ある意味最もスリリング。パロディ・パスティーシュマンガ名作選

まえがき

漫画業界は割とパロディに寛容な伝統があります。梅津先生のあの顔とか、ガラスの仮面のあの顔とかは既に一種の「記号」として定着した感があり、細かく見て行けばパロディを全く使わない作家のほうが珍しいといえるかもしれません。
特に公式、非公式は問わず、いわゆるスピンオフも含まれています。大雑把な基準としては「悪ふざけ」もしくは「風刺」目的で他作品をマネしている作品ということになります。パスティーシュは小説で言うと文体を模倣することで、マンガで「パスティーシュしてるけどパロディではない」作品はあまり見ないので一緒くたにしています。

神罰(田中圭一)

玩具メーカーに勤めながらギャグ漫画家としてデビューした田中先生が、この一作を以て色んな意味でブレイクした色んな意味で記念碑的な作品。「(主に)手塚先生の絵で下ネタをかます」という明快すぎるコンセプトで当時大変話題になりました。

1ページめからBJと間久部がギャルゲーで和登さんを落とそうとしていて、これを読んだ時のワクワク感はいまだ記憶に残っています。いつの間にかバージョンが1.1にアップデートされ、内容が追加された模様。

内容は大体全部オリジナルで拍子抜けしたものですが、そのオリジナルが普通にひどい。この作品が業界に与えた「あ、これアリなんだ」というインパクトは健在です。日本の下ネタ漫画、またはパロディ漫画を語る上では外せない一作です。語らないなら別に外していいと思います。

【オススメ】#こんなブラック・ジャックはイヤだ(原作:手塚治虫 漫画:つのがい)

「おっ、田中先生の新作かな?」と思ったら違う人というこれまた個人的にびっくりした一作。タイトル頭の#はtwitterのハッシュタグで、そっちでこっそりマンガ描いてたら手塚プロに呼び出されて褒められた、というような経緯で出版されたなりあがり系BJパロディです。

ギャグ漫画として独特の言語センスがあり、パリピと化した間久部がいい味を出してます。絵といい間の取り方といいだいぶ憑依されていて、まじめに描いた話、特に後半の「青柳」「おるすばんピノコ」あたりは本家と見紛うほどの完成度。陳腐な表現ですが愛があるマンガです。

【オススメ】中間管理職トネガワ(協力:福本伸行 原作:萩原天晴 漫画:橋本智広,三好智樹)

「カイジ」に登場する帝愛グループ幹部・利根川幸雄を中心とした公式スピンオフで、パロディにも関わらず「このマンガがすごい! 2017」で第1位を獲得し、悪魔的売り上げをあげてるらしい話題作です。福本先生は色んなところでパロディ化されている(「神罰」にもあった)弄りやすい作風が特徴ですが、ガチでやるとここまで大ヒットするとは正直意外でした。今後パロディ作品が流行したらたぶんこの作品のせいです。

「部下にプレゼンやらせたらパワポ使って小洒落た演出をしてきた」というようなどうでもいい話が、あのノリでやるとやたら面白いという逆転の発想が売りです。むしろどうでもいい話のほうが面白い傾向が見られます。

「作風」そのものをギャグにしているので竜頭蛇尾になることもなく、ネタのセンスも良く、実際考えてみると欠点らしい欠点がない名作です。本編がアレなのでいかにして完結するのかはちょっと楽しみですが。

【オススメ】金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(原作:天樹征丸/金成陽三郎/さとうふみや 漫画:船津紳平)

ハイ、タイトルと表紙見ただけで絶対面白いとわかるやつです(原作読んでれば)。金田一少年の「犯人側」の苦労を描くスピンオフで、作品の性質上完全に本家をネタバレしてるので厳重注意。というか表紙見ただけでもネタバレになります。一応下にリンク貼るんで、未読の方は薄目で見てください。下の試し読みもページめくったら犯人わかります。

「マガポケ」で連載。ネタは本家の舞台裏で暗躍する犯人たちの苦労を描くもので、「言われてみればそうだな」みたいなシュールな笑いが楽しめます。最初期のノリがトネガワっぽかったんですが段々緩和されてきて、その次はとなりの関くんっぽくなってきました。

原作読んでた時は雪夜叉伝説のトリックに「いや、これひとりでどうやるの?」と思ったものですが、その謎がついに明かされるかと思いきや一番ヤバそうな土台部分がサラッと流されててガクッとなりました(その後の苦労は笑いましたが)。マジでどうやんだろこれ。

試し読み 講談社コミックプラス

金田一37歳の事件簿(原作:さとうふみや 漫画:天樹征丸)

一方本家コンビもなんかやり始めました。
数々の難事件を祖父譲りの推理力で看破する高校生名探偵・金田一一。連続殺人犯相手にも物怖じせずに推理を披露していたのは遠い昔、37歳となった彼はうらぶれた旅行会社の主任となり、高慢な顧客にペコペコ頭を下げる毎日を送っていた。
だがそれでいいのだ、もう謎なんて解きたくないのだと大人の対応を繰り返していた彼だったが、今度の随伴リゾート地は一味違った。過去3度に渡って「オペラ座館」殺人事件の発生した歌島を舞台に、彼は無事に推理をせずにツアーを終えることができるのか?

まあできるわけはなく、基本的には従来の路線を歩んで無事殺人事件が発生するわけですが、上のような事情ではじめちゃんが守りに入っているのがちょっと面白く新鮮味を持って読めました。一応続編なのでミステリでリンクだけ置いてもよかったんですが、これに関してはセルフパロディという扱いにしています。美雪との関係がどうなったのかは1巻終了時点で不明、明智サンは吸血鬼のごとくお変わりありません。もうちょっと変化あるキャラいてもいいんじゃないかとは思う。

トリックも基本相変わらずな感じですが、嵐の孤島でもネット使って情報が手に入るようになったり、加齢とともに時代に即した作りとなっています。新しくレギュラーキャラもちょいちょい出して、割と長く続けるつもりのようです。

試し読み コミックDAYS

3年B組一八先生(錦ソクラ)

都立雀中学校で巻き起こるさまざまなトラブルを体を張って解決し、心揺さぶる名言と18000点のロン上がりで生徒を仕留める名物教師、その名も一八(インパチ)先生! 初掲載が2012年、2019年に至ってもいまだ危険過ぎて単行本化されない「近代麻雀」最凶の問題作。

漫画界がパロディに寛容とは書きましたが、ものには限度があるということを僕たちに教えてくれる作品です。最初はややアウトみありつつも普通の作画だったんですが、無駄に高い画力をフル活用して毎回有名作品を完コピする方向に道を踏み外し舵を切り、その再現度で一躍ネットの有名作となりました。

キンマweb上で2019年現在ある程度読めますので、名前は知ってるけど読めてない人は伝説の生き証人になるチャンスかもしれません。なお、ちょっとググるとまだまだヤバいのが大量に存在することがわかります。

試し読み キンマweb

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