ポストアポカリプスとは
文明、体制崩壊後の世界を描くSFのサブジャンルのひとつです。アフターホロコーストという別名もあるらしいですがあんまり見ない。現在進行形で崩壊していく終末ものとは似てますが別ジャンルで、秩序の崩壊した非管理社会を描く作品であることが多いです。
Apocalypseには「黙示録」という意味があり、何がしか宗教的なモチーフが用いられることが多いというか、一種のお約束になっています(そうではない作品もある)。原因は戦争、疫病、怪物(ゾンビとか)や侵略者、天災、種の寿命など色々。食料やインフラも当然崩壊するので、多くの作品がサバイバルとしての側面を持ちますが、崩壊後新しい文明が復興してることもままあります。ポストアポカリプスであること自体がネタバレになる作品は省きます。
北斗の拳(原作:武論尊 漫画:原哲夫)
汚物を消毒することでおなじみ、日本で一番有名なポストアポカリプスです。「世紀末=破滅」という方程式を世間に定着させ、破滅後の世界ではモヒカンにして肩パッドつけてバイクに乗らないといけない、という変なステレオタイプを作り、しかも未だにそのへんが健在というのも凄い。
あらすじとしては、そーゆー世界で秘伝の拳法を身に着けた屈強な若者がアタタァアタタァヒデブゥするマンガです。
というか割とモロにマッドマックスですが、これは意図的に似せてるらしいです。ハート様とかジャギとか敵役も愛らしい方々が多く、アミバにいたってはアニパロ誌「ファンロード」でマスコット扱いされるなど、キャラ萌えマンガとしても変な方向に盛り上がってました。
試し読み コミックシーモア
7SEEDS(田村由美)
全35巻。ついに完結しました。「男でも読めるおすすめの少女マンガ」とか見るとほぼ100パー入ってる名作で、読んだことなければ問答無用で一読することをおすすめします。
余談ですがこの作品は連載中に東北の震災があり、おそらくそれを受けて物語の筋を変更(あるいは加速)しています。当時の自粛ムードはかなり高圧的なもので、難しい状況下でこの作品のとった切り回しはかなり見事なものだったと個人的に思います。
試し読み 月刊flowers公式サイト
宝石の国(市川春子)
世界は海に沈んだ。かすかに残された不毛な大地では、微生物によって無機物化された28人の宝石が、先生と一緒に学校で暮らしている。彼らを砕き、装飾品として持ち帰るために現れる月人との終わりない戦争に憧れるフォスフィフォライトは、残念ながら硬度が低く不器用なために博物誌の仕事を与えられたのだが……。
登場人物は美形ぞろいで、キャラの見分けがつきづらいのが難点です。
主人公のフォスにいたっては作中ズタボロになることもあって人格的にもかなり変化し、「誰だおまえ」というぐらい人相が変わります。この規格が統一された感じが、無機的な世界観とマッチしているのも確かですが。
万人向けとはいいませんがこれは好きな人は絶対好き。SF好きならチェックしてみて欲しいです。
試し読み モーニング公式サイト
エグゾスカル零(山口貴由)
かつてそれぞれに牙なき人々を守るヒーローとして活躍したエグゾスカル戦士たち。冷凍睡眠から目覚めた彼らが目にしたのは、荒廃した都会の光景と滅びゆく人類の姿だった――
山口先生の作品には反逆者がよく登場しますが、主人公・葉隠覚悟もまたしかり。このマンガを通じて彼の行う仕事は主に他人の行動にケチをつけることです。もうちょっときれいに言うと彼の正義と他の戦士の正義はそぐわないため、エグゾスカル戦士同士の争いが多く勃発し、このバトル部分がこのマンガのメインコンテンツとなります。
全8巻。例によってスターシステムが採用されています。できれば「衛府の七忍」の前に読んでおきたい作品。
少女終末旅行(つくみず)
一言で言えば、「ユー」と「ちーちゃん」のふたりが崩壊した巨大都市をケッテンクラート(ハーフトラック)で彷徨う話です。食料や水を求めて迷走し、時には生き残った人と出会い、あるいは文明の名残に触れて過ぎ去った過去へ思いをはせ、「トトトトト」と音をたててのんびり走る車上でたわいない話に花を咲かせます。
廃墟と化した世界は今も少しずつ崩壊していて、その中でふたりの少女だけがにぎやかです。食料を探して、補給して、また食料を探して、それでその先どこへ辿り着くのか。
試し読み くらげバンチ
Dr.STONE(原作:稲垣理一郎 漫画:Boichi)
突如として人とツバメだけが石化され、世界は何の抵抗もできずあっけなく滅びた。3000年の時が流れ、あらゆるものが緑に覆われた時代――意思を一度も途切れさせずに時間を数え続けた少年・千空は目を覚まし、人類を救うためにあらゆる科学知識を動員して「石器時代から200万年分の人類の進化」を目指し始める!
知人が面白いというので読んでみたらマジで面白かったです。土台となる技術が原始時代なのでやり方がわかっていても遠回りをしないといけない場面が多々あり、ステップを具体化してひとつひとつタスクを埋めていける千空の泥臭い行動力がおそらくこの作品最大の魅力。
「週刊少年ジャンプ」で2017年~連載。
試し読み 少年ジャンプ公式サイト
賭博の巨人(原作:メーブ 漫画:オギノユーヘイ)
「アクマゲーム」のメーブ先生原作の新作。暴力と性欲、そしてギャンブルだけが支配する無秩序の世界で、なぜかバスを引っ張る怪力巨漢が知略と筋肉で並み居るギャンブラーを打ち負かしていく……みたいなやつです。
個人的には腕相撲ジェンガの終わり方とかひどくて好き。ギャグ系ギャンブル漫画としてコンセプトが一番はっきり出ている気がします。
全3巻で完結。結構期待してた作品なので短期終了は残念ですが、やることはやった感はあります。
試し読み BookWalker
ソウルリキッドチェインバーズ(環望)
「女の子は血と錆と、獣の笑みでできている」――22世紀、ゾンビの氾濫により「死者の遊園地」と呼ばれるようになった世界で、あらゆる危険を察知・回避し安全なルートを提供する「案内人」を営む青年・エーミール。今度の依頼者は気味の悪い仮面の巨漢を従え、やたら口の悪い熊のぬいぐるみを胸に抱えた「少しおかしい」お嬢様ロッテ。だがガイド先の観光名所でゾンビに包囲された彼は、この物語がかよわい女の子を護る騎士譚ではなく、腕にチェーンソーや重火器を取り付けてゾンビを駆逐する少女のバイオレンスアクションであることを知る――
ソウルリキッドチェインバーズ、3巻に合わせて1、2巻も買ってみた、とおっしゃる方が多くてありがたいです。
1、2巻ではエロス&グロテスク、フリークス趣味全開でぶっ通してますが、実はその裏に真のテーマが散りばめてあって、それが3巻で前面に押し出されるという形になってます。 pic.twitter.com/4CNm4C6FGI— 環望 (@tamakinozomu) 2017年9月23日
万人向けの路線とは言い難く、続きそうな感じですが3巻で完結。見た目ほどグロくなく、ストーリーもちゃんとしてて意外に読むと間口の広い作品だったりもするんですが……。
ところでロッテの服はあれ、どういう作りになってんですか?
試し読み BookLive!
人間のいない国(岩飛猫)
人が滅んだ世界で、機械――ゴーレムたちは変わらず人間への奉仕を続けていた。ただひとり目を覚ました少女は、自分が誰なのかもわからずに街を彷徨い、謎の「三角頭」に追われる最中に優しいゴーレム・バルブと出会う。バルブの庇護のもと生活を始めた彼女に、いくつもの疑問がつきまとう。他の人たちはどうなったのか、なぜ彼女だけが生き延びているのか、そして彼女の記憶がよみがえる時、バルブとの関係は――?
建物や服装が中東風で、雰囲気、世界観そのものが不思議な魅力を持ち、どうも読んでて「不思議の海のナディア」を連想します。乗り物や飲食店などもロボットの活躍で正常に保たれてるのがポスアカとしては異色。
これはebookjapanマンガ大賞に投票お願いしますって書くために描いていたイラストだったけど人にお願いする態度じゃないなと思って没った絵だけどシイが可愛く描けたので投稿しておくね(岩飛猫) pic.twitter.com/ETibqVEkrp
— 『人間のいない国』公式アカウント (@ng_no_inai_kuni) January 26, 2021
ドラマの主軸は少女とゴーレムの交流にあり、世界の謎はある種二の次。うじゃうじゃゴーレムいるので割とにぎやかですけど、無人都市好きにはおすすめしたい作品です。
「月刊アクション」で2019年~連載。
試し読み Webアクション
おはようサバイブ(前原タケル)
致死率99%、治療法はなし――南アフリカで発生した新型ウイルス「デネブ」の大流行により、街並みはそのままに人類の生活はその形を大きく変えた。
病の床に倒れつつも生き延びた少年・ナユタは、デネブ未感染の少女・夢を連れて荒れた東京の街を彷徨う。時として、なんのためにこれ以上生きる必要があるのかと迷いながら――そんなふたりの前に山手線の車両で生活する謎のカップルが現れ、サバイバル技術を習いながら共同生活を送ることに?
パンデミック系ポストアポカリプスと流行を追いつつ、日本漫画史に確かな汚点を残したと言っていいでしょう。ラストバトルはひどい。本当にひどい。ネタ漫画好きは必読(※褒めてます)。
なんだかんだ言って独特のポップな感性や女の子の造形は好きですし、次回作出たら普通に読むと思います。
天国大魔境(石黒正数)
物語はふたつの視点を交互に移動しながら紡がれる。ロボットが整備する空のない施設で育てられる子供たち、崩壊した都市を「天国」目指して旅をしながら、「人食い(ヒルコ)」と呼ばれる怪物を狩る少年・マルとボディーガードのキルコ……どことなく大友克洋チックな世界観で描かれる、「四季賞」デビューの石黒正数アフタヌーン帰還作。
なんとなくヒューマンな作家というイメージがついちゃった石黒先生ですが、そういえば101号室(脱出ゲーム)の作者なんだよな、ということを思い出させられました。普通にグロ描写とかある近未来SFサバイバルです。
それほど目を惹く斬新な特徴はないですが、当然のように面白く、加えて構成と情報の出し方がうまい作品です。ひとつひとつのきっかけがさりげなく、その出し方自体が美しい。
あとは石黒先生なので、なんか仕掛けがある可能性もあります。この構成で何もないということはない気がする。「月刊アフタヌーン」で2018年~連載、「このマンガがすごい!2019」オトコ編1位。
試し読み モアイ