音楽には国境も次元の差もない! コマの中から音が聞こえる、おすすめ音楽マンガ

楽譜だって二次元だ

読んで面白かった音楽系マンガのご紹介です。音楽はプレイすること自体が楽しく、練習はハードでストイックで継続的、夢や成功、挑戦や挫折を多く含むなど物語としての盛り上げ要素が盛りだくさんで、マンガ媒体でも名作が多いです。音が聞こえるかどうかは想像力次第ではありますが、大体聞こえそうなところを集めてるつもりです。

ロック

日々ロック(榎屋克優)

勉強できない、顔も良くない、ついでに言えばギターもそんなにうまくない――弾き語りやライブはまるで評価されず、興奮すると服を脱ぐクセのあるロック好きの高校生・日々沼拓郎。このままいけば実家の八百屋を継ぐことになりそうな彼の未来には、誰も想像し得ないロックスターへの道が拓かれていた――泥臭い青春描写と大ゴマに歌詞を太字で描くライブ表現で画面上に「音」を乗せる、挫折と栄光のロックンロール・コミックス。

日々ロック

第31話”今日も朝日はのぼる”(4巻収録)より


「BECK」がレッチリならこちらはタイマーズでしょうか。全6巻ですが1巻で「1部」というくくりになり、巻をまたぐと時間がかなり飛びます。最初はアレなんですが拓郎の成長に呼応するかのように画力が向上し、ライブも迫力を増していきます。

お洒落ではないですが野蛮で土着的なエネルギーがあり、読者を作品世界に引き摺り込むパワーは圧巻。マンガ上で音を鳴らすというひとつの解答例的作品だと思います。

試し読み ソク読み

ジャズ

坂道のアポロン(小玉ユキ)

神経質な男子高生の西見薫はひょんなことから川渕千太郎という不良青年と知り合い、クラスメイトの迎律子の実家に遊びに行ったことがきっかけで、川渕とセッションをする間柄となる。ドラマーの川渕、トランペットを吹く桂木淳一、美術部の深堀百合香。それぞれの関係性や恋愛感情がもつれ合い、複雑な人間模様が繰り広げられていく――「このマンガがすごい!」2009年オンナ編第1位の、レトロでほろ苦い60年代青春譚。
坂道のアポロン

演奏シーンが実に楽しそうで、ジャズの入門書としても恰好です。エンディングも完璧。


少し調べれば「サウンド・オブ・ミュージックが日本公開」「コルトレーン死去」といった作中のニュースから、作中の正確な時期を断定することができます。ビートルズ全盛の時期、学生運動が最も盛んだった時期。そしてモダン・ジャズの最盛期でもあります。

【オススメ】BLUE GIANT(石塚真一)

元バスケ部、宮本大。目標は世界一のサックスプレイヤーになること――河原での独学から始まり、初めてのライブ、バンド仲間との出会い、そしてプロフェッショナルへのステップアップをしていく宮本のひた向きな姿を描くジャズ漫画の名作。

BLUE GIANT

第7話”NEW POINTS”(「BLUE GIANT SUPREME」1巻収録)より

とにかく宮本が真っ直ぐで、努力を惜しまず人を恨まないその姿勢には敬意すら感じます。「なりたい」ではなく「なる」という姿勢において、彼の目指す世界一とは夢ではなく、目標と呼ぶべきものです。


「ビッグコミック」で2013~2016年(全10巻)、続編のSUPREMEが2016年~連載。SUPREMEは「至上の」みたいな意味で、A Love Supremeというアルバムが元ネタ。
かなりの確率で宮本の演奏は聞く相手を感動させるので、ジャンル全然ちがいますが読んでて「響」を連想しました。

試し読み 公式サイト

スインギンドラゴンタイガーブギ(灰田高鴻)

舞台は戦後まもない東京。福井から上京し、かつての姉の恋人「オダジマタツジ」を探す少女・とら。道端でベースを弾き、歌って踊れるスター性満点の彼女に目をつけたのは通りすがりの二人連れ。その片方が探し人であるとは知らぬまま彼らと共演することになったとらは、米軍兵士の一部の間でカルト的な人気を獲得することに……アチャラカなノリで薄暗い戦後ジャズの世界を描く。

スインギンドラゴンタイガーブギ

第1話”虎狩り”(1巻収録)より

上ふたつに比べると演奏シーンはあっさり目。女の子に全体的につぶれ饅頭的なかわいさがあり、ギャグはボケ倒しのクラシックな面白さ、舞台はアンダーグラウンド寄りなのに雰囲気が健全で、懐かしいのに既視感がない不思議な新鮮さがあります。ちょっとガロっぽさもある。


とりあえず1話読んで、とらちゃんにちょっとでもグッときちゃったら読んで損はないです。凄くキャッチーというわけではないんですけど、読ませます。「モーニング」で2020年~連載。
とらが一話で歌っている「Tiger rag」の他、作中登場曲や流れてそうな曲を集めたプレイリストが公式であります(Spotify/Apple Music)ので、ご参考まで。

試し読み コミックDAYS

クラシック/オーケストラ

青のオーケストラ(阿久井真)

かつて天才少年として名を知られたが、今はバイオリンをやめてしまっている少年・青野一。しかしある少女と出会うことから、再び音楽の世界が彼を呼び戻す――

かなり「コマから音が聞こえる」感の高いマンガで、青野くんが進学した先のオーケストラ部での活動が物語の主軸になりそうな展開です。


作画レベルは高く演奏シーンが魅力的で、キャラは立っていてストーリーは王道。青野に親身な教師の「その時にしか出せない音がある」みたいな台詞が、なぜか妙に印象に残っています。

試し読み 裏サンデー

G線上のあなたと私(いくえみ綾)

寿退社直後に婚約破棄された小暮也映子は、「G線上のアリア」を耳にしてなんとなーく大人のバイオリン教室に通い始める。年下男子加瀬理人、嫁姑問題を抱える北河幸恵と共にヘタクソトリオとして日々「楽しめる」程度の練習に精を出す彼女たちだったが、理人の兄が講師の久住真於の元婚約者だったことが明らかになる。それぞれ色々抱えつつ当面の目標は発表会、そしてその後は――?

これからプロになれるわけでもない人たちが、音楽教室で練習に精を出すマンガです。裏表ある人間関係と一筋縄ではいかない恋愛模様が実にリアルで、常にニコニコしてる真於先生の笑顔が怖い。なかなか男性作家には出せない味だと思いますが、特にいくえみ先生はこういうの上手いです。

軽妙な掛け合いが基調で、「今更習い事とか……」という人も読んでみると気が楽になるかも。

試し読み ココハナ

あのこにもらった音楽(勝田文)

かつて神童と呼ばれながらも、ある事故から輝かしいピアニストとしての道をドロップアウトした32歳の蔵之介。芸妓だった母を若くして亡くし、父の顔も知らぬまま梅木旅館で働く高校生の梅子。兄妹のような関係のふたりには、ブラームスの子守歌が流れる穏やかなつながりがあった。しかしある日急転直下、梅子のパパが現れて――? 時の移ろいとさまざまな事件をささやかなクラシックで彩る連作短編集。全2巻、愛蔵版全1巻。

設定だけ見るとなかなか重いんですが、いざ読むとかなりゆるいマンガ。逆に言うと登場人物が過去に囚われず、さっぱりしてます。

とりわけ梅子の自然体ぶりが飾ってなくて心地良く(少女マンガのヒロインらしくはない)、そんな彼女が一度だけ本気で怒るシーンがあるんですが、そこ見てこの子が割と好きになりました。

【オススメ】未完成ピアニスト(筒井美雪)

白木音楽高校内で実力別に振り分けられるCクラスの、しかも最下位。しかしピアノ界のサラブレッド・一ノ宮王輝は、誰もいない放課後練習する彩坂二葉の本当の実力と、その煌めくような音を知ってしまった。だがしかし、二葉は人がいると上手に弾けない――かくて始まる恐怖と毒舌の鬼指導!
あがり症の天才ピアニスト少女と俺様系エリートが奏で合う、恋と笑いのクラシック・ラブコメ。

未完成ピアニスト

Score.1(1巻収録)より

天才ピアニストとエリート貴公子の音楽ラブコメというと「のだめカンタービレ」を連想しますが、ヒロインのキャラが違い過ぎてまあ別モノです。王輝くんも甘いマスクで余裕ぶってて実は独占欲強い、みたいなタイプ。

少女マンガとしてかなり王道ですが、演奏シーンもヒロインが常に爆弾抱えてるわけで、そちらもサスペンスフルで読ませます。キャラクターも魅力的。

ちなみにおまけマンガがやたら面白いです。多方面に感謝を示しつつ貪欲に笑いをとりにくる姿勢が美しい。

試し読み 白泉社公式ページ

僕のジョバンニ(穂積)

東京の大会で優勝したことに対してなぜかふてくされた態度をとり、ともに演奏する相手がいないことを不満に思う少年、鉄雄。しかし彼が孤独に奏でるチェロの音は、海難事故に遭ったひとりの少年・橘郁未を浜辺へと引き寄せていた。音楽を介して親友となったふたりだったが、やがて彼の天才性が剥き出しになるにつれ、無邪気に音楽を楽しめていた時間は終わりを告げる――

僕のジョバンニ

第4話”太陽”(1巻収録)より

トリッキーな作風で売り出した穂積先生ですが、今回は(たぶん)正統派の音楽ドラマ。古典的テーマである「天才と凡人」、残酷な才能の世界を若干偏執的な友情と絡めて描く……みたいなやつですね。港町とこういうのはなぜか相性がいい。

キャラクターの登場のさせ方が上手で、どいつもこいつも海から流れ着いたりカツアゲしたりハッタリぶちかましたりと何かしらやらかしながら現れ、早々に作品内に居場所を見付けるあたりの処理はさりげなく鮮やか。台詞回しの布石なんかもさすがだな、と思います。

その他

【オススメ】カラオケ行こ!(和山やま)

森岡中合唱部部長の岡聡実は、合唱コンクール会場に突然現れたヤクザの男に「カラオケ行こ!」と誘われ、どういうわけか男――成田狂児にカラオケのコーチを依頼される。理由を聞けばろくでもなく、しかも他のヤクザまで続々と現れて……先生と生徒、大人と子供、学生とヤクザ、奇妙なふたりの関係と友情を描くブロマンス・コメディ。

カラオケ行こ!

“カラオケ行こ!(前篇)”より

名作。飄々とした狂児とダウナーな聡実の会話はコメディ色満載、伏線というか小道具というかアレを最後に持ってくるのも上手いし、話の持ってきかたが突飛かつ自然。和山先生の芸幅の広さを伺わせます。BL要素がうっすらありますが、匂わせる程度なので苦手な方も安心。

めっちゃ話題になった作品なので、紹介するまでもないかもですが。初出は2019年コミティアで発表した同人誌(前後篇)、および描き下ろしを収録。

試し読み コミックシーモア

はしっこアンサンブル(木尾士目)

声が低いのをコンプレックスにし、「人と関わらない仕事ができるかもしれない」という理由で都立端本工業高校に入学した藤吉晃。しかし鉄メンタルで合唱部を作ろうと孤立奮闘する同学年の木村仁は、他の誰にも気付かれることのなかった晃の声の素晴らしさをまくしたて、一緒に合唱をやろうと彼を熱烈に誘う――音楽(と工業)がつなぐ青春を描く、ちょっとオタッキーな声楽マンガ。

はしっこアンサンブル

第2話”吊られる男”(1巻収録)より

ツナギを着て歌を歌う若者たちという表紙のイメージがなんとなくニッチで、どことなくゴチャったものを好む木尾先生の趣味性がにじみ出ています。合唱部(候補)の生徒たちはなかなかクセっぽく、そのへんをどうかきくどいていくのかという仲間集めでまず難行しますが、そのクセモノたちがどんな化学変化を見せてくれるのかという期待が高まります。


同じ文化部ものの「げんしけん」よりも設定的にはちょっとシビア。声が主張し過ぎないことを目指す合唱部に「声にコンプレックスを持つ」少年を誘うというのは、下手を打つと「数合わせ」のように感じさせかねない難しさがあるんですが、そこをなぜか音楽理論を説明することで解決して見せる木村のキャラクターがいいですね。彼ひとりで作品全体の明度を底上げする、好きな方向にまっすぐぶっ壊れた好感の持てるキャラクターです。

試し読み モアイ

とんかつDJアゲ太郎(企画・原案:イーピャオ 漫画:小山ゆうじろう)

「ただアゲてぇんだ。フロアを!! 豚肉を!!」渋谷のとんかつ屋のせがれとして生まれた勝又揚太郎は、初めて訪れたクラブで衝撃を受け、DJととんかつ屋のどちらも行う「とんかつDJ」を目指し修行の日々を送ることになる。数々の出会い、そして恋……。果たして揚太郎に待ち受ける運命とは!?

基本ギャグで、ゴリ押しでとんかつとDJを結び付けてきますが、意外と少年漫画的な熱さを持ち合わせ、燃える展開を見せてくれたりします。


クラブとかDJとかよくわかんない人にもおすすめできる、ちょっと変だけど王道の青春マンガです。

ましろのおと(羅川真里茂)

津軽三味線を荷物に、単身青森から東京へ出て来た青年、澤村雪。「自分の音」を見失い、気分屋で音にムラがある彼だったが、高校での部活動やライバルたちとの出会いにより、少しずつ音に対する意識が変化していく。
雪を祖父の後継者と見做していた母からすると、彼は次第に失望の対象となり、その結果青森にいた兄もまた物語の渦中に深く巻き込まれていくことになるのだが……。

主人公に呼応するかのようにガラリと切り替わる、強引なストーリー展開が特徴。

放浪音楽ものとしてスタートしたかと思いきや熱い部活対抗もの、音楽修行展開にセールス戦略など、使えそうなテーマを片っ端からブチ込んでくるので全く先が読めず、総合的に通常のマンガよりもかなり展開が早い印象を受けます。

試し読み 講談社コミックプラス公式サイト

ハニカムチャッカ(大川ぶくぶ)

ライブをやれば花が地に咲きバンビと小鳥が虹を駆け、重病人はおもむろに立ち上がり墓場から死者が蘇る。音楽界の超新星HONEY COME CHATCKA側のAサイド、盲目的なファンであるカリメロ・チャカピーのBサイドが交互に描かれる、アシッドJ-Popザッピング4コマ。

ハニカムチャッカ

“SWEET SWEETS A面”より

いつもの大川先生っぽいのはBサイド。Aサイドもいつものっちゃあいつものなんですけど、「この人こんなに色んな女の子の表情描けるんだ」とか思いました。普通にSACHIがかわいい。

試し読み ツイ4

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