死して屍拾うものなし。剣戟が火花を散らす侍・武士系マンガ名作選

そこに七人の侍がおるじゃろ?

お侍のみなさんが活躍するマンガをチョイスしています。大体歴史ものですが、現代を舞台にお侍が頑張ったり、異世界でお侍がはりきったりする例もあったりします。そのへんについて考えだすと「和服を着て日本刀持っていればそれはお侍認定してよいのか? 士道とは?」とかまた妙な方向に悩みそうになるので、深く考えず直感的にご紹介していきたいと思います。

【オススメ】シグルイ(原作:南條範夫 漫画:山口貴由)

”暗君”徳川忠長の無聊を慰めるため、真剣を以て行われることとなった駿河城御前試合。そこに現れたのは片腕を失くした男と、片足を引き摺った盲目の剣士……。異形のふたりはいかにしてこのような姿と成り果てたのか、そしていかなる剣を振るうのか――

シグルイ

第一景″駿府城御前試合”(1巻収録)より

原作短編「無明逆流れ」を膨大な脚色で膨らませた、剣豪マンガの奇形にして名作。その圧倒的な筋肉描写、凄惨な戦闘場面の魅力、モノローグを多用した静的なストーリー進行、タガの外れたキャラクターたちはいずれも高水準、かつ異様です。

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十 ~忍法魔界転生~(原作:山田風太郎 漫画:せがわまさき)

戦国から時代は江戸へ移り変わり、平安の世の中で年を重ね病に倒れ、やがて無為に失われ行く鍛え上げた剣技――訪れる死を逃れるために魔道へ堕ちたのは、宮本武蔵、田宮坊太郎、天草四郎などいずれも知られた猛者ばかり。彼らが次に魔界転生させるべく目をつけたのは剣豪・柳生十兵衛三厳。しかしこの男、そう容易く手のうちとなるほど初心ではない――後続に多大な影響を与えた名作をコミカライズしたオールスター剣劇絵巻。

十 ~忍法魔界転生~

“ゲームのルール(二)”(5巻収録)より

知名度の高い剣豪が次々と人外のものとなり、これと十兵衛が順番に斬り結ぶ、というのが大まかなプロット。結果として味方、敵ともに少しずつ減っていくという消耗戦的な面白さがあります。そしてシンプルなプロットを実現するための、前半と後半を繋ぐ持ってき方が上手い。ちょっと強引な気もしますけど、見事なまでの屁理屈っぷりです。


かなり性的要素強め。終盤の積み木を崩すような畳みかけ方、ラストに残る余韻と終わり際も鮮やかでした。全13巻で完結。

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【オススメ】あずみ(小山ゆう)

徳川泰平の世を築くべく、密かに刺客として育てられた10人の子供たち。紅一点にして恐るべき手練れに育ったあずみは、育ての親である爺の指令の元、仲間たちとともに次々と「枝打ち」を行っていく。しかしその凶刃はやがて振り返り、彼女たちは追う側から追われる側へ、血塗られた道へと追い詰められていく……。

作中最強クラスのあずみですが、「女」であること、優し過ぎる性格が彼女の自由を奪い、悲劇に襲われ続ける茨の道を歩む姿は読む者に共感を与えずにおきません。それでいてちょっとお洒落なマントを羽織り、素早い動きと剛剣で敵をなぎ倒していく姿には、剣客と忍者と殺し屋のハイブリッドを見るような妙な高揚感があります。

続編にあたる「AZUMI」は時代背景が異なり、外見こそ同一ですが別人です。

試し読み 小学館eコミックストア

ヴィラネス −真伝・寛永御前試合−(原作:夢枕獏 漫画:雨依新空)

勝敗の真偽はおろか、実際に行われたのかすら怪しい寛永御前試合(寛永9年(1632年)?)――そこへツワモノどもが集う様を描く原作小説(「真伝・寛永御前試合」)のマンガ版なんですが、なぜか登場する剣豪は全員女体化され、しかも原作小説に追いついちゃったのでそこで連載がストップするという潔さでも話題を呼びました。

登場する剣豪は全員外道。とりあえず既刊3巻までで塚原卜伝と宮本弁之助の畜生対決が決着し、次なるサイコパスが登場したとこで中断してます。

詳しく調べたわけではないんですけど、wikiによると「シグルイ」の駿河城御前試合はこの寛永御前試合の「下書き」を基にした創作なのだとか。つまり徳川忠長絡みです。……「あずみ」にもいましたし、忠長公は結構な登場率ですね。というわけで忠長公の記事作ってみた次第です。

試し読み 講談社コミックプラス

るろうに剣心(和月伸宏)

幕末の争乱も過去のものとなった明治初期――廃刀令の出された日本を逆刃刀を携え、流浪人(るろうに)として放浪する一人の剣士がいた。彼が神谷活心流師範代である神谷薫と出会うことから、時代の波に消されつつある剣豪たちの最期の物語が動き出す。
ジャンプ黄金期の末尾を飾った正統派剣客ロマンにして、数度の映像化を果たした人気作です。

最初のほうはそうでもないんですが、途中から若干文明開化し過ぎた感のある個性派剣豪が次々と登場し、「十本刀」とかいう組織も出てきてこれに対抗すべく物理法則を無視した必殺技を会得したりと、バトルものとして大変正統派の展開が売り。かつ美形キャラも多くノリも明るく、少年・少女ともにとても人気の高い作品でした。

逆に年くって読むと「序盤が一番面白い」とかいう感想になったりもします。僕は今も昔も鵜堂刃衛が好きなんですが、1エピソードのみの敵役のくせにwikiに個人単位でページがあるあたり、同様の方は他にもいる模様。
どこかで見たようなキャラがちょいちょい出てくるんですが、大丈夫だったんですかねコレ。

鬼滅の刃(吾峠呼世晴)

何もなければいつまでも、家族とつつましくも幸せな生活を送るはずだった炭売りの竈門炭治郎。しかし一夜家を留守にした間に家族は惨殺され、ただひとり生き残った妹は鬼と化していた。妹を元に戻し、家族の仇を討ち、そしてこれ以上の悲劇を防ぐため――日輪刀を振るう鬼殺隊と人肉を貪る鬼の熾烈な争いを描く和風ホラーアクション。

鬼滅の刃

第6話″山ほどの手が”(1巻収録)より

なんとなく僕の中で「呪術廻戦」とセットの作品。吸血鬼的設定のバトルものとしてしっかり面白いですが、かなり大雑把なマンガという印象もあります(そのへんの話はネタバレ感想でします)。まっすぐで優しく努力家の主人公をはじめ、ダークな世界観で明るい(我の強い)キャラががんばるというセカイ系的なノリがあります。


また敵である鬼は元々人であり、炭治郎が彼らに対する慈しみを忘れないのも「屍鬼」的で好きですし、バトルものとしてはウェットでやや異色。強者たちが散り際に見せる一面にはグッとくるものがありました。このねじれた人間味こそ本作の妙味かもしれません。


僕が特に気になったのは、「ほぼノーリスクかつ短期間で強くなれる方法が、数回死にかけた後にやっと教えてもらえる(しかも隊員ではない子供から)。柱であれば常識レベルであり、修業期間が延びても現時点では不可能でも、育手がこれを教えない理由がわからない」「人の性格が唐突に変わる。特に伊之助。獪岳戦で覚醒した善逸も自分が強いことを知らなかったはず」の二点。呼吸も色んなのがありますが一部どうちがうのかよくわからないあたり、「聖闘士星矢」に通じるものを感じます。
ただ前者は「主人公が(初期時点では)突出した才能や能力を持たず」ヒロアカや呪術廻戦に比して「普通の人が前向きに頑張って成長する」内容とした結果、後者はテンポを優先した結果の描写不足だと思うので、多少辻褄が合わなかろうがどうでもいい気もします(でも気になる)。

試し読み 鬼滅の刃公式サイト

レイリ(原作:岩明均 漫画:室井大資)

家族を全て失い、命の恩人である岡部丹波に引き取られた少女・レイリは、やがて「戦って主君のために死ぬ」ことだけを志す死にたがりとして育つ。しかし剣の腕に優れ躊躇なく、さらに「ある理由」により唯一無二の人材である彼女は武田軍の勇将・土屋惣三に見出され、武田家衰亡の顛末に深く関わることになる。

レイリ

第7話”任務”(2巻収録)より

原作者は「寄生獣」「ヒストリエ」の人で、ところどころに刺さる表現を配置し、全体として見てもさすがの完成度。室井先生も意図してかどうかかなり寄せている印象で、正直原作版も読んでどう足し算がされたのか確認してみたい作品です。
武田勝頼、信勝、岡部丹波、土屋惣三といった武田家末期のキャラクターが登場(チョイスがシブい)。信長も出てきますが肖像画そっくり。


岩明先生は「雪の峠・剣の舞」でもたしか武田家絡みの話を描いてて、あのへんの武将が好きなのかもしれません。
歴史ものとしては巻数もコンパクトで手をつけやすいです。「別冊少年チャンピオン」2015~2019年連載、全6巻で完結

試し読み コミックシーモア

恋情デスペラード(アントンシク)

「ある目的」のためにひとり旅を続ける女渡世人・紋子。傘に羽織りは防弾仕様、義手の右手に長ドス持って、悪党どもから化け物までかっさばいてご覧にみせる――主人公は侠客、世界観は西部劇、ナレーションは浮世絵風、効果音はアメコミと色々ブチ込んだ結果ユニークな絵面を見せる、ウェスタン旅ガラス物語。

SFともファンタジーとも言いがたいなんでもありの世界観、切った張ったと恋とコメディ、紋子の謎の過去と和洋折衷の刺客たち、ゴリゴリ肉付けされていく物語はごった煮感あって楽しいです。あと女の子がなにげにかわいい。

冷静に考えるとかなり変なマンガなんですが、ポップな絵柄で無理矢理収拾つけてる感があります。実写化とかするとカオスなことになりそう。全6巻で完結。

試し読み ゲッサン公式サイト

【オススメ】サムライせんせい(黒江S介)

どういう訳か現代にタイムスリップしてしまったひとりの武士――見るもの全てが物珍しく、かつ勤皇攘夷に震える魂には情けなくも見える。日本男子の気概はどこへ行ってしまったのか? 老人の好意により子供塾を定宿とし、コミュニティに溶け込んでいきつつもここは自分の居場所ではないと感じる生真面目で頑固な男、その名を武市半平太といった。

無名の武士かと思いきや意外と有名人でした。あんまりチャンバラするマンガではなく日常コメディに近いですが、途中から過去篇とかやると俄然シリアスな展開になります。さらに正体不明の男たちも現れるのですが、さて彼らの正体は――?

画力・構成共に上手く、半平太のキャラクターも無骨で魅力的。あえてお堅い半平太を持ってきたことで生じる軋轢に妙味があります。ドラマ化されてそちらも好評の模様、歴史の説明も丁寧で、幕末について知識ゼロで読んでも問題ないです。

試し読み pixivコミック

きり侍(渡瀬悠宇)

おばあちゃんの遺品として受け取った桐箪笥の中にあった男ものの裃を見つけたことから、彼女の夢の世界はより変な方向へシフトすることになる。某動画SNSで生配信中の「ひめP」こと向田幸子の後ろに現れたのは、ちょんまげ裃のお侍。
このお侍がウケて視聴者は倍増、しかしある出来事から炎上したふたりは、最後に視聴者にとんでもないものを生配信することを決意する――

きり侍

「きり侍」前編より

メンヘラコメディとでもいうのか、ギャグを挟みつつ、幸子の人生のヘビーさが徐々に明かされる構成になっています。前後編で110ページですがその間でしっかり2回盛り上げるストーリーテリングはさすが。他にスタッフとの合作「ホンマ怪談」、いじめを題材にした掌編「あの子猫の未来を私は知らない」を収録。表紙はピンクですが結構重めの話が多いです。

あと動画のコメントがリアル。「ふしぎ遊戯 玄武開伝」終了後だいぶ間が空いての新刊のようで、ハマってらしたんだろーなーと。
侍もあっさりPC操作慣れたり現代への順応性が高く、「いかにもなタイムスリップしてきた武士」からテンプレ外してくる感じがあります。少女マンガなのでイケメンで性格いいですがそこはね……。忠長公とかタイムスリップしてこられても困るしね……。

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もっこり半兵衛(徳弘正也)

月々一両の給料で江戸の夜廻りを引き受けたお人よしの剣豪、人呼んでもっこり半兵衛。かつては藩の召し抱えで剣術指南をつとめたこの男は、なぜこうまで落ちぶれたのか、そしてその割には陽気に日々を過ごす彼の仕事内容、そして秘められた内心とは?
Webマンガとして不定期に発表され、マイナー作品ながらも高い評価を受けるハードボイルド時代劇。

もっこり半兵衛

第一話”月並半兵衛だよオレは!!”(1巻収録)より

徳弘先生にしか出せないカオスな読み応え。高い評価を「誰に」受けているかというと、知る限りamazonレビューとSNSと僕にです。ブラック過ぎるギャグ、普通に出てくる性器描写は相当ギリギリ(というかややアウト)、強いニヒリズムを感じさせつつも温かい人情味で救済されるストーリーは、そのまま主人公の心情を代弁するかのようです。

「優しい殺人鬼」を下品(かつ危険)なギャグとともにお届けするというスタンスも徳弘先生らしい作品で、「狂四郎2030」との類似点が多く見られます。ただし江戸をぐるぐる回ることを宿命づけられた半兵衛は既に現役ではなく、殺戮劇と性的な描写の多さにも関わらず日常系のような穏やかさがあります。エンタメ作品ですが、長くひとつのことをしている人特有の凄みがありますね。

試し読み S-MANGA

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