勇者たち(浅野いにお)

長い冒険を終え、尊い犠牲を支払い、ついに魔王を打ち倒した勇者たち。あとは日常に帰るだけ――このエンドロールが延々と繰り返される作品、それが「勇者たち」です。心の闇に囚われ、毎回少しずつ仲間が減る(時々補充される)タイトルカットを繰り返しながら、彼らは森を抜けだすことができるのか。

繰り返し心のひだに潜む闇を描いてきた人気作家が、かわいい絵柄でさらに真っ黒いやつをブチ上げてきた作品です。元々ヒバナの小冊子に掲載されていたものを、マンガワンで改めて短期集中連載。浅野いにおがループ系ファンタジーを描くといかに邪悪なものができあがるのか、「なんかおしゃれな人でしょー」と食わず嫌いの人もいい機会なので読んでみると結構びっくりすると思います。

時間軸自体は進んでいるようで、こういうタイプのループ系マンガはほとんど見た覚えがないです。浅野先生はなにげに毎回何かしら実験的なことをされますね……。今回はその他なぜか水木しげるタッチが一部採用され、不気味で滑稽な世界にそこはかとないサブカル感を味付けし、余計不気味にしています。全1巻で完結。

試し読み 小学館公式サイト

きょんくんでんわー!

一定の同じ時間、同じ場面を繰り返す、ループ系マンガのおすすめセレクトでした。相性がいいのかゲームに名作が多いジャンルですが、マンガでも多くのループものが生み出されています。「ループものである」こと自体が重大なネタバレになることも多いので、このサイトの方針上早い段階でループものであることがわかる作品以外は除外しています。
一応SFタグに入れてますけど、SFじゃない作品のほうが多いよーな気もします。

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